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読む前に押さえたいこと
「髄膜炎といえば発熱・頭痛・項部硬直」と覚えていても、実際の患者では典型的な症状がすべて揃うとは限りません。特に細菌性髄膜炎は、診断のための検査と並行して迅速に治療を進める必要がある神経救急疾患です。看護師には、頭痛や発熱だけでなく、意識・瞳孔・けいれん・呼吸循環・皮膚所見などを経時的に捉える視点が求められます。この記事では、髄膜炎の原因から髄液検査、治療、看護観察、髄膜炎菌の感染対策まで、最新資料をもとに整理します。
髄膜炎は「脳と脊髄を包む髄膜に炎症が起こる病態」
この章の要点髄膜炎は、脳と脊髄を取り囲む組織である髄膜に炎症が生じる病態です。原因には細菌、ウイルス、真菌、結核菌などの感染症のほか、まれに悪性腫瘍や薬剤など感染症以外のものもあります。なかでも急性細菌性髄膜炎は生命を脅かす可能性が高く、迅速な診断と治療を要します。
原因は年齢、免疫状態、基礎疾患、生活環境などによって変化します。成人の細菌性髄膜炎では肺炎球菌や髄膜炎菌が重要で、リステリア菌なども患者背景によって考慮されます。そのため、「髄膜炎」という診断名だけで一律に治療するのではなく、原因と患者背景を考える必要があります。
細菌性
- 主な原因の例
- 肺炎球菌、髄膜炎菌、Hib、B群溶血性レンサ球菌、リステリア菌など
- 治療を考えるときの基本
- 神経救急として迅速な抗菌薬治療が必要
ウイルス性
- 主な原因の例
- エンテロウイルス、ヘルペスウイルスなど
- 治療を考えるときの基本
- 原因によって支持療法または抗ウイルス薬を検討
その他の感染性
- 主な原因の例
- 結核菌、真菌、寄生虫など
- 治療を考えるときの基本
- 原因に応じた特異的治療が必要
非感染性
- 主な原因の例
- 悪性腫瘍、薬剤など
- 治療を考えるときの基本
- 原因疾患への対応が中心
| 分類 | 主な原因の例 | 治療を考えるときの基本 |
|---|---|---|
| 細菌性 | 肺炎球菌、髄膜炎菌、Hib、B群溶血性レンサ球菌、リステリア菌など | 神経救急として迅速な抗菌薬治療が必要 |
| ウイルス性 | エンテロウイルス、ヘルペスウイルスなど | 原因によって支持療法または抗ウイルス薬を検討 |
| その他の感染性 | 結核菌、真菌、寄生虫など | 原因に応じた特異的治療が必要 |
| 非感染性 | 悪性腫瘍、薬剤など | 原因疾患への対応が中心 |
発熱・頭痛・項部硬直は重要だが、全部揃うとは限らない
この章の要点髄膜炎の代表的な症状には、発熱、頭痛、項部硬直、意識状態の変化、羞明、悪心・嘔吐があります。けいれん、昏睡、四肢の筋力低下などの神経症状を伴うこともあります。ただし、これらがすべて出現するわけではありません。
成人の細菌性髄膜炎では「発熱・項部硬直・意識障害」を古典的三徴として扱うことがありますが、三徴すべてが揃わない患者も多く報告されています。したがって、「項部硬直がないから違う」「意識清明だから違う」と単独の所見から除外するのは適切ではありません。成人細菌性髄膜炎の大規模コホートでも、古典的三徴が揃ったのは44%でした。
乳児は成人とは症状が異なり、活動性低下、起こしにくい、易刺激性、哺乳不良、弱く持続する啼泣、大泉門膨隆などがみられることがあります。年齢によって「典型像」が異なる点は重要です。
発熱・頭痛・嘔気・嘔吐
- 捉え方
- 頻度の高い症状だが、単独では髄膜炎を診断できない
項部硬直
- 捉え方
- 髄膜刺激を示唆するが、陰性でも除外できない
意識状態の変化
- 捉え方
- 重症化や脳実質への影響、頭蓋内圧亢進なども考える
けいれん
- 捉え方
- 重症例で出現し得る。発作後の意識状態も経時的に確認
麻痺など局所神経症状
- 捉え方
- 頭蓋内病変の併存も考え、早期に共有する
紫斑・点状出血
- 捉え方
- 髄膜炎菌による菌血症・敗血症を考える重要所見
乳児の哺乳不良・易刺激性・大泉門膨隆
- 捉え方
- 成人と異なる症状として注意する
| 観察する症状・所見 | 捉え方 |
|---|---|
| 発熱・頭痛・嘔気・嘔吐 | 頻度の高い症状だが、単独では髄膜炎を診断できない |
| 項部硬直 | 髄膜刺激を示唆するが、陰性でも除外できない |
| 意識状態の変化 | 重症化や脳実質への影響、頭蓋内圧亢進なども考える |
| けいれん | 重症例で出現し得る。発作後の意識状態も経時的に確認 |
| 麻痺など局所神経症状 | 頭蓋内病変の併存も考え、早期に共有する |
| 紫斑・点状出血 | 髄膜炎菌による菌血症・敗血症を考える重要所見 |
| 乳児の哺乳不良・易刺激性・大泉門膨隆 | 成人と異なる症状として注意する |
項部硬直・Kernig徴候・Brudzinski徴候が陰性でも髄膜炎は否定できない
この章の要点髄膜刺激徴候は髄膜炎を疑う手掛かりですが、「陰性なら髄膜炎ではない」と判断できるほど感度の高い検査ではありません。
2019年のメタ解析では、項部硬直やjolt accentuationの感度はおおむね40〜60%、Kernig徴候・Brudzinski徴候は20〜30%程度と推定されました。つまり、髄膜炎患者の相当数で典型的な髄膜刺激徴候が認められない可能性があります。
看護師・看護学生にとって大切なのは、徴候の名前だけを暗記することではありません。「発熱+激しい頭痛」「意識状態の変化」「けいれん」「神経症状」など、患者全体の経過から髄膜炎を疑う視点を持つことです。
細菌性とウイルス性の違いは「髄液所見を組み合わせて」考える
この章の要点髄膜炎の診断では、腰椎穿刺によって採取した髄液が重要です。WHOは、髄液の外観、白血球数と分画、蛋白、糖、髄液/血糖比、Gram染色などを組み合わせて評価することを強く推奨しています。PCRなどの分子検査も原因病原体の同定に役立ちます。
典型的な細菌性髄膜炎では、髄液白血球増加と好中球優位、糖低下、髄液/血糖比低下、蛋白上昇を認めます。一方、ウイルス性ではリンパ球優位で、糖が比較的保たれるパターンが典型です。ただし、病期、年齢、病原体、抗菌薬投与前後などによって典型像から外れるため、1項目だけで細菌性・ウイルス性を断定してはいけません。
開放圧
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 上昇
- ウイルス性髄膜炎の典型
- 正常〜軽度上昇
外観
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 混濁することが多い
- ウイルス性髄膜炎の典型
- 透明
白血球
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 著明に増加
- ウイルス性髄膜炎の典型
- 中等度増加
細胞分画
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 好中球優位
- ウイルス性髄膜炎の典型
- リンパ球優位
髄液/血糖比
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 低下
- ウイルス性髄膜炎の典型
- おおむね正常
蛋白
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 著明に上昇
- ウイルス性髄膜炎の典型
- 正常〜軽度上昇
髄液乳酸
- 急性細菌性髄膜炎の典型
- 抗菌薬投与前では上昇しやすい
- ウイルス性髄膜炎の典型
- 通常正常
| 髄液所見 | 急性細菌性髄膜炎の典型 | ウイルス性髄膜炎の典型 |
|---|---|---|
| 開放圧 | 上昇 | 正常〜軽度上昇 |
| 外観 | 混濁することが多い | 透明 |
| 白血球 | 著明に増加 | 中等度増加 |
| 細胞分画 | 好中球優位 | リンパ球優位 |
| 髄液/血糖比 | 低下 | おおむね正常 |
| 蛋白 | 著明に上昇 | 正常〜軽度上昇 |
| 髄液乳酸 | 抗菌薬投与前では上昇しやすい | 通常正常 |
腰椎穿刺は重要だが、検査のために抗菌薬を遅らせてはいけない
この章の要点細菌性髄膜炎を疑った場合、原則として禁忌がなければ抗菌薬投与前に血液培養と腰椎穿刺を行い、原因菌をできるだけ正確に特定します。しかし最も重要なのは、「検査が終わるまで抗菌薬を待つ」という意味ではないことです。WHOは、検査が遅延または延期される場合でも治療を遅らせてはいけないと強く推奨しています。
また、髄膜炎疑いの患者全員に「腰椎穿刺前CT」が必要なわけではありません。WHOは頭部画像検査をルーチンには推奨しておらず、GCS 10未満、局所神経徴候、脳神経障害、乳頭浮腫、成人の新規けいれん、重度の免疫不全などがある場合には、腰椎穿刺前の頭部画像検査を推奨しています。
循環・呼吸状態が不安定な場合、重篤な出血リスク、穿刺部位周囲の感染などがある場合も腰椎穿刺を延期する必要があります。その場合も、細菌性髄膜炎が強く疑われれば治療開始を優先します。
腰椎穿刺の禁忌・延期理由がない
- 基本的な考え方
- 採血・腰椎穿刺をできるだけ早く行い、その後速やかに治療
GCS<10、局所神経徴候、乳頭浮腫、新規けいれんなど
- 基本的な考え方
- 頭部画像を検討し、腰椎穿刺の安全性を評価
腰椎穿刺・CTによって抗菌薬開始が遅れそう
- 基本的な考え方
- 検査完了を待たず抗菌薬を開始
循環・呼吸が不安定
- 基本的な考え方
- まず生命維持・全身状態の安定化と治療を優先
| 状況 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 腰椎穿刺の禁忌・延期理由がない | 採血・腰椎穿刺をできるだけ早く行い、その後速やかに治療 |
| GCS<10、局所神経徴候、乳頭浮腫、新規けいれんなど | 頭部画像を検討し、腰椎穿刺の安全性を評価 |
| 腰椎穿刺・CTによって抗菌薬開始が遅れそう | 検査完了を待たず抗菌薬を開始 |
| 循環・呼吸が不安定 | まず生命維持・全身状態の安定化と治療を優先 |
細菌性髄膜炎は「原因菌が分かってから治療」では遅い
この章の要点急性細菌性髄膜炎は神経救急です。WHOは、疑った段階で経験的な静注抗菌薬をできる限り早く投与することを強く推奨しており、「1時間以内」は救急疾患における重要な目安としています。日本の2026年版ガイドラインの改訂内容でも、病院到着から1時間以内の抗菌薬開始を目標とする考えが紹介されています。
抗菌薬は、年齢、免疫状態、頭部外傷・脳神経外科手術歴、想定される起炎菌、地域の薬剤耐性状況などをもとに経験的に選択し、培養や薬剤感受性の結果が判明したら適正化します。WHOでは、セフトリアキソンまたはセフォタキシムを基本とし、リステリア感染リスクがあればアンピシリンなどを追加し、肺炎球菌の耐性が多い地域ではバンコマイシン追加を検討しています。
なお、WHO 2025ではリステリアの年齢リスクとして「60歳超」を挙げている一方、日本2026年版の講演レポートでは50歳以上を一つの区切りとしています。これは対象地域や疫学、薬剤耐性状況を踏まえて推奨が設計されているためで、日本の臨床記事では国内ガイドラインを優先して扱うのが妥当です。
副腎皮質ステロイドについて、WHO 2025は非流行地域の急性性炎疑いに対し、静注ステロイドを最初のと同時に開始することを強く推奨しています。所見が性炎と一致しない場合は中止するとしています。
PCRが陽性・陰性だけでは決めない―培養と髄液所見も合わせて判断する
この章の要点髄膜炎の診断ではPCRなどの分子検査が急速に普及しています。日本の2026年版ガイドラインでもFilmArray髄膜炎・脳炎パネルの適正使用が主要な改訂点の一つです。迅速に病原体を推定できることは治療の適正化に役立ちます。
ただし、PCRだけで診断を完結させるものではありません。WHOはPCRを推奨する一方、結果を臨床症状、髄液所見、Gram染色、培養と合わせて解釈するよう求めています。特に細菌性髄膜炎では、培養と薬剤感受性検査が原因菌の同定と抗菌薬選択に重要で、PCRで置き換えるべきではありません。
看護師が検査値を見る際も、「PCR陰性=髄膜炎なし」「髄液が透明=細菌性ではない」と一項目だけで捉えず、症状と治療前後の経過を含めて確認することが大切です。
看護では「神経」「呼吸循環」「敗血症」を同時に観察する
この章の要点髄膜炎患者では、発熱や頭痛だけを追うのではなく、神経学的変化と全身状態を同時に観察します。特に重要なのは、意識状態をJCSやGCSなどで継続して比較し、瞳孔の大きさ・左右差・対光反射、麻痺などの局所神経症状、けいれんの有無と発作後の状態を経時的に捉えることです。WHOは、意識障害やけいれん、循環・呼吸障害を伴う症例では集中治療が必要になる場合があるとしています。
同時に、体温、血圧、脈拍、呼吸数、SpO₂などを確認します。髄膜炎菌などでは髄膜炎だけでなく敗血症を来し、低血圧、呼吸状態悪化、紫斑・点状出血、DIC、ショックへ進展することがあります。特に「皮疹が増えた」「血圧が下がった」「意識が急に悪くなった」という変化は、単なる発熱の経過として扱わず迅速な共有が必要です。
また、細菌性髄膜炎では水分・電解質管理も重要です。WHO 2025は「髄膜炎だから一律に水分制限する」という対応を推奨しておらず、循環血液量と電解質を評価し、SIADHなどが疑われる場合に個別に調整する考え方を示しています。
意識
- 見るポイント
- JCS/GCS、反応速度、普段との違い
- 早く共有したい変化
- 急速な意識低下
瞳孔
- 見るポイント
- 径、左右差、対光反射
- 早く共有したい変化
- 新たな左右差、反応低下・消失
運動・神経症状
- 見るポイント
- 麻痺、構音、眼球運動など
- 早く共有したい変化
- 新規の局所神経症状
けいれん
- 見るポイント
- 開始時刻、持続時間、部位、意識
- 早く共有したい変化
- 持続・反復、回復しない意識障害
呼吸・循環
- 見るポイント
- BP、HR、RR、SpO₂、末梢循環
- 早く共有したい変化
- 低血圧、呼吸悪化、急激な全身状態変化
皮膚
- 見るポイント
- 点状出血、紫斑、拡大
- 早く共有したい変化
- 非退色性皮疹・急速な紫斑増加
体液・電解質
- 見るポイント
- IN/OUT、尿量、Naなど
- 早く共有したい変化
- 循環不全や電解質異常を疑う変化
治療
- 見るポイント
- 抗菌薬開始時刻、投与状況
- 早く共有したい変化
- 治療開始の遅れ、投与中断、重篤な副作用
| 観察項目 | 見るポイント | 早く共有したい変化 |
|---|---|---|
| 意識 | JCS/GCS、反応速度、普段との違い | 急速な意識低下 |
| 瞳孔 | 径、左右差、対光反射 | 新たな左右差、反応低下・消失 |
| 運動・神経症状 | 麻痺、構音、眼球運動など | 新規の局所神経症状 |
| けいれん | 開始時刻、持続時間、部位、意識 | 持続・反復、回復しない意識障害 |
| 呼吸・循環 | BP、HR、RR、SpO₂、末梢循環 | 低血圧、呼吸悪化、急激な全身状態変化 |
| 皮膚 | 点状出血、紫斑、拡大 | 非退色性皮疹・急速な紫斑増加 |
| 体液・電解質 | IN/OUT、尿量、Naなど | 循環不全や電解質異常を疑う変化 |
| 治療 | 抗菌薬開始時刻、投与状況 | 治療開始の遅れ、投与中断、重篤な副作用 |
意識低下・瞳孔変化・徐脈と血圧上昇は頭蓋内圧亢進を考える
この章の要点髄膜炎では脳浮腫、水頭症、膿瘍などによって頭蓋内圧が上昇することがあります。WHOは、急速な意識レベルの変化、血圧上昇、徐脈、瞳孔反応消失などを切迫した脳ヘルニアでみられ得る徴候として挙げています。
そのため、「眠そうになった」「反応が鈍くなった」という変化を発熱や疲労だけで説明せず、直前のJCS/GCSや瞳孔、バイタルサインと比較することが重要です。
頭蓋内圧亢進時の全身管理では、WHOは医療チームによる対応として頭部を15〜30度挙上すること、低酸素・高二酸化炭素血症・低血圧を避けること、体温を管理することなどを挙げています。重症例では集中治療下での管理が必要です。
髄膜炎菌が疑われたら、患者だけでなく「誰が分泌物に曝露したか」を確認する
この章の要点「髄膜炎ならすべて同じ感染対策」というわけではありません。原因病原体によって感染経路は異なります。髄膜炎菌は鼻咽頭に存在し、患者や保菌者から飛沫や咽頭分泌物を介して伝播します。
日本の「侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕」では、患者が他者に感染させ得る期間を症状出現7日前から有効な治療開始後24時間までとしています。医療現場では、髄膜炎菌が疑われる場合に施設の感染管理手順に沿って速やかに飛沫曝露を防ぎ、接触歴を確認することが重要です。
特に、適切な個人防護具なしで気管挿管、口腔・咽頭吸引、mouth-to-mouth蘇生などを行い、患者の咽頭分泌物へ直接曝露した医療従事者は濃厚接触者として評価されます。一方、患者を担当したというだけで、分泌物や飛沫へ直接曝露していないすべての医療従事者が予防内服対象になるわけではありません。
侵襲性髄膜炎菌感染症は、日本では診断後「直ちに」届出が必要な五類全数把握感染症です。届出は医師が行いますが、看護師も髄膜炎菌が疑われる所見や曝露があれば、主治医・感染管理部門へ速やかに情報共有する必要があります。
治療後も聴力・神経症状・認知機能などの後遺症を確認する
この章の要点髄膜炎は「解熱して感染が治まれば終了」とは限りません。WHOによると、細菌性髄膜炎を生存した人のおよそ5人に1人に長期的な後遺症が残る可能性があります。聴力障害、けいれん、四肢筋力低下、視覚・言語・記憶・コミュニケーションの障害などが挙げられています。
とくに聴力障害は重要です。WHO 2025ガイドラインは、原因を問わず急性髄膜炎患者に対し、退院前に正式な聴力評価を行い、できなければ退院後4週間以内に実施することを強く推奨しています。ただし、この推奨のエビデンス確実性は「very low」であり、実施方法は各国・施設の体制に合わせて考える必要があります。
看護では、回復期にも「聞き返しが増えた」「会話の理解が以前と違う」「麻痺が残った」「記憶や行動が変化した」などを患者・家族から確認し、必要なリハビリテーションや専門評価につなげる視点が重要です。WHOは退院前および退院後のフォローアップで後遺症を評価することを推奨しています。
ワクチンで予防できる髄膜炎はあるが、すべての髄膜炎を防げるわけではない
この章の要点細菌性髄膜炎の一部はワクチンで予防できます。WHOは、髄膜炎菌、肺炎球菌、Hibに対するワクチンを、細菌性髄膜炎を予防する重要な手段として位置づけています。
日本でもHibワクチンなどの導入によって細菌性髄膜炎の疫学は変化しており、2026年版国内ガイドラインも、ワクチン導入後の起炎菌の変化を踏まえて改訂されています。
ただし、髄膜炎には多数の病原体や非感染性の原因があり、ワクチンがすべての髄膜炎を予防するわけではありません。「ワクチン接種歴があるから髄膜炎ではない」という除外の仕方も避ける必要があります。
髄膜炎で覚えておきたいのは「典型症状」よりも「疑った後の動き」
この章の要点髄膜炎では、発熱・頭痛・項部硬直を覚えることも大切ですが、実臨床ではそれ以上に「典型症状が揃わなくても疑う」「細菌性を疑ったら治療を遅らせない」「髄液所見は複数項目を組み合わせる」「意識・瞳孔・けいれん・呼吸循環を経時的に見る」という流れが重要です。
特に看護師は患者のそばで変化を継続して捉えられる職種です。「さっきより反応が鈍い」「瞳孔所見が変わった」「紫斑が増えた」「血圧が下がった」といった時間軸での変化は、診断名以上に重要な情報になることがあります。髄膜炎を一つの症状セットとして覚えるのではなく、神経救急・感染症・敗血症を同時に見る疾患として理解すると、臨床で知識を使いやすくなります。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026南江堂(監修:日本神経学会/日本神経感染症学会)・2026年2026年3月発行。細菌性髄膜炎と単純ヘルペス脳炎の国内最新ガイドライン。成人・小児の症状、診断プロセス、遺伝子検査、腰椎穿刺の禁忌、腰椎穿刺が遅れる場合の治療、経験的治療、ステロイド、ワクチン、抗補体薬使用者への対応などをCQ形式で扱い、治療項目では推奨グレードを明記している。原資料を開く
- WHO guidelines on meningitis diagnosis, treatment and careWorld Health Organization・2025年小児・成人の急性髄膜炎を対象とする国際ガイドライン。システマティックレビューとGRADEを用い、髄液検査、PCR、頭部画像、腰椎穿刺、抗菌薬開始時期、経験的抗菌薬、副腎皮質ステロイド、頭蓋内圧管理、水分管理、後遺症・聴力評価などについてstrong/conditional recommendationとエビデンス確実性を示している。原資料を開く
- MeningitisWorld Health Organization・2025年髄膜炎の定義、原因、年齢による原因菌の違い、感染経路、成人・乳児の症状、敗血症症状、後遺症、ワクチン、腰椎穿刺と抗菌薬治療の基本原則を確認した。公衆向けファクトシートであり、推奨グレードを示す診療ガイドラインではない。原資料を開く
残り3件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- 侵襲性髄膜炎菌感染症発生時対応ガイドライン〔第二版〕国立感染症研究所 実地疫学研究センター/感染症疫学センター/細菌第一部・2025年侵襲性髄膜炎菌感染症の定義、重症化、飛沫による伝播、感染させ得る期間、濃厚接触者の定義、医療従事者の咽頭分泌物曝露、二次感染予防、届出について確認した。主対象は自治体・保健医療関係者であり、臨床治療ガイドラインとは目的が異なる。原資料を開く
- Sensitivity and specificity of meningeal signs in patients with meningitisJournal of General and Family Medicine・2019年髄膜炎患者における項部硬直、jolt accentuation、Kernig徴候、Brudzinski徴候の診断精度を評価したメタ解析。髄膜刺激徴候の感度には限界があり、陰性所見だけでは髄膜炎を除外できないことを確認した。原資料を開く