時間に合わせて読む
目次この記事でわかること9項目+
点線の用語を長押しすると、短い解説が開きます。タップ・クリックでも確認できます。
読む前に押さえたいこと
質問しても冷たく返される、教員と指導者の説明が違う、強い口調に頭が真っ白になる。そんな日が続くと、「この指導者は外れだ」「もう実習も学校も辞めたい」と感じることがあります。ただし、すべてを相性の問題にすると、患者安全に関わる確認不足も、不適切な言動も見えにくくなります。この記事では、「切り分け=問題を種類ごとに分けて考えること」を使い、その場で止まる場面、教員への相談方法、心身を守る目安、進路を決める前に確認したい条件を順に整理します。
「外れ」と感じたら、まず5つの問題に分けて考える
この章の要点最初の結論は、指導者を「当たり・外れ」で評価するより、起きていることを5つの問題へ分けることです。同じ「怖い」でも、必要な対処は違います。
2024年の国内質的研究では、基礎看護学実習を終えた看護専門学校2年生9名への面接から、指導者・教員間の説明の違い、声をかけるタイミングの難しさ、助言が得られない状況、恐怖感や威圧感などが、別々の困難として整理されました。ただし、女性9名のみを対象としたCOVID-19流行期の研究であり、全国の学生に同じ頻度で起こるとはいえません。ここで重要なのは頻度ではなく、「つらさの中身は一つではない」という点です。
実習は学生個人と指導者個人だけの関係ではありません。厚生労働省の養成所向け指導ガイドラインは、養成所と実習施設が調整し、適切な実習指導体制を確保することを求めています。病院では、学生の実習指導を調整する責任者を明記することも示されています。つまり、関係調整が必要な問題を、学生一人の我慢やコミュニケーション能力だけに帰すべきではありません。
①患者安全の問題
- 具体的なサイン
- 手順が不明、許可の有無が曖昧、患者の状態が変化、説明が食い違い安全に実施できない
- 最初の行動
- 実施を止め、指導者または教員へ確認する
②学習上の不明確さ
- 具体的なサイン
- 指摘はあるが理由・評価基準・次の行動が分からない
- 最初の行動
- 何をどう直すか、具体的な一項目を確認する
③連携・体制の問題
- 具体的なサイン
- 教員と指導者で指示が違う、担当者がつかまらず報告できない
- 最初の行動
- 経過を整理し、教員に調整を依頼する
④尊厳・権利の問題
- 具体的なサイン
- 人格否定、嘲笑、差別的・性的言動、脅し、意図的な排除、身体への攻撃
- 最初の行動
- その場の安全を確保し、別の相談経路へ共有する
⑤心身の危機
- 具体的なサイン
- 眠れない、食べられない、動悸や涙が続く、実習へ行けない、自分を傷つけたい
- 最初の行動
- 実習対策より健康相談と安全確保を優先する
| 切り分け | 具体的なサイン | 最初の行動 |
|---|---|---|
| ①患者安全の問題 | 手順が不明、許可の有無が曖昧、患者の状態が変化、説明が食い違い安全に実施できない | 実施を止め、指導者または教員へ確認する |
| ②学習上の不明確さ | 指摘はあるが理由・評価基準・次の行動が分からない | 何をどう直すか、具体的な一項目を確認する |
| ③連携・体制の問題 | 教員と指導者で指示が違う、担当者がつかまらず報告できない | 経過を整理し、教員に調整を依頼する |
| ④尊厳・権利の問題 | 人格否定、嘲笑、差別的・性的言動、脅し、意図的な排除、身体への攻撃 | その場の安全を確保し、別の相談経路へ共有する |
| ⑤心身の危機 | 眠れない、食べられない、動悸や涙が続く、実習へ行けない、自分を傷つけたい | 実習対策より健康相談と安全確保を優先する |
手順や許可が曖昧なら、患者の前で自己判断して進めない
この章の要点看護行為を安全に実施できる確信がないときは、いったん止めて確認します。指導者が怖い、忙しそう、前回は同じ方法でよかったという事情があっても、患者の状態と今回の許可を飛ばして進める理由にはなりません。
文部科学省の看護学教育モデル・コア・カリキュラムは、臨地実習で学生が看護行為を行うには、実習指導者または教員の指導・監視が必要であり、学生の知識・技能と患者の状態を考慮して実施の許可を与えるとしています。必要な監督の程度は行為や学生の到達度、患者の状態、学校・施設の運用指針で変わります。したがって、「ほかの学生が一人でしていた」「昨日できた」だけでは、今日の患者に実施できる根拠になりません。
報告では、長い説明よりも、判断に必要な情報を先にそろえます。「患者さんの今の状態」「予定している行為」「不明な点または変化」「確認したいこと」の順です。たとえば架空の学習例なら、「Aさんは清拭前より呼吸が速く、会話が途切れます。予定していた全身清拭は開始していません。まず状態を一緒に確認していただけますか」と伝えます。これは診断ではなく、変化を示して評価を依頼する報告です。
指導者が見つからないときも、患者のそばを無断で離れたり、許可のない行為を進めたりせず、実習要項で定められた代替の連絡先へつなぎます。患者の状態が急に悪化した、転倒・誤薬などが起きた、切迫した危険がある場合は、担当者探しに固執せず、近くの看護師や教員へ直ちに知らせます。共通の数値基準をこの記事で作らず、患者の普段との違い、経時変化、症状、測定値を組み合わせ、施設の手順に従います。
強い指摘の後は、「次に変える行動」を一つ確認する
この章の要点指摘の意味が分からないまま反省だけを深めても、次の実践は変えにくいものです。安全を確保した後に、評価対象と修正行動を具体化します。
聞く内容は三つで十分です。「患者さんの何を優先して捉える場面だったか」「私のどの行動・報告が不足していたか」「次回は何を、どの時点までに示せばよいか」です。「何がダメでしたか」だけでは、人格評価のように受け止めやすく、指導者も広い話をしがちです。場面を限定すると、学習課題へ戻しやすくなります。
架空の学習例として、「報告が遅い」と言われた場合は、「今後は、どの変化を見た時点で、どの項目を先に報告すればよいですか」と確認します。答えが「もっと勉強して」だけなら、「本日中に確認すべき病態と観察項目を一つずつ教えてください」と狭めます。理由や期待水準が得られない、質問するほど威圧が強くなる場合は、学生の聞き方だけで解決しようとせず、教員へつなぎます。
ここで、患者安全のための短く強い制止と、人格を傷つける言動は分けて考えます。「今は触らないで。転倒の危険があります」のように、危険と必要な行動が示される制止には教育上の理由があります。一方、「こんなことも分からないなら向いていない」では、何を直すかが分からず、個人全体への評価になっています。厳しさの有無より、目的・内容・方法を見ます。
教員と指導者の説明が違うときは、学生が一人で正解を選ばない
この章の要点説明が食い違ったときは、どちらかの顔色を見て選ぶのではなく、患者の状態と根拠を共有し、教員と指導者に調整してもらいます。連携の不一致は、学生一人で背負う課題ではありません。
同じケアでも、患者の状態、実施時刻、施設の手順、実習目標が違えば、適切な方法は変わります。そのため「先生はこう言った」「指導者は違うと言った」だけでなく、①いつ、②どの患者状態で、③何を目的に、④どの方法を提案され、⑤今は何が変わったかを整理します。先ほどの国内研究でも、指導者が変わるたびに内容が違うことや、教員と指導者の視点の違いに学生が翻弄される経験が報告されています。
伝え方の例は、「昨日は患者さんが○○の状態で、教員から△△と助言を受けました。今日は□□が変化し、指導者から別の方法を提示されています。今日の安全な方法と観察点を、お二人で確認していただけますか」です。調整依頼として伝えると、誰が正しいかを学生が裁く構図を避けられます。
その場で合意できない場合は、患者への実施を保留し、学校・施設の実習要項にある指揮系統へ上げます。緊急性のない学習計画なら後でカンファレンスを設定できますが、患者の安全に直結する判断なら、その場で責任を持てる看護師または教員の確認が必要です。
「厳しいだけ」で片づけず、尊厳を損なう言動は別に扱う
この章の要点患者安全の指導が必要でも、人格否定や差別、暴力が正当化されるわけではありません。教育内容と伝え方を分けて記録し、相談します。
相談を急ぎたい例には、人格や能力を一括して否定する発言、皆の前で繰り返し嘲笑する、質問や報告を意図的に遮断する、性別・性自認・性的指向・国籍・障害・家庭背景などへの差別的言動、性的な質問や接触、物を投げる・身体へ危害を加える、成績や進路を使って口止めする、といった行為があります。反復性が判断材料になる場合はありますが、身体的・性的な行為や切迫した脅しは、一回でも安全確保を優先します。
文部科学省は大学に対し、学生が安心して学習・研究できる環境を組織全体で整え、相談窓口を機能させることを求めています。また、行為者に悪意がなかったとしても、ハラスメントに当たり得ると説明しています。ただし、個別事案の認定には目的、状況、内容、影響などの事実確認が必要です。学生が「これは確実にハラスメントだ」と証明し終えるまで相談を待つ必要はありません。
看護職の倫理綱領は、人の尊厳と権利を尊重し、不利益や危害、不適切な行為に気づいたときは安全確保へ動くことを示しています。学生自身への言動だけでなく、患者への不適切な対応を見た場合も、患者の前で一人で対決するのではなく、事実を教員や別の責任者へ共有します。
教員へは「事実・影響・希望」の順で相談する
この章の要点相談では、感情を消す必要はありません。ただし、事実・影響・希望を分けると、学校が安全確認と調整を始めやすくなります。
事実には、日時、場所、関係者、直前の患者状況と課題、言われた言葉や行われたこと、同席者、その後に取った行動を記します。正確な言葉を覚えていなければ、引用符で断定せず「この趣旨の発言」とします。影響には、報告できなくなった、許可が得られずケアが進まない、睡眠や食事に影響した、実習へ行けないなど、学習・患者安全・健康への変化を書きます。希望には、指導場面への教員同席、評価基準の確認、担当変更、指導者と教員の調整、一定期間の距離確保、健康相談などを挙げます。
相談の例は、「9月25日10時ごろ、ナースステーションで報告中に、指導者からこの趣旨の発言を同級生の前で受けました。その後、質問すると同じことを言われるのが怖く、患者さんの変化を報告するのが遅れそうになりました。明日の実習前に、報告方法の確認と、当面の指導場面への教員同席を相談したいです」です。これは相手の性格を決めつけず、必要な調整を示す言い方です。
記録は学校が認めた方法で保管します。患者の氏名、部屋番号、顔写真、電子カルテ画面、疾患と生活情報を個人のSNS、私物クラウド、友人とのチャットへ載せてはいけません。日本看護協会の倫理綱領も、秘密保持と個人情報の適正な取扱いを求めています。相談記録と患者情報を混ぜないことが大切です。
最初の相談先は担当教員や実習担当教員が基本ですが、その人が当事者である、取り合ってもらえない、報復が心配という場合は、実習責任者、学科長、学生相談室、保健室、ハラスメント相談窓口など別経路を使います。口頭相談後は、受付日時、担当者、合意した次の行動と期限を自分用に残します。具体的な窓口と手続は、実習要項・学生便覧・校内規程で確認してください。
眠れない・食べられない・自分を傷つけたいときは、実習より安全を先にする
この章の要点心身の不調で日常生活や実習参加が難しくなっているなら、気合いで実習を続ける段階ではありません。健康相談を先にし、当日の実習参加も教員と相談します。
見るのは症状の有無だけでなく、普段からの変化と生活への影響です。眠れない、食事が取れない、朝起きられない、動悸・吐き気・涙が続く、集中できず安全確認が抜ける、実習へ向かえない、といった変化を、開始時期と経過とともに整理します。厚生労働省の若者向け情報も、こころの不調が長く続く、つらくて学校へ行けないなど調子が優れないときは、専門家への相談を勧めています。これらの症状だけで病名を自己診断はできませんが、相談する理由にはなります。
学校の保健室、学生相談室、スクールカウンセラー、かかりつけ医、精神科・心療内科、公的相談窓口を利用できます。受診や欠席が単位・再実習へどう影響するかは、体調を我慢してからではなく、同時に教務へ確認します。診断書が必要かどうかも学校の規程で異なります。
「死にたい」「消えたい」「自分を傷つけそう」という思いがあるときは、一人で抱えず、身近な人に今の状態を伝え、危険な物から離れてください。差し迫った危険があれば119または110へ連絡します。厚生労働省の「#いのちSOS」0120-061-338は24時間365日、よりそいホットライン0120-279-338は24時間対応です。受付状況は変更され得るため、厚生労働省「まもろうよ こころ」で最新情報を確認してください。
身体への攻撃や性暴力があった、または危険が迫っている場合は、安全な場所へ移動し、学校と実習施設の別の責任者、必要に応じて警察・医療機関へつなぎます。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター全国共通番号は#8891で、医療的・心理的・法的支援等の相談につながります。
辞めるかは、急性のつらさが少し下がってから選択肢を並べて決める
この章の要点退学は失敗ではありませんが、強い恐怖や睡眠不足の最中に「続けるか、全部辞めるか」の二択へ追い込まれないことが大切です。まず安全を確保し、調整できる条件と変えられない条件を確認します。
選択肢には、教員同席で継続する、指導者・グループ・病棟を変更する、評価基準を書面で確認する、一時的に実習を休む、再実習を利用する、休学する、学内の正式な申立てを行う、転校や退学を検討する、などがあります。すべての学校で選べるわけではないため、実現可能性、単位、卒業時期、学費、奨学金、通学・生活への影響を教務と学生支援窓口に確認します。
判断するときは、「この指導者の下で今の実習を安全に続けられるか」と「自分が看護師を目指したいか」を分けます。一人の指導者との関係は、看護師としての適性全体を測る試験ではありません。一方、体調悪化や暴力を抱えたまま耐えることも、適性の証明にはなりません。続けることと離れることの両方を、患者安全、自分の健康、学習機会、将来の希望から比較します。
学校へは、①今すぐ必要な安全措置、②次の実習日までに必要な調整、③進路を決めるために必要な情報、の三段階で依頼します。学校が十分に対応しない場合も、記録を保ち、相談窓口や設置者など校内規程で示された次の経路を確認します。個別の法的評価が必要なら、学生支援機関や法律相談など専門窓口へつなぎます。
問題を切り分けて報告する力は、国試の医療安全・連携の学びにつながる
この章の要点この対処法そのものが国家試験に出ると断定はできません。ただし、状況を分け、危険を見つけ、適切な相手へ報告し、複数者で調整する過程は、医療安全と連携の学びに直結します。
看護師国家試験出題基準令和5年版の「看護の統合と実践」には、医療安全を維持する仕組み、医療事故・インシデントレポートの分析と活用、複合的な状況で危険を回避する取組、多職種連携が含まれます。国試の状況設定問題でも、単に知識を思い出すだけでなく、「今、何が最優先か」「自分の役割の範囲はどこまでか」「誰へつなぐか」を考えます。
実習で指導者が「外れ」と感じたときも、最優先は患者と自分の安全です。次に、学習上の不明確さと連携不足を具体化し、尊厳を損なう言動や心身の危機を別経路で扱います。最後に、継続条件と離れる条件を情報に基づいて比較します。一人で耐えることを正解にしないことが、看護で大切な報告・連携・再評価の実践になります。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 基礎看護学実習中に学生が実習指導者との関わりで感じた困難な体験と対処行動一般社団法人日本看護学教育学会・2024全文を確認。3年課程看護専門学校2年生の女性9名への半構成的面接による質的記述研究。困難な体験と対処行動のカテゴリ、研究限界を見出し1・3・4・8で使用。109-122頁。原資料を開く
- 看護学教育モデル・コア・カリキュラム(令和6年度改訂版)【本文】文部科学省・2025全文を確認。臨地実習における指導体制と委託の程度、学生の看護行為に対する指導・監視、許可、教員と実習指導者の連携を見出し1・2・4で使用。45頁1-6 2)。原資料を開く
- 看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン厚生労働省・2023全文を確認。実習指導者の要件、養成所と実習施設による適切な指導体制、実習指導を調整する責任者に関する記載を見出し1・4・6で使用。16-18頁。原資料を開く
残り6件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- 大学におけるハラスメント防止に向けて文部科学省・2025公式ページと掲載教材の構成を確認。学生が安心して学べる環境、相談窓口の役割、意図がなくてもハラスメントが成立し得る旨を見出し5・6で使用。大学向け資料であり、専門学校は各校規程の確認が必要。原資料を開く
- 看護職の倫理綱領公益社団法人日本看護協会・2021全文を確認。尊厳と権利、秘密保持と個人情報、不利益・危害時の安全確保、能力範囲と支援要請、ウェルビーイングを見出し2・5・6・7で使用。項目1、5-7、12。原資料を開く
- 誰に話せばいいの?|こころもメンテしよう厚生労働省ページ全文を確認。こころの不調が長く続く、つらくて学校へ行けない場合の身近な人・学校・専門家への相談を見出し7で使用。若者向け一般情報。原資料を開く
- 電話相談窓口|まもろうよ こころ厚生労働省2026年9月26日にページを確認。#いのちSOS、よりそいホットライン、こころの健康相談統一ダイヤル等の対象・電話番号・受付時間を見出し7で使用。受付状況は更新され得る。