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目次この記事でわかること10項目+
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読む前に押さえたいこと
看護で対象者を理解しようとしても、情報が多いと「何を手がかりに考えればよいのか」が見えにくくなります。理論やモデルは、対象者を型にはめる答えではありません。身体、生活、発達、欲求、ストレスへの受け止め、セルフケア、関係性、家族など、見落としやすい側面へ注意を向けるためのレンズです。この記事では、代表的な理論・枠組みを目的別に整理し、どの問いに使うか、何を観察するか、得た情報を援助・報告・再評価へどうつなげるかを順番に説明します。
理論は「対象者を決めつける答え」ではなく、理解するための問いを増やす道具
この章の要点まず押さえたい結論は、理論を使う目的は対象者へ名前を付けることではなく、見落としを減らすことです。厚生労働省の看護師教育の到達目標でも、対象者を身体的・心理的・社会的・文化的側面から総合的に理解し、生涯各期の成長・発達・加齢の知識を用いることが示されています。
この記事では、厳密には「理論」「概念モデル」「分類・アセスメント枠組み」に分かれるものを、臨床での使い道が分かるようにまとめて扱います。理論は現象を説明する考え方、モデルは要素と関係を図式化したもの、枠組みは情報を集めて整理するための構造です。役割は異なりますが、いずれも対象者の語りや観察事実を考える助けになります。
使い方は「この人は理論上こういう人だ」ではなく、「この理論で見ると、まだ何を確かめていないか」です。理論から仮説を立て、本人へ確認し、経時変化とほかの所見を組み合わせて修正します。急変、診断、治療の判断は別に必要であり、理論で医学的評価を遅らせてはいけません。
ICF
- 主に答える問い
- 病気や障害が生活機能・参加・環境とどう関係するか
- 看護で見る手がかり
- 心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子
- 主な限界
- 診断基準ではなく、個人を分類するものでもない
ゴードンの機能的健康パターン
- 主に答える問い
- 生活全体の情報に抜けがないか
- 看護で見る手がかり
- 11の生活・健康パターンとその相互関係
- 主な限界
- 項目を埋めるだけでは意味づけにならない
エリクソンの心理社会的発達理論
- 主に答える問い
- その時期にどのような発達課題が意味を持つか
- 看護で見る手がかり
- 自律、役割、アイデンティティ、親密性、世代性、人生の統合など
- 主な限界
- 年齢だけで課題や達成度を決められない
マズローの欲求理論
- 主に答える問い
- 今、どの欲求が強く脅かされているか
- 看護で見る手がかり
- 生理、安全、所属と愛、尊重、自己実現
- 主な限界
- 固定した階段や医療上の優先順位表ではない
ストレス・コーピング理論
- 主に答える問い
- 出来事を本人がどう受け止め、何を資源とみているか
- 看護で見る手がかり
- 脅威・損失・挑戦の意味、対処可能感、実際の対処、支援資源
- 主な限界
- 対処を「良い・悪い」と単純に二分しない
危機理論
- 主に答える問い
- 通常の対処が働かず、生活機能が崩れていないか
- 看護で見る手がかり
- 強い苦痛、混乱、機能低下、安全上の危険、支援の有無
- 主な限界
- 危機の原因は出来事の大きさだけで決まらない
オレムのセルフケア不足看護理論
- 主に答える問い
- 必要なセルフケアと、実行できる力の差は何か
- 看護で見る手がかり
- 能力、知識、意欲、症状、環境、支援、必要な援助量
- 主な限界
- 「自立できない本人の責任」と解釈しない
ロイの適応モデル
- 主に答える問い
- どの刺激に対し、どの領域で適応反応が起きているか
- 看護で見る手がかり
- 生理、自己概念、役割機能、相互依存と、それに影響する刺激
- 主な限界
- 反応を適応・不適応の一語で終わらせない
ペプロウの対人関係理論
- 主に答える問い
- 看護師との関係は今どの段階で、何が必要か
- 看護で見る手がかり
- 出会い、問題の共有、協働、終結への準備
- 主な限界
- 関係の段階は機械的に分かれず重なる
家族システムの視点
- 主に答える問い
- 本人と家族が互いにどう影響し、役割を担っているか
- 看護で見る手がかり
- 家族構造、意思決定、連絡、役割、負担、支援、関与意思
- 主な限界
- 本人の希望や同意を越えて家族を関与させない
| 理論・枠組み | 主に答える問い | 看護で見る手がかり | 主な限界 |
|---|---|---|---|
| ICF | 病気や障害が生活機能・参加・環境とどう関係するか | 心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子 | 診断基準ではなく、個人を分類するものでもない |
| ゴードンの機能的健康パターン | 生活全体の情報に抜けがないか | 11の生活・健康パターンとその相互関係 | 項目を埋めるだけでは意味づけにならない |
| エリクソンの心理社会的発達理論 | その時期にどのような発達課題が意味を持つか | 自律、役割、アイデンティティ、親密性、世代性、人生の統合など | 年齢だけで課題や達成度を決められない |
| マズローの欲求理論 | 今、どの欲求が強く脅かされているか | 生理、安全、所属と愛、尊重、自己実現 | 固定した階段や医療上の優先順位表ではない |
| ストレス・コーピング理論 | 出来事を本人がどう受け止め、何を資源とみているか | 脅威・損失・挑戦の意味、対処可能感、実際の対処、支援資源 | 対処を「良い・悪い」と単純に二分しない |
| 危機理論 | 通常の対処が働かず、生活機能が崩れていないか | 強い苦痛、混乱、機能低下、安全上の危険、支援の有無 | 危機の原因は出来事の大きさだけで決まらない |
| オレムのセルフケア不足看護理論 | 必要なセルフケアと、実行できる力の差は何か | 能力、知識、意欲、症状、環境、支援、必要な援助量 | 「自立できない本人の責任」と解釈しない |
| ロイの適応モデル | どの刺激に対し、どの領域で適応反応が起きているか | 生理、自己概念、役割機能、相互依存と、それに影響する刺激 | 反応を適応・不適応の一語で終わらせない |
| ペプロウの対人関係理論 | 看護師との関係は今どの段階で、何が必要か | 出会い、問題の共有、協働、終結への準備 | 関係の段階は機械的に分かれず重なる |
| 家族システムの視点 | 本人と家族が互いにどう影響し、役割を担っているか | 家族構造、意思決定、連絡、役割、負担、支援、関与意思 | 本人の希望や同意を越えて家族を関与させない |
全体像をつかむなら、ICFとゴードンで「生活」と「機能」を先に広く見る
この章の要点情報の抜けを減らしたいときは、ICFとゴードンが出発点になります。どちらも一つの原因を決める理論ではなく、身体だけ、心理だけに偏らず、対象者の生活全体を整理する枠組みです。
ICF(国際生活機能分類)は、生活機能を健康状態と心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子の動的な相互作用として捉えます。重要なのは、診断名が同じでも「何ができるか」「どこで困るか」「何が助けや障壁になるか」は同じとは限らないことです。たとえば歩行能力だけでなく、自宅の段差、補助具、家族の支援、本人が再開したい役割まで確認すると、生活上の意味が見えてきます。ICFは人そのものを分類するものではなく、生活機能を記述する枠組みです。
ゴードンの機能的健康パターンは、健康知覚・健康管理、栄養・代謝、排泄、活動・運動、睡眠・休息、認知・知覚、自己知覚・自己概念、役割・関係、性・生殖、コーピング・ストレス耐性、価値・信念の11パターンで情報を整理します。強みは、食事や排泄だけでなく、自己像、役割、価値観まで同じアセスメントに含められることです。
ただし、11項目を埋めても対象者理解は完成しません。「食事量が減った」という事実を、疼痛、嚥下、嗜好、文化、経済、気分、環境、治療の影響と結び付けて考える必要があります。ゴードンの枠組みは情報収集の地図であり、原因や優先順位は病態、本人の語り、経時変化、ほかの所見から判断します。
発達と欲求を見るなら、エリクソンとマズローを「仮説」として使う
この章の要点発達段階や欲求の理論は、本人が何を大切にし、何を脅かされたと感じているかを考える手がかりです。ただし、年齢や段階への当てはめではなく、本人に確かめるための仮説として使います。
エリクソンの心理社会的発達理論は、生涯を①基本的信頼対不信、②自律性対恥・疑惑、③自発性対罪悪感、④勤勉性対劣等感、⑤同一性対同一性混乱、⑥親密性対孤立、⑦世代性対停滞、⑧統合性対絶望という8つの課題で捉えます。看護では、子どもに選べる範囲を示して自律を守る、成人の家族・仕事上の役割喪失を確認する、高齢者が人生をどう意味づけているかを聴く、といった問いにつながります。
各課題は、ある年齢を過ぎたら終了する試験ではありません。入院や障害、退職、死別などで、信頼、自律、役割、人生の意味が再び問い直されることがあります。年齢から「この人はこの課題」と決めず、現在の経験と文化、価値観、生活史を確認します。
マズローは、生理的欲求、安全、所属と愛、尊重、自己実現という基本的欲求を示しました。呼吸、疼痛、睡眠、食事などで切迫しているときに、説明を理解したり将来の目標を考えたりしにくいことを予測する手がかりになります。一方、原著でも、欲求は100%ずつ満たす固定階段ではなく、複数が同時に働き、順序の逆転もあり得ると説明されています。家族とのつながりや大切な役割が、生理的苦痛の中でも本人を支える場合があります。
したがって、マズローは「下位欲求以外は後回しでよい」という規則ではありません。緊急性は医学的評価と安全性で判断し、欲求理論は本人にとっての優先や意味を聴く補助にします。
ストレス反応を理解するなら、出来事より「受け止め・資源・対処」を見る
この章の要点同じ病気や入院でも反応が違うのは、出来事の大きさだけでなく、本人の認知的評価と利用できる資源が異なるからです。LazarusとFolkmanのストレス・コーピング理論では、まず出来事が自分にとって損失、脅威、挑戦のどれに近いかを評価し、次に「自分に対処できる力や支援があるか」を見積もると考えます。
看護では「何が一番心配ですか」「変えられそうなことはありますか」「これまで似た困難をどう乗り越えましたか」「頼れる人や制度はありますか」と確認します。問題そのものを変えようとする問題焦点型の対処と、感情を整えようとする情動焦点型の対処は、どちらか一方が常に正しいわけではありません。状況に応じて併用され、時間とともに変化します。
危機理論が役立つのは、通常の対処では均衡を保てず、強い苦痛や機能低下が生じているときです。危機は「大きな出来事があった」というだけでは決まりません。睡眠や食事、服薬、意思決定、日常役割がどの程度崩れたか、安全上の危険がないか、支援へつながれるかを組み合わせて見ます。
希死念慮、自傷・他害の危険、著しい混乱、虐待やネグレクトの疑いなどがある場合は、理論的な説明を続ける前に安全評価と連携を優先します。施設の手順に従い、担当看護師、責任者、医師、精神保健や福祉の専門職など必要な相手へ、本人の発言、行動、変化、確認できた保護要因を具体的に共有します。
必要な援助量を見るなら、オレムのセルフケアとロイの適応を組み合わせる
この章の要点「できる・できない」の二択ではなく、何があればできるのかを考えるには、セルフケア能力と適応反応を分けて見ることが大切です。
オレムのセルフケア不足看護理論では、健康や生活を保つために必要な行為と、本人が実行できる力との差に看護の必要性を見いだします。セルフケア能力は筋力や認知機能だけではありません。知識、経験、意欲、症状、時間、経済状態、住環境、家族や専門職の支援も影響します。
観察では「一人でできるか」だけでなく、準備があればできる、見守りがあればできる、一部を手伝えばできる、現時点では代行が必要、と分けます。必要な援助をすべて代行すると残存能力を使う機会が減る一方、無理に自立を求めると安全や尊厳を損ないます。本人の目標と負担を確認し、代行、共同実施、支援・教育の比重を調整します。セルフケア不足を本人の努力不足と解釈してはいけません。
ロイの適応モデルでは、人を環境と相互作用する適応システムとして捉えます。反応は、生理的機能、自己概念、役割機能、相互依存の4つの様式で整理します。また、現在もっとも直接影響している焦点刺激、それを取り巻く文脈的刺激、影響がはっきりしない残存刺激を考えます。
たとえば手術後に離床が進まないとき、疼痛という焦点刺激だけでなく、過去の転倒経験、病気への不安、家族から期待される役割、支援の受け取り方も反応へ影響し得ます。看護では反応を「不適応」と評価して終えず、何を守るための反応なのか、どの刺激を変えられるか、介入後に4領域がどう変化したかを再評価します。
関係性を理解するなら、ペプロウと家族システムで「誰との間に何が起きているか」を見る
この章の要点対象者理解は本人の内側だけで完結しません。看護師との関係や家族内の相互作用も情報であり、同時にケアへ影響します。ここでは関係の文脈を観察します。
ペプロウの対人関係理論は、看護師―患者関係を方向づけ、作業、終結の3段階で捉えます。方向づけの段階では、互いの役割を明確にし、本人が何を問題と感じているかを共有します。作業の段階では、必要な情報を集め、目標を一緒に決め、ケアや教育を進めます。終結の段階では、できるようになったこと、残る課題、退院後の支援先を確認します。
返答が短い、質問が出ない、援助を断るといった行動を、すぐに「非協力的」と決めてはいけません。関係形成の早い段階で十分な説明や安心が得られていない可能性、過去の医療経験、言語・文化、認知や聴覚の問題、疼痛や疲労も確認します。関係の段階は重なり、短い診療でも起こります。
家族システムの視点では、家族を固定した「支援者」とみなさず、互いに影響し合う単位として捉えます。家族構造、連絡と意思決定の方法、役割分担、関係性、家族自身のニーズ、支援する意思と可能性、介護負担を確認します。病気で一人の役割が変わると、ほかの家族の生活や関係も変わるためです。
家族を含める際は、まず本人が誰を家族・重要他者とみなすか、どの情報を誰と共有してよいか、どの程度の関与を望むかを確認します。家族が「してあげたい」と思うことと、本人が望む支援、家族が実際に継続できることは別です。役割と期待を言葉にし、無理や葛藤があれば多職種で調整します。
理論を選ぶ手順は「問いを決める→事実を集める→仮説を確かめる」
この章の要点理論選びで迷ったら、理論名から始めず、今知りたい臨床上の問いから始めます。一人の対象者に複数の理論を使って構いませんが、すべてを同時に当てはめる必要はありません。
手順は次のとおりです。
- まず安全と病態を確認する。意識、呼吸・循環、急な症状変化など、緊急性を示す所見があれば医学的評価と連携を優先する。
- 問いを一文にする。「退院後の生活で何が障壁か」「説明後も不安が強いのはなぜか」「どこまで本人が実施できるか」など、知りたいことを絞る。
- 問いに合うレンズを選ぶ。生活機能ならICF、情報の漏れならゴードン、意味づけと対処ならストレス・コーピング、援助量ならオレム、関係形成ならペプロウというように選ぶ。
- 事実と解釈を分ける。「食事を半量残した」は事実、「意欲がない」は解釈である。本人の言葉、観察、記録、家族や多職種の情報を区別して集める。
- 仮説を本人へ確かめる。「痛みより、食べると吐くのではないかという心配が強いですか」など、決めつけず確認する。
- 強みと障壁の両方を整理する。できないことだけでなく、できていること、以前うまくいった対処、本人が使える支援を確認する。
- 援助後に同じ問いで再評価する。所見が変わらなければ、仮説、介入、環境、目標のどこを見直すか考える。
理論は説明を作るためではなく、確認すべき情報を増やすために使います。本人の語りと観察事実が理論に合わないときは、本人を理論へ合わせるのではなく、仮説を修正します。
観察は項目の列挙で終わらせず、変化の意味と報告先までつなげる
この章の要点観察で重要なのは、何を見るかに加えて、なぜ見るか、何と組み合わせるかを明確にすることです。単回の印象より、本人の普段の状態、発症・入院前、前回観察からの変化を重視します。
本人の発言と行動が一致しないことは、直ちに虚偽を意味しません。「大丈夫」と話していても食事や睡眠が崩れている場合は、心配を言葉にしにくい、迷惑をかけたくない、説明を理解できていない、症状や認知機能の影響があるなど複数の可能性を考えます。反対に、強い不安があってもセルフケアを継続できる人もいます。感情、機能、行動、環境を組み合わせて見ます。
報告では「理論上、危機です」と結論だけを伝えず、いつから何が変化したか、本人の言葉、観察した行動、生活機能への影響、安全に関する確認、使える支援、実施した対応と反応を具体的に共有します。緊急性がある場合は施設の手順に従って速やかに責任者や医師等へ報告し、緊急性が低くてもセルフケア能力、退院後の環境、家族負担など複数職種に関わる問題は、本人の意向を確認してチームへつなぎます。
身体症状と生活機能
- なぜ見るか
- 病態、安全、活動・参加への影響を捉える
- 変化の意味を考える組み合わせ
- 普段との差、経時変化、治療、睡眠、食事、活動、環境
- 共有・再確認の例
- 急な悪化は担当看護師・責任者・医師へ。測定条件と再測定結果も確認する
本人の意味づけと感情
- なぜ見るか
- 同じ出来事でも脅威や目標が異なるため
- 変化の意味を考える組み合わせ
- 本人の言葉、表情、行動、理解度、価値観
- 共有・再確認の例
- 説明後の理解と希望を再確認し、必要時は意思決定支援へつなぐ
コーピングと支援資源
- なぜ見るか
- 対処の幅と破綻の兆候を捉える
- 変化の意味を考える組み合わせ
- 過去の対処、現在の方法、効果、家族・制度・経済・住環境
- 共有・再確認の例
- 機能低下や安全上の危険は速やかに共有。支援先への接続を確認する
セルフケア能力
- なぜ見るか
- 必要な援助量と残存能力を決める
- 変化の意味を考える組み合わせ
- 能力、症状、知識、意欲、準備、見守り、環境
- 共有・再確認の例
- どの条件ならできたかを申し送り、援助量を再評価する
役割・関係・家族
- なぜ見るか
- 本人と家族の生活が相互に影響するため
- 変化の意味を考える組み合わせ
- 本人の希望、家族の意思と可能性、役割、負担、文化
- 共有・再確認の例
- 情報共有の同意を確認し、多職種で役割と支援計画を調整する
| 観察する領域 | なぜ見るか | 変化の意味を考える組み合わせ | 共有・再確認の例 |
|---|---|---|---|
| 身体症状と生活機能 | 病態、安全、活動・参加への影響を捉える | 普段との差、経時変化、治療、睡眠、食事、活動、環境 | 急な悪化は担当看護師・責任者・医師へ。測定条件と再測定結果も確認する |
| 本人の意味づけと感情 | 同じ出来事でも脅威や目標が異なるため | 本人の言葉、表情、行動、理解度、価値観 | 説明後の理解と希望を再確認し、必要時は意思決定支援へつなぐ |
| コーピングと支援資源 | 対処の幅と破綻の兆候を捉える | 過去の対処、現在の方法、効果、家族・制度・経済・住環境 | 機能低下や安全上の危険は速やかに共有。支援先への接続を確認する |
| セルフケア能力 | 必要な援助量と残存能力を決める | 能力、症状、知識、意欲、準備、見守り、環境 | どの条件ならできたかを申し送り、援助量を再評価する |
| 役割・関係・家族 | 本人と家族の生活が相互に影響するため | 本人の希望、家族の意思と可能性、役割、負担、文化 | 情報共有の同意を確認し、多職種で役割と支援計画を調整する |
架空の学習例:退院支援では、一つの行動を複数のレンズで見直す
この章の要点次は理解のための架空の学習例です。72歳のAさんは脳卒中後に左側の動かしにくさがあり、配偶者と二人暮らしです。自宅へ帰りたい一方、「全部してもらうほうが安心」と話し、整容や更衣を任せています。配偶者は「退院したら私が全部やります」と話しています。
ICFでは、身体機能だけでなく、更衣という活動、庭仕事という参加、自宅の段差、配偶者の支援を整理します。ゴードンでは、活動だけでなく、睡眠、自己概念、役割、コーピング、価値観の抜けがないか確かめます。
オレムの視点では、何もできないと決めず、物品を右側へ準備する、手順を短く示す、疲労前に行うなど、条件を変えて実行できる範囲を観察します。必要なセルフケアと実行能力の差を具体化し、代行と見守りの量を調整します。
ストレス・コーピングの視点では、「全部してもらいたい」を意欲低下と断定せず、転倒への恐怖、失敗して家族へ迷惑をかける不安、自分でできるという見通しの乏しさがないか尋ねます。エリクソンの視点からは、これまでの役割や人生の捉え直しも確認できます。
家族システムの視点では、配偶者の支援意思だけでなく、体力、生活、負担感、本人が望む役割分担を確認します。退院目標は「家族がすべて代行する」か「本人がすべて自立する」かの二択ではありません。本人が安全に担える部分、家族が無理なく担える部分、専門職や社会資源で補う部分を分けます。
再評価では、更衣のどの工程がどの条件でできたか、不安の言葉と行動がどう変わったか、配偶者の負担見通し、本人の退院後の目標が一致しているかを確認します。なお、急な意識や症状の変化があれば、この理論的整理より先に急変評価と連携を行います。
理論は一つに絞らず、本人の語りと変化で更新して使う
この章の要点対象者を理解しやすくする近道は、万能な理論を一つ選ぶことではありません。知りたい問いに合うレンズを選び、必要に応じて組み合わせることです。ICFとゴードンで全体像を広く見て、発達と欲求、ストレスと危機、セルフケアと適応、看護師―患者関係、家族関係へ焦点を移すと、情報の意味を順番に考えられます。
どの理論にも限界があります。段階理論は個人差や文化を十分に説明できず、包括的な枠組みは項目を埋める作業になりやすく、特定の臨床場面で開発された枠組みを別の文化や場面へそのまま一般化することもできません。2026年のゴードンに関するスコーピングレビューも、関連研究はあるものの、因果関係を強める実験・縦断研究がさらに必要としています。家族アセスメント枠組みも北欧中心に検討されたもので、日本での標準手順ではありません。
最後に、理論から得た見立ては完成した評価ではなく、確認待ちの仮説です。「本人はどう語るか」「普段と比べて何が変わったか」「援助後にどう変化したか」を繰り返し確認します。理論と本人の経験が合わないときは、理論ではなく見立てを修正することが、対象者中心の看護につながります。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン厚生労働省・2025別表3(24〜25頁)および別表13(53頁)。身体的・心理的・社会的・文化的側面、生涯発達、対象者中心、臨床判断、意思決定支援を確認。見出し1、7、8。原資料を開く
- How to use the ICF: A practical manual for using the International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF), Exposure draft for commentWorld Health Organization・20131.1(8〜10頁)、1.3(21〜22頁)。生活機能を健康状態・活動と参加・環境因子・個人因子の相互作用で捉えること、診断名から参加を推測できないこと、人を分類しないことを確認。見出し1、2、7。原資料を開く
- Gordon’s Functional Health Patterns and Their Association with Patient and Organizational Outcomes: A Scoping ReviewHealthcare(MDPI)・2026Introduction、Results、Conclusions。11の機能的健康パターン、包括的アセスメントでの役割、7研究の範囲、因果的証拠の限界を確認。見出し1、2、10。原資料を開く
残り7件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- Erikson's Stages of Psychosocial DevelopmentStatPearls Publishing・2026Definition/Introduction、Issues of Concern、Table。8段階、社会的影響、生涯にわたる再活性化、年齢を固定的に扱わない点を確認。見出し1、3。原資料を開く
- A Theory of Human MotivationAmerican Psychological Association・1943Psychological Review 50巻370〜396頁の全文再掲。5つの基本的欲求、相対的充足、複数動機、順序の逆転、文化と状況の影響を確認。見出し1、3。