時間に合わせて読む
目次この記事でわかること15項目+
点線の用語を長押しすると、短い解説が開きます。タップ・クリックでも確認できます。
読む前に押さえたいこと
患者さんの血圧を測定したら、いつもより大きく下がっていた。そんなとき、「もう一度測定した方がいい?」「すぐに医師へ報告するべき?」「まず何を観察すればいい?」と迷うことはありませんか。
血圧低下は、脱水や薬剤の影響などで起こることもあれば、出血、重い感染症、心臓の機能低下など、生命に関わる状態のサインであることもあります。重要なのは、血圧の数値だけで判断せず、患者さんの全身状態と普段からの変化を組み合わせて評価することです。
この記事では、血圧が下がったときに最初に行うこと、緊急性の高い所見、原因別の観察項目、医師への報告方法、対応後の再評価まで、一般病棟で必要な看護の考え方を順番に解説します。
---
患者さんの血圧が下がったら、まず何をする?
この章の要点患者さんの血圧低下を認めたら、最初に行うのは、患者さんの状態を直接確認することです。
血圧の数値だけに注目せず、意識・呼吸・循環の状態を速やかに評価し、生命に関わる異常がないかを確認します。
例えば、普段の血圧が130/80mmHgの患者さんを測定したところ、突然85/50mmHgになっていたとします。
このとき、まず確認したいのは、患者さんが普段どおりに会話できるか、呼吸状態が悪化していないか、顔色不良や冷汗がないか、脈拍に異常がないかという点です。
血圧が低下していても、患者さんが普段と変わらず会話できる場合があります。一方で、血圧の低下が比較的小さくても、意識障害や呼吸困難を伴っていれば、重大な病態が進行している可能性があります。
そのため、最初の対応では「血圧が何mmHgか」だけでなく、「患者さんに何が起きているか」を把握します。
初期対応の基本的な流れ
1.患者さんのもとへ行き、意識・呼吸・顔色などを確認する。
2.意識障害、呼吸異常、冷汗、著しい顔色不良など、急変を疑う所見がないか判断する。
3.重篤な異常があれば、直ちに応援を要請し、施設の急変対応体制につなげる。
4.血圧の測定条件や測定値を確認し、必要に応じて再測定する。
5.脈拍、呼吸数、SpO₂、体温、末梢循環、尿量などを組み合わせて評価する。
6.患者さんの安全を確保し、医師や急変対応チームへ状態を報告する。
7.対応後も血圧と全身状態を繰り返し確認する。
ここで重要なのは、必ずこの順番で一つずつ完了させるという意味ではないことです。
例えば、意識障害と異常な呼吸を認めた場合、血圧の再測定を終えるまで応援要請を待つ必要はありません。
重篤な状態では、ほかのスタッフと協力して、応援要請、患者評価、モニタリング、必要な処置を並行して進めます。
再測定より患者評価を優先する場面があることを理解しておきましょう。
血圧が低いこととショック状態は同じではない
この章の要点血圧低下とショックは、同じ意味ではありません。
ショックとは、全身の組織や臓器に必要な血液・酸素の供給が不足し、細胞や臓器の機能に障害が生じ得る循環不全の状態です。
血圧が低いことはショックを疑う重要な所見ですが、血圧の数値だけでショックの有無を判断することはできません。
例えば、普段から収縮期血圧が90mmHg程度の患者さんが、意識清明で、呼吸や末梢循環にも異常がなく、普段と変わらず過ごしている場合があります。
一方、普段の収縮期血圧が150mmHg程度の患者さんが100mmHgまで急激に低下し、冷汗や意識状態の変化を伴っている場合は、表示されている数値だけを見て安心することはできません。
また、出血などの初期段階では、交感神経の働きによって心拍数が増加し、血管が収縮することで、血圧がある程度維持されることがあります。
つまり、血圧が明らかに低下する前から循環不全が進行している可能性があります。
血圧だけでは判断できない理由
血圧は、循環状態を把握するための重要な情報ですが、実際に臓器へ十分な血液が届いているかを直接示す数値ではありません。
脳への血流が不足すれば意識状態が変化し、腎臓への血流が不足すれば尿量が減少することがあります。
末梢の血管が収縮すると、四肢の冷感や皮膚の色調変化が現れる場合もあります。
したがって、血圧低下を認めた際は、意識、呼吸、脈拍、皮膚の状態、尿量などを組み合わせて、臓器への血流が不足していないかを評価します。
なお、ショックの状態でも、病態や進行段階によっては末梢が温かい場合があります。四肢の冷感がないことだけで循環不全を否定しないようにします。
そもそも血圧はなぜ下がる?循環の仕組みから理解する
この章の要点血圧が下がる理由を理解するには、血圧がどのように維持されているのかを知ることが重要です。
動脈の血圧は、主に心臓から送り出される血液の量と、血管が血液の流れに対して示す抵抗によって決まります。
平均動脈圧は、心拍出量と全身血管抵抗の影響を受けます。
また、心拍出量は、心臓が1回の拍動で送り出す血液量と、1分間の心拍数によって決まります。
心拍出量=1回拍出量×心拍数
例えば、心臓が1回に送り出す血液量が減少すれば、心拍数などによる代償が不十分な場合、心拍出量が低下します。
その結果、血圧が下がることがあります。
血圧が下がる主な仕組み
血圧低下は、大きく分けると次のような仕組みで起こります。
① 循環する血液量が不足する
出血、脱水、嘔吐、下痢などによって、血管内を循環する血液量が減少します。
心臓に戻る血液量が不足すると、心臓から送り出される血液量も減少し、血圧が下がることがあります。
② 心臓が十分に血液を送り出せない
心筋梗塞や重い不整脈などによって、心臓の収縮や血液の拍出が障害される場合があります。
血管内の血液量が十分でも、心臓が必要な量を送り出せなければ血圧は低下します。
③ 血管が広がり、血管抵抗が低下する
敗血症や重いアレルギー反応などでは、血管が拡張し、血圧を維持することが難しくなる場合があります。
すぐに応援を呼ぶべき血圧低下のサインとは?
この章の要点血圧低下に加えて意識障害、呼吸異常、著しい循環不全の兆候がある場合は、緊急性が高い状態として対応します。
特に重要なのは、血圧低下と同時に生命維持に関わる機能が障害されていないかを確認することです。
血圧の数値だけを見て報告の必要性を判断するのではなく、患者さんの全身状態を優先して評価します。
意識状態が変化している
普段は会話できる患者さんが、突然反応しにくくなったり、呼びかけても開眼しなくなったりした場合は、直ちに応援を要請します。
意識状態の変化は、脳への血流不足や低酸素血症などによって起こる可能性があります。
また、低血糖、脳卒中、けいれんなど、循環不全以外の原因によって生じることもあります。
そのため、意識障害を血圧低下だけで説明せず、ほかの原因も含めて迅速に評価する必要があります。
呼吸状態が悪化している
突然の呼吸困難、異常な呼吸数、SpO₂の低下、チアノーゼなどがある場合は、呼吸と循環の両方に問題が生じている可能性があります。
血圧低下に呼吸困難や胸痛を伴う場合、重い心疾患や肺血栓塞栓症なども考慮する必要があります。
また、酸素投与中でSpO₂が保たれていても、呼吸状態が安定しているとは限りません。
血圧の数値は正しい?再測定で確認するポイント
この章の要点血圧が低下していた場合は、患者さんの状態を確認するとともに、測定値が正しいかを確認します。
血圧は測定条件によって変動するため、測定方法が適切でないと、実際より低い値や高い値が表示されることがあります。
ただし、明らかな急変所見がある場合は、再測定のために応援要請を遅らせないことが重要です。
カフのサイズと装着状態
血圧測定用のカフは、患者さんの上腕周囲長に適したサイズを使用します。
カフが大きすぎる場合は低めに、小さすぎる場合は高めに測定されることがあります。
また、カフの巻き方が不適切であったり、衣服の上から装着されていたりすると、測定精度に影響する可能性があります。
測定値が普段と大きく異なる場合は、カフのサイズ、位置、装着状態を確認します。
測定する腕の位置
血圧測定では、測定する上腕を心臓の高さに保つことが基本です。
心臓より高い位置では低めに、低い位置では高めに測定される場合があります。
患者さんの体位や腕の位置が前回と異なる場合は、その違いも確認します。
患者さんの体動や不整脈
測定中に患者さんが動いていたり、震えていたりすると、自動血圧計で正確に測定できない場合があります。
不整脈がある患者さんでも、測定値が不安定になることがあります。
測定値と患者さんの状態が一致しない場合は、適切な条件で再測定し、必要に応じて聴診法による測定など、別の方法で確認します。
再測定で正常値になった場合
再測定で普段に近い血圧へ戻った場合も、最初の測定値を無視してよいわけではありません。
患者さんの症状、測定条件、体位変換、薬剤投与、食事、排泄など、血圧低下が起きた前後の状況を確認します。
血圧が一時的に低下した可能性もあるため、必要に応じて経過観察と報告を行います。
血圧低下時に確認する観察項目と、それぞれの意味
この章の要点血圧が低下した患者さんでは、血圧だけでなく、意識、呼吸、脈拍、末梢循環、尿量などを組み合わせて観察します。
これらを確認する目的は、全身に必要な血液が届いているか、循環不全が進行していないかを評価するためです。
同じ血圧でも、ほかの所見によって緊急性や考えられる原因が異なります。
① 意識状態
意識状態は、脳への血流や酸素供給が保たれているかを考えるうえで重要です。
呼びかけへの反応、開眼、会話の内容、見当識などを確認します。
普段は意識清明だった患者さんが、突然反応しにくくなった場合は、循環不全だけでなく、低酸素血症、低血糖、脳血管障害なども考慮する必要があります。
JCSやGCSを用いて評価する場合は、数値だけでなく、普段からどのように変化したかを記録します。
② 呼吸数・呼吸状態
呼吸数は、全身状態の悪化を把握するための重要なバイタルサインです。
血圧低下とともに呼吸数が増加している場合、循環不全、低酸素血症、代謝性アシドーシスなどが関係している可能性があります。
SpO₂だけでなく、呼吸数、努力呼吸の有無、呼吸の深さ、胸痛やの訴えを確認します。
血圧低下の原因は何?4つのショック分類から考える
この章の要点血圧低下の原因を考える際は、循環血液量の不足、心臓の拍出機能の低下、血管の拡張、血液の流れを妨げる病態という4つの仕組みに分けると整理しやすくなります。
ただし、血圧が下がった患者さん全員がショック状態にあるわけではありません。
また、複数の原因が同時に関係している場合もあります。
看護師は原因を確定診断するのではなく、原因を疑うための所見を集め、医師の評価につなげることが重要です。
① 循環血液量減少性ショック
循環血液量減少性ショックは、血管内を循環する血液量が不足し、心臓から十分な血液を送り出せなくなることで起こります。
主な原因として、出血や脱水などがあります。
出血には、目に見える外出血だけでなく、消化管出血や体内での出血も含まれます。
血圧低下とともに、頻脈、顔色不良、冷汗、四肢の冷感などが現れる場合があります。
出血が疑われる場合は、血便、黒色便、吐血、創部やドレーンからの出血、腹部症状などを確認します。
脱水が疑われる場合は、食事や水分摂取量、嘔吐、下痢、発熱、利尿薬の使用状況などを確認します。
ただし、口腔内の乾燥など一つの所見だけで、循環血液量の不足を判断することはできません。
② 心原性ショック
心原性ショックは、心臓の機能が低下し、全身へ十分な血液を送り出せなくなることで起こります。
原因として、急性心筋梗塞、重い、の急激な悪化などがあります。
血圧が下がった患者さんに看護師が行う初期対応
この章の要点血圧が下がった患者さんへの看護対応では、全身状態を評価しながら安全を確保し、必要な応援要請と医師の診療につなげます。
重要なのは、患者さんの状態に応じて、生命に関わる問題への対応を優先することです。
血圧を上げることだけを目的にするのではなく、原因となる病態への対応が必要です。
① 患者さんの安全を確保する
血圧低下によってめまい、ふらつき、意識状態の変化が生じている場合、転倒や転落の危険性があります。
歩行中や立位で血圧低下が疑われた場合は、転倒しないように介助し、安全な場所で休めるようにします。
ベッド上では、急な離床を避け、必要に応じてベッド柵やナースコールの位置などを確認します。
ただし、安全確保のために患者さんを無理に移動させることで、呼吸や循環状態が悪化しないよう注意します。
② 患者さんの呼吸状態を確認する
血圧低下に呼吸困難やSpO₂の低下を伴う場合は、呼吸状態の評価を優先します。
気道が保たれているか、正常に呼吸できているか、呼吸数や呼吸の深さに異常がないかを確認します。
必要な酸素療法については、患者さんの状態、既存の指示、施設の急変対応手順に従って実施します。
酸素投与を開始した場合も、SpO₂だけでなく、呼吸数、呼吸困難、意識状態などを再評価します。
③ 体位を調整する
血圧低下時は、患者さんの安全と呼吸・循環状態を踏まえて体位を調整します。
立位や歩行中にめまいが生じた場合は、転倒を防ぐために臥位などで休めるようにします。
ただし、すべての患者さんに同じ体位が適しているわけではありません。
例えば、呼吸困難が強い患者さんでは、仰臥位によって呼吸が苦しくなる場合があります。
心不全や肺うっ血が疑われる場合も、呼吸状態を確認しながら体位を考える必要があります。
血圧低下時に行われる検査は何を確認するため?
この章の要点血圧低下時の検査は、血圧が下がった原因や、循環不全によって臓器にどのような影響が生じているかを調べるために行われます。
ただし、すべての患者さんに同じ検査が必要になるわけではありません。
検査結果は、患者さんの症状やバイタルサインと組み合わせて判断することが重要です。
血算(CBC)
血算では、ヘモグロビン、赤血球数、白血球数、血小板数などを確認します。
出血が疑われる場合、ヘモグロビン値は貧血の程度や出血による影響を考える手がかりになります。
ただし、急性出血の直後には、ヘモグロビン値が出血量を直ちに反映しない場合があります。
そのため、ヘモグロビン値が正常範囲であっても、急性出血を否定することはできません。
出血の状況、血圧、脈拍、末梢循環などを組み合わせて評価します。
血圧が下がったとき、医師へ何を報告すればよい?
この章の要点医師への報告では、現在の血圧だけでなく、普段からの変化、全身状態、血圧低下の前後に起きた出来事を整理して伝えます。
重要なのは、血圧がどの程度変化し、患者さんにどのような異常が生じているかを共有することです。
原因が分からない段階でも、報告を遅らせる必要はありません。
① 現在の状態を伝える
まず、患者さんの血圧が低下していることと、現在の状態を伝えます。
例えば、次のような情報です。
「血圧が普段より大きく低下しています」
「呼びかけへの反応が普段より悪くなっています」
「血圧低下と同時に冷汗と頻脈が出現しています」
緊急性の高い所見がある場合は、最初にその内容を明確に伝えます。
② 普段の状態と比較する
血圧低下を評価するためには、普段の血圧や直近の測定値が重要です。
例えば、現在の血圧が90/50mmHgであっても、普段から同程度の患者さんと、普段150/80mmHgの患者さんでは、変化の意味が異なります。
低下する前の血圧、低下を確認した時刻、再測定値、症状の出現時刻などを整理します。
③ 血圧以外の観察結果を伝える
血圧低下とともに、脈拍、呼吸数、SpO₂、意識状態、末梢循環などがどのように変化しているかを伝えます。
尿量の減少、出血、胸痛、呼吸困難などがあれば、その内容も重要です。
すべての情報がそろうまで報告を待つのではなく、すでに確認できている重要な所見を優先して伝えます。
④ 血圧低下の前後に起きた出来事を伝える
血圧低下の原因を考えるためには、直前の出来事が手がかりになります。
例えば、降圧薬の投与、利尿薬の使用、離床、排泄、出血、嘔吐、下痢、発熱、新たな薬剤の投与などです。
血圧が改善したら終わり?対応後に必要な再評価
この章の要点血圧が改善した場合も、それだけで循環状態が安定したと判断することはできません。
血圧低下の原因が残っている場合や、治療への反応が一時的な場合には、再び血圧が低下する可能性があります。
そのため、対応後は血圧と全身状態の両方を継続して再評価することが重要です。
血圧の推移を確認する
血圧が改善した場合は、いつ、どのような対応の後に改善したのかを確認します。
また、再び低下していないか、普段の血圧に近づいているか、個別の管理目標を満たしているかを評価します。
急変後の測定間隔は、患者さんの状態、医師の指示、施設の対応基準によって異なります。
一律の測定間隔を設定するのではなく、異常の程度や変化の速さに応じて観察頻度を増やします。
意識状態と呼吸状態を再評価する
血圧が改善していても、意識障害や呼吸困難が続いている場合は、循環不全以外の原因や、臓器への影響が残っている可能性があります。
血圧の改善とともに、患者さんの会話、呼吸数、SpO₂、呼吸困難などが改善しているかを確認します。
末梢循環と尿量を確認する
顔色不良、冷汗、四肢の冷感などが改善しているかを確認します。
また、尿量の推移も継続して評価します。
尿量の変化は、血圧の変化より遅れて現れる場合があります。
そのため、血圧が改善した直後に尿量が増加しないことだけで、治療の効果を判断することはできません。
治療による新たな問題が起きていないか確認する
輸液などの治療を行った場合は、血圧の改善だけでなく、呼吸困難、SpO₂の低下、呼吸音の変化などが生じていないかを確認します。
特に心機能が低下している患者さんでは、循環血液量が増加することで肺うっ血などが悪化する場合があります。
治療後の新たな異常は、速やかに医師へ報告します。
血圧が下がった患者さんへの説明と不安への対応
この章の要点血圧が低下した患者さんには、現在の状態と必要な対応について、理解できる言葉で簡潔に説明します。
血圧低下によってめまいやふらつきが生じている場合、患者さん自身が急な変化に不安を感じることがあります。
そのため、患者さんの安全を確保しながら、今何を確認しているのかを伝えることが重要です。
例えば、意識が清明な患者さんには、次のように説明できます。
「いつもより血圧が下がっているので、今は無理に起き上がらず、少し休んでください。呼吸や脈拍なども確認し、必要に応じて医師に診てもらいます」
ただし、血圧低下の原因が分からない段階で、「脱水が原因です」「すぐに治ります」などと断定しないようにします。
患者さんが胸痛、息苦しさ、強いめまいなどを訴えた場合は、その内容を確認し、速やかに医師や急変対応チームへ共有します。
また、状態が安定するまでは、患者さんが一人で離床しないように説明します。
意識障害や呼吸状態の悪化など、緊急性の高い状態では、詳細な説明よりも生命維持に関わる対応と安全確保を優先します。
脳神経疾患・術後・降圧薬使用中の患者さんで注意すること
この章の要点血圧低下時の対応は、患者さんの疾患や治療内容によって注意点が異なります。
一般的な観察項目に加えて、患者さん固有の管理目標や、血圧低下によって影響を受ける臓器を意識することが重要です。
脳神経疾患の患者さん
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、脳腫瘍術後などの患者さんでは、血圧低下に伴う脳血流の変化に注意が必要です。
脳への血液供給が不足すると、神経学的な状態に影響が生じる可能性があります。
血圧低下時には、意識状態だけでなく、瞳孔所見、運動麻痺、言語機能など、疾患に応じた神経学的所見を確認します。
例えば、普段は四肢を動かせていた患者さんが、血圧低下と同時に片側の運動麻痺を新たに認めた場合は、急性の神経学的異常として速やかな評価が必要です。
ただし、新たな麻痺や意識障害を血圧低下だけで説明することはできません。
脳卒中など、ほかの原因も考慮する必要があります。
また、脳神経疾患では、疾患の種類や治療段階によって血圧管理目標が異なります。
血圧が下がったからといって、一律に血圧を上げることを目的とするのではなく、医師から指示されている管理目標と現在の神経学的所見を確認します。
術後の患者さん
術後に血圧が低下した場合は、出血、体液量の変化、麻酔や薬剤の影響などを考慮します。
創部やドレーンからの出血、腹部症状、疼痛、尿量、輸液量などを確認します。
ただし、目に見える出血が少なくても、体内で出血している可能性があります。
血圧低下時に間違えやすい5つの判断
この章の要点血圧低下時に注意したいのは、数値や特定の症状だけで患者さんの状態を判断してしまうことです。
循環状態は複数の要因によって変化するため、一つの情報だけで原因や緊急性を判断することはできません。
① 血圧が90mmHg以上なら安心できる?
収縮期血圧が90mmHg以上であっても、循環不全が生じている可能性があります。
普段の血圧が高い患者さんで急激な血圧低下が起きている場合や、意識障害、呼吸異常、冷汗などを伴っている場合は、血圧の数値だけを理由に安心することはできません。
患者さんの普段の血圧と現在の全身状態を比較します。
② 血圧が低ければ、すぐに輸液を速くする?
血圧低下の原因によっては、輸液によって状態が改善する場合があります。
しかし、心機能が低下している患者さんでは、過剰な輸液によって肺うっ血などが悪化する可能性があります。
また、出血などが原因の場合は、原因に対する治療が必要です。
血圧低下を認めた際は、原因を評価し、医師の指示に基づいて対応します。
③ 再測定で血圧が正常になれば問題ない?
再測定で血圧が改善しても、一時的に血圧が低下していた可能性があります。
特に、意識状態の変化、冷汗、胸痛、呼吸困難などを伴っていた場合は、原因の評価が必要です。
再測定値だけでなく、最初の測定値、症状、経過を記録し、必要に応じて報告します。
④ 脈拍が正常なら循環不全はない?
循環不全があっても、必ずしも頻脈になるわけではありません。
β遮断薬の使用、徐脈性、その他の病態によって、心拍数が十分に増加しない場合があります。
まとめ|血圧低下時は「数値・全身状態・経時変化」を組み合わせる
この章の要点患者さんの血圧が下がったときは、血圧の数値だけで判断せず、意識、呼吸、脈拍、末梢循環などの全身状態を組み合わせて評価することが重要です。
特に、意識障害、呼吸状態の悪化、著しい顔色不良や冷汗などを伴っている場合は、血圧の再測定や原因の確認を終える前に、必要な応援を要請します。
また、血圧低下の原因には、出血や脱水による循環血液量の不足、心臓の機能低下、血管の拡張、血流の障害などがあります。
原因によって必要な治療は異なるため、血圧が下がったという理由だけで、一律に輸液や体位調整を行うことは避けます。
看護師は、血圧低下が生じた前後の状況、普段からの変化、随伴症状を整理し、医師や急変対応チームへ適切に報告します。
対応後も血圧だけでなく、意識状態、呼吸、末梢循環、尿量などを継続して確認し、状態が改善しているかを評価します。
血圧低下時の看護で重要なのは、血圧を測定することだけでなく、患者さんの異常を早期に捉え、必要な対応につなげることです。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- Acutely ill adults in hospital: recognising and responding to deteriorationNational Institute for Health and Care Excellence・2007成人の急性期入院患者に対するガイドラインCG50。Recommendations 1.1〜1.6で観察すべき生理学的指標とモニタリング、1.8〜1.13で臨床的懸念に基づく対応、応援要請、介入後の再評価を確認。見出し1・2・4・6・8・10・11・12・13・14・15に使用。英国のガイドラインであり、日本国内の施設別報告基準を直接規定するものではない。原資料を開く
- The ABCDE ApproachResuscitation Council UK・20242015年公開、2021年レビュー、2024年7月更新。Underlying principlesおよびFirst stepsで急変患者へのABCDEアプローチ、生命に関わる問題への優先対応、早期の応援要請、モニタリング、介入後の再評価、SBARによる情報共有を確認。見出し1・2・3・4・6・7・8・10・11・12・13・14・15に使用。成人を中心とした急変対応の基本原則を参照したものであり、国内施設の処置指示に代わるものではない。原資料を開く
- 日本版敗血症診療ガイドライン2024日本集中治療医学会・日本救急医学会・2024敗血症および敗血症性ショックを対象とする診療ガイドライン。公開全文の初期蘇生・循環作動薬領域、CQ3-2〜CQ3-7などを確認。循環評価、平均動脈圧65mmHgの初期蘇生目標、輸液の適応と過剰投与への注意、血管収縮薬、乳酸値を含む循環状態の評価に使用。見出し2・3・6・7・8・9・11・13・14・15に使用。敗血症患者に対する推奨を成人一般病棟の全患者に適用していない。原資料を開く
残り1件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- Measurement of Blood Pressure in HumansAmerican Heart Association・2019米国心臓協会の血圧測定に関する科学的声明の公開要点を確認。カフ・測定機器・測定部位・測定条件の重要性、血圧測定に影響する患者側の条件について、見出し5・14の測定精度と再測定の説明に使用。声明の要点ページを確認しており、原著論文の全ページを確認したものではない。原資料を開く
実践時は最新情報と所属施設の手順をご確認ください。