時間に合わせて読む
目次この記事でわかること19項目+
点線の用語を長押しすると、短い解説が開きます。タップ・クリックでも確認できます。
読む前に押さえたいこと
「セファゾリンとセフトリアキソンは何が違う?」「タゾピペやメロペネムは強い抗生剤だから重症患者に使う?」など、抗菌薬は種類が多く、薬の名前だけを覚えようとすると混乱しやすい分野です。大切なのは、薬剤名を丸暗記することではありません。「どこに感染しているのか」「どの菌を疑うのか」「その菌にどの薬が届くのか」を順番に考えることです。この記事では、病棟でよく使われる抗菌薬を中心に、系統・スペクトラム・培養結果とのつながりまで整理します。
「抗生剤」と「抗菌薬」は同じ?まず用語を整理しよう
この章の要点臨床では「抗生剤」「抗生物質」「抗菌薬」がほぼ同じ意味で使われる場面がありますが、厳密には少し違います。
抗菌薬は、細菌に作用する薬剤全体を指します。一方、抗生物質は本来、微生物などが産生する物質を指す言葉です。「抗生剤」は抗生物質の抗菌作用を利用した薬剤を指す通称として使われています。
現在の感染症診療では、合成された薬剤も含めて細菌に作用する薬剤を広く示せる「抗菌薬」という表現が分かりやすいため、この記事でも以降は原則として抗菌薬と表記します。
なお、抗菌薬が対象にするのは基本的に細菌です。抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬は別の抗微生物薬に分類されます。したがって「感染症だから抗菌薬」というわけではありません。
抗菌薬は「強さ」ではなく5つの情報から選ぶ
この章の要点抗菌薬の使い分けで最も重要なのは、「一番強そうな薬を使う」ことではありません。
まず感染臓器を考え、そこから原因となりやすい微生物を予測します。そのうえで、患者の重症度、アレルギーや腎機能などの背景、過去の培養結果や抗菌薬使用歴、地域・施設の耐性状況などを合わせて抗菌薬を選びます。
厚生労働省の手引きでも、経験的治療を始める前に「原因臓器」と「原因微生物」を想定し、それらに効果を持つ抗菌薬を選択することが基本とされています。培養結果が判明した後は、その情報を使って抗菌薬を再評価します。
つまり、抗菌薬選択の基本は次の流れです。
1
- 考えること
- 感染部位はどこか
- 例
- 肺、尿路、胆道、皮膚、血流など
2
- 考えること
- どの菌が原因になりそうか
- 例
- 肺炎球菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌など
3
- 考えること
- 重症度はどうか
- 例
- バイタル、臓器障害、免疫不全など
4
- 考えること
- 患者背景はどうか
- 例
- アレルギー、腎機能、過去の耐性菌など
5
- 考えること
- 培養・感受性結果はどうか
- 例
- 原因菌、MIC、感受性あり・なし
| 順番 | 考えること | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 感染部位はどこか | 肺、尿路、胆道、皮膚、血流など |
| 2 | どの菌が原因になりそうか | 肺炎球菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌など |
| 3 | 重症度はどうか | バイタル、臓器障害、免疫不全など |
| 4 | 患者背景はどうか | アレルギー、腎機能、過去の耐性菌など |
| 5 | 培養・感受性結果はどうか | 原因菌、MIC、感受性あり・なし |
スペクトラムとは「その抗菌薬がカバーできる菌の範囲」
この章の要点抗菌薬を理解するときに欠かせないのが「抗菌スペクトラム」です。
スペクトラムとは、その抗菌薬がどのような細菌に抗菌活性を持つかという範囲です。カバーする菌が多い薬は「広域」、対象が比較的限られる薬は「狭域」と呼ばれます。
ただし、広域=優秀、狭域=弱いという意味ではありません。
たとえば原因菌がMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)と分かっている場合には、必要以上に多くの菌をカバーする薬よりも、原因菌を確実にカバーする狭域の薬へ変更することが抗菌薬適正使用につながります。
厚生労働省の手引きでは、原因菌が明らかになった後、その菌をカバーできるより狭域な抗菌薬へ変更する「de-escalation(狭域化)」が示されています。
βラクタム系は病棟で最もよく見る抗菌薬グループの一つ
この章の要点ペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系などは、大きく「βラクタム系抗菌薬」に分類されます。
病棟で頻繁に目にするABPC、SBT/ABPC、TAZ/PIPC、CEZ、CTRX、CFPM、MEPMなどもこのグループです。
βラクタム系は細菌の細胞壁合成を阻害する薬剤です。ただし、同じβラクタム系でもカバーできる菌は大きく異なります。
「βラクタム系だから全部似ている」と覚えるのではなく、
「ペニシリン」
↓
「セフェム」
↓
「抗緑膿菌作用を持つ薬」
↓
「カルバペネム」
と、大きな位置づけから整理すると理解しやすくなります。
ペニシリン系は「何を追加した薬か」まで見ると分かりやすい
この章の要点代表的なペニシリン系には、アンピシリン(ABPC)などがあります。
さらに、細菌が作るβラクタマーゼという酵素によって抗菌薬が分解されるのを防ぐため、βラクタマーゼ阻害薬を組み合わせた薬があります。
代表例が、
- SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン
- TAZ/PIPC:タゾバクタム/ピペラシリン
です。いずれも厚生労働省の手引きにβラクタム系・ペニシリン系抗菌薬として掲載されています。
ただし、この2剤は同じ「阻害薬配合ペニシリン」として同一視してはいけません。TAZ/PIPCは緑膿菌を含むグラム陰性菌を想定する場面でも使用される抗菌薬で、より広い範囲をカバーします。緑膿菌に対しては、感受性を確認したうえでTAZ/PIPC、セフェピム、セフタジジムなどが治療候補として示されています。
セフェム系は「世代が上=強い」ではない
この章の要点セフェム系で特に混乱しやすいのが「第1世代」「第3世代」「第4世代」という分類です。
重要なのは、数字が上がるほど単純に強くなるわけではないことです。
代表的な注射薬として、第1世代にはセファゾリン(CEZ)、第3世代にはセフトリアキソン(CTRX)、セフォタキシム(CTX)、セフタジジム(CAZ)、第4世代にはセフェピム(CFPM)があります。
CEZはMSSAなどグラム陽性菌を意識する場面で重要な薬です。実際、黄色ブドウ球菌菌血症でMSSAが確認された場合の治療薬としてCEZが示されています。
CTRXはさまざまな感染症で使用される第3世代セフェムですが、緑膿菌をカバーする薬として扱うことはできません。
一方、同じ第3世代でもCAZは抗緑膿菌作用を持ちます。さらに第4世代のCFPMも、感受性のある緑膿菌に対する選択肢となります。
「第3世代だから全部同じ」と覚えず、薬剤ごとのスペクトラムを見ることが大切です。
セフメタゾールは「第2世代セフェム」と丸暗記しない
この章の要点病棟でよく見るセフメタゾール(CMZ)は、厳密にはセファマイシン系に分類されます。JIHSの抗菌薬一覧でもセファマイシン系として区別されています。
CMZは、腸内細菌目細菌などを想定する腹腔内・尿路系の感染症などで使用されることがあります。
また、ESBL産生腸内細菌目細菌に対しても、すべての状況でカルバペネムが必要とは限りません。JIHSの手引きでは、非重症のUTIや十分にドレナージされた胆道系感染症など、一部の状況でCMZが治療例として示されています。一方、重症例や免疫不全例などではカルバペネム系が推奨される状況があります。
このように「薬剤名だけ」で使い分けるのではなく、感染部位と重症度まで合わせて考える必要があります。
カルバペネム系は広域だが「とりあえずメロペネム」ではない
この章の要点メロペネム(MEPM)やイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)はカルバペネム系抗菌薬です。
カルバペネム系は多くのグラム陽性菌・グラム陰性菌・嫌気性菌をカバーできる非常に広域なβラクタム系抗菌薬で、重症感染症や耐性菌を疑う状況などで重要な選択肢となります。
しかし、広域だからこそ「必要な患者に温存する」という考え方も重要です。
JIHSの資料でも、カルバペネム耐性グラム陰性菌が問題となっている現在、他剤で治療可能な場合にはカルバペネムを極力控える治療戦略が望ましいとされています。
2026年には日本感染症学会・日本化学療法学会から「グラム陰性薬剤耐性菌治療ガイダンス」も公表され、耐性菌が検出された、または強く疑われる場合の標的治療が整理されています。
カルバペネム系は「一番強いから使う薬」ではなく、「この範囲までカバーする必要があるから使う薬」と理解することが大切です。
MRSAを疑うときは通常のセフェム系だけではカバーできない
この章の要点MRSAは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のことです。
代表的な抗MRSA薬には、
- バンコマイシン(VCM)
- テイコプラニン(TEIC)
- リネゾリド(LZD)
- ダプトマイシン(DAP)
などがあります。
MRSAに対してどの薬を選択するかは、感染部位、重症度、腎機能、菌血症の有無などによって異なります。2024年版のMRSA感染症診療ガイドラインでは、菌血症、肺炎、骨・関節感染症など感染部位ごとに治療が検討されています。
特に覚えておきたいのがVCMです。
VCMでは血中濃度を利用したTDMが重要で、JIHSの資料ではMRSA黄色ブドウ球菌菌血症においてAUC 400〜600 μg・h/mLが目標として示されています。また急速投与ではヒスタミン遊離に伴う投与時反応が起こり得るため、投与時間にも注意が必要です。
βラクタム系でカバーしにくい菌には別系統の抗菌薬が必要になる
この章の要点抗菌薬はβラクタム系だけではありません。
代表的な非βラクタム系には、フルオロキノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、リンコマイシン系、ST合剤、メトロニダゾールなどがあります。
マクロライド系にはAZM(アジスロマイシン)、CAM(クラリスロマイシン)などがあります。
特にマイコプラズマやレジオネラなどの「非定型病原体」は、一般的なβラクタム系では治療できません。日本感染症学会でも、非定型肺炎ではβラクタム系が無効であり、マクロライド、テトラサイクリン、キノロン系などが治療選択肢になるとされています。
つまり、「肺炎だからセフトリアキソン」というように感染臓器だけで薬を固定するのではなく、原因微生物まで考える必要があります。
フルオロキノロン系
- 代表例
- LVFX、CPFX
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- グラム陰性菌や一部非定型病原体など。薬剤ごとにスペクトラムが異なる
マクロライド系
- 代表例
- AZM、CAM
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- マイコプラズマ、レジオネラなど非定型病原体を考える場面
テトラサイクリン系
- 代表例
- MINO、DOXY
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- 非定型病原体や一部耐性菌など
アミノグリコシド系
- 代表例
- AMK、GM、TOB
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- 主に好気性グラム陰性菌。TDMが重要になる薬剤がある
リンコマイシン系
- 代表例
- CLDM
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- グラム陽性菌や一部嫌気性菌など。毒素産生抑制目的で組み合わせる場面もある
ST合剤
- 代表例
- ST
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- 尿路感染症や特定の菌・感染症で重要
ニトロイミダゾール系
- 代表例
- MNZ
- 臨床での位置づけを理解するポイント
- 嫌気性菌を意識する感染症など
| 系統 | 代表例 | 臨床での位置づけを理解するポイント |
|---|---|---|
| フルオロキノロン系 | LVFX、CPFX | グラム陰性菌や一部非定型病原体など。薬剤ごとにスペクトラムが異なる |
| マクロライド系 | AZM、CAM | マイコプラズマ、レジオネラなど非定型病原体を考える場面 |
| テトラサイクリン系 | MINO、DOXY | 非定型病原体や一部耐性菌など |
| アミノグリコシド系 | AMK、GM、TOB | 主に好気性グラム陰性菌。TDMが重要になる薬剤がある |
| リンコマイシン系 | CLDM | グラム陽性菌や一部嫌気性菌など。毒素産生抑制目的で組み合わせる場面もある |
| ST合剤 | ST | 尿路感染症や特定の菌・感染症で重要 |
| ニトロイミダゾール系 | MNZ | 嫌気性菌を意識する感染症など |
病棟でよく見る抗菌薬は「何をカバーし、何をカバーしないか」で覚える
この章の要点抗菌薬を一剤ずつ細かく丸暗記する前に、病棟で頻繁に使用される薬の「立ち位置」を押さえておくと理解が進みます。
以下は学習用の大まかな整理であり、実際の治療選択は感染部位、患者背景、培養結果、院内アンチバイオグラムなどによって変わります。
アンピシリン
- 略語
- ABPC
- 系統
- ペニシリン系
- 覚え方の軸
- 感受性のある連鎖球菌・腸球菌などを意識
スルバクタム/アンピシリン
- 略語
- SBT/ABPC
- 系統
- 阻害薬配合ペニシリン
- 覚え方の軸
- ABPCよりカバー範囲が広がる
セファゾリン
- 略語
- CEZ
- 系統
- 第1世代セファロスポリン
- 覚え方の軸
- MSSAを覚える代表薬
セフメタゾール
- 略語
- CMZ
- 系統
- セファマイシン
- 覚え方の軸
- 腸内細菌・嫌気性菌を考える感染症など
セフトリアキソン
- 略語
- CTRX
- 系統
- 第3世代セファロスポリン
- 覚え方の軸
- 市中感染症で頻用。ただし緑膿菌はカバーしない
セフタジジム
- 略語
- CAZ
- 系統
- 第3世代セファロスポリン
- 覚え方の軸
- 抗緑膿菌作用を持つ
セフェピム
- 略語
- CFPM
- 系統
- 第4世代セファロスポリン
- 覚え方の軸
- 緑膿菌を含むグラム陰性菌を想定する場面
タゾバクタム/ピペラシリン
- 略語
- TAZ/PIPC
- 系統
- 阻害薬配合ペニシリン
- 覚え方の軸
- 緑膿菌・嫌気性菌を含め広くカバー
メロペネム
- 略語
- MEPM
- 系統
- カルバペネム
- 覚え方の軸
- 非常に広域。耐性リスクを踏まえて適正使用
バンコマイシン
- 略語
- VCM
- 系統
- グリコペプチド
- 覚え方の軸
- MRSA。TDM・腎機能・投与時間
リネゾリド
- 略語
- LZD
- 系統
- オキサゾリジノン
- 覚え方の軸
- MRSAなどグラム陽性耐性菌で使用
ダプトマイシン
- 略語
- DAP
- 系統
- リポペプチド
- 覚え方の軸
- MRSAなど。ただし肺炎には使用しない
| 抗菌薬 | 略語 | 系統 | 覚え方の軸 |
|---|---|---|---|
| アンピシリン | ABPC | ペニシリン系 | 感受性のある連鎖球菌・腸球菌などを意識 |
| スルバクタム/アンピシリン | SBT/ABPC | 阻害薬配合ペニシリン | ABPCよりカバー範囲が広がる |
| セファゾリン | CEZ | 第1世代セファロスポリン | MSSAを覚える代表薬 |
| セフメタゾール | CMZ | セファマイシン | 腸内細菌・嫌気性菌を考える感染症など |
| セフトリアキソン | CTRX | 第3世代セファロスポリン | 市中感染症で頻用。ただし緑膿菌はカバーしない |
| セフタジジム | CAZ | 第3世代セファロスポリン | 抗緑膿菌作用を持つ |
| セフェピム | CFPM | 第4世代セファロスポリン | 緑膿菌を含むグラム陰性菌を想定する場面 |
| タゾバクタム/ピペラシリン | TAZ/PIPC | 阻害薬配合ペニシリン | 緑膿菌・嫌気性菌を含め広くカバー |
| メロペネム | MEPM | カルバペネム | 非常に広域。耐性リスクを踏まえて適正使用 |
| バンコマイシン | VCM | グリコペプチド | MRSA。TDM・腎機能・投与時間 |
| リネゾリド | LZD | オキサゾリジノン | MRSAなどグラム陽性耐性菌で使用 |
| ダプトマイシン | DAP | リポペプチド | MRSAなど。ただし肺炎には使用しない |
抗菌薬投与前の培養は「あとから薬を狭める」ためにも重要
この章の要点感染症治療では、原因菌が分からない状態で抗菌薬を開始する「経験的治療(empiric therapy)」が必要になることがあります。
しかし、抗菌薬を先に投与すると、培養で菌が検出されにくくなる可能性があります。
厚生労働省の手引きでは、感染症が疑われ抗菌薬を開始する場合、原則として投与前に適切な培養を提出することが示されています。入院患者では抗菌薬開始前、また広域抗菌薬へ変更する前に血液培養を採取することが重要とされています。
看護師にとっては、
「抗菌薬の指示が出た」
↓
「必要な培養採取は終わっているか」
↓
「採取後に抗菌薬を開始する」
という流れを理解しておくことが重要です。
ただし、敗血症など緊急性の高い患者では、培養採取によって必要な治療が不必要に遅れることがないよう、重症度を踏まえた迅速な対応が必要です。
培養結果が出たら「効いているか」だけでなく抗菌薬そのものを見直す
この章の要点培養検査では、原因菌だけでなく、どの抗菌薬に感受性があるかを評価します。
ここでよく見るのがS、I、RやMICです。
MICは「最小発育阻止濃度」のことで、細菌の増殖を抑えるために必要な抗菌薬濃度を示す指標です。ただし「MICの数字が小さい薬ほど、別の抗菌薬より強い」と単純比較するものではありません。薬剤ごと、菌種ごとに設定されたブレイクポイントを使って解釈します。
培養・感受性結果が判明し、原因菌をより狭い薬で治療できると分かれば、広域薬から狭域薬へのde-escalationを検討します。
厚生労働省の手引きでは、治療開始後に効果を必ず再評価し、72時間時点で細菌感染症の証拠がなければ中止を検討すること、原因菌が判明した場合はその菌をカバーする狭域抗菌薬への変更を行うことが示されています。
「1日何回」「何時間かける」にはPK/PDという理由がある
この章の要点抗菌薬では、同じ1日量でも「どのくらいの間隔で投与するか」「どのくらい時間をかけて投与するか」が治療効果に関係します。
その考え方がPK/PDです。
PKは、薬が体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるかを扱う薬物動態です。
PDは、その濃度で細菌にどの程度作用するかという薬力学です。
βラクタム系は一般に、薬物濃度がMICを上回っている時間が効果と関連する「時間依存性」の特徴があります。このため、重症患者などでは投与回数や点滴時間を調整し、MICを上回る時間を確保する考え方があります。2024年に発表された18件・9,108人のRCTを含むメタ解析では、敗血症・敗血症性ショックの重症成人に対するβラクタム系の延長投与が、間欠投与と比較して90日死亡リスク低下と関連しました。適用は患者・薬剤・施設プロトコルにより判断されます。
JIHSの資料でも、重症の緑膿菌感染症などでTAZ/PIPC、CFPM、CAZ等について長時間投与を検討する記載があります。
そのため、抗菌薬の点滴を「同じ量が入ればいい」と考えて、自己判断で投与速度や時間を変更してはいけません。
腎機能は抗菌薬の投与量・間隔を確認する重要な情報
この章の要点抗菌薬の中には腎臓から排泄される割合が高い薬が多くあります。
腎機能が低下すると薬剤が体内に蓄積し、通常の投与量・投与間隔では血中濃度が上昇することがあります。
そのため、抗菌薬投与中はCrだけを見るのではなく、腎機能の変化、尿量、患者背景、投与されている薬剤などを合わせて確認することが重要です。
特にVCMや一部のアミノグリコシド系抗菌薬などではTDMを利用し、血中濃度などをもとに投与設計を調整します。「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022」では、VCM、テイコプラニン、アミノグリコシド系などについてTDMの方法が整理されています。
VCMでは現在、単純にトラフ値だけを目標にする考え方から、AUCを用いた投与設計が重視されています。
抗菌薬投与中は「効いているか」と「有害事象がないか」を同時に見る
この章の要点抗菌薬開始後は、体温だけで効果を判断しません。
バイタルサイン、意識状態、呼吸状態、疼痛、排尿症状など感染部位に応じた症状、WBCやCRPなどの検査値、培養結果などを合わせて経過を見ます。
同時に有害事象にも注意します。
特に抗菌薬投与直後に呼吸困難、血圧低下、全身の発赤、蕁麻疹などが生じた場合は、アナフィラキシーなどを考え迅速な対応が必要です。
VCMでは急速な点滴に関連した紅斑や血圧低下などの投与時反応に注意します。DAPではCK上昇や横紋筋融解症、好酸球性肺炎などが特徴的な有害事象として挙げられています。
また、抗菌薬曝露はC. difficile感染症(CDI)のリスクになります。入院患者で新たな下痢を認めた場合、単なる抗菌薬の副作用と決めつけず、CDIを含めて評価する必要があります。JIHSの手引きでは、過去3か月以内の曝露がCDIのリスクになること、1回の投与でもCDIが起こり得ることが示されています。
「広域抗菌薬に変更=治療が強くなった」とは限らない
この章の要点臨床で誤解しやすいのが、
「セファゾリンよりタゾピペのほうが強い」
「メロペネムになったから病気が悪化した」
という考え方です。
広域化には、患者状態の悪化以外にも、
- 原因菌がまだ分からない
- 耐性菌のリスクが判明した
- 院内感染を疑う状況になった
- 培養結果からそれまでの薬が効かないと判明した
など、さまざまな理由があります。
反対に、MEPMからCEZなど狭域薬へ変更された場合も「弱い薬に下げた」という意味ではありません。原因菌が判明し、より標的を絞った治療へ変更できた可能性があります。
抗菌薬の変更を見たときは「強くなった・弱くなった」ではなく、
「想定している菌がどう変わった?」
「培養結果は出た?」
「スペクトラムを広げた?狭めた?」
と考えると、治療の意図が理解しやすくなります。
看護師は抗菌薬投与を「点滴をつなぐ作業」で終わらせない
この章の要点抗菌薬治療では、看護師が得られる情報が治療評価に直結します。
投与前には、薬剤名・用量・投与経路・投与時間・アレルギー歴を確認します。感染症に対する初回投与であれば、必要な培養検体が採取されているかも確認します。
投与中は、アレルギー症状、バイタルサイン、点滴部位、指示された投与時間が守られているかを確認します。
投与後は、感染症状の改善だけでなく、腎機能、下痢、皮疹、意識状態など薬剤ごとの有害事象を観察します。VCMなどTDMを行う薬剤では、採血時刻と投与時刻も投与設計に関係するため重要な情報になります。
また、培養結果が判明した後に抗菌薬が変更された場合には、その理由を確認してみましょう。
「肺炎だからこの抗菌薬」と暗記するより、
感染部位
→想定菌
→抗菌薬
→培養結果
→治療の再評価
という一本の流れで見ることが、抗菌薬を理解する近道です。
抗菌薬を覚えるなら「系統→代表薬→カバーする菌」の順で整理する
この章の要点抗菌薬を学び始めた段階で、すべての薬剤名とスペクトラムを暗記する必要はありません。
まずは、
- βラクタム系とそれ以外を分ける
- CEZ・CTRX・CMZ・TAZ/PIPC・CFPM・MEPM・VCMなど病棟でよく使う薬を覚える
- MSSA・MRSA・腸内細菌目細菌・緑膿菌・嫌気性菌・非定型病原体との関係を整理する
- 培養結果を見ながら実際の患者で結び付ける
という順番がおすすめです。
特に押さえておきたいのは、
CEZ=MSSAを考える代表薬
CTRX=第3世代だが緑膿菌はカバーしない
CAZ・CFPM・TAZ/PIPC=緑膿菌を考える場面がある
MEPM=非常に広域だが適正使用が重要
VCM=MRSA+TDM
DAP=抗MRSA薬だが肺炎には使わない
というように、「薬剤名+1つの特徴」から知識を増やしていく方法です。各薬の適応は感染部位・感受性・患者背景によって変わるため、この整理をそのまま処方選択へ当てはめるものではありません。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 本編厚生労働省・2023年抗菌薬・抗生物質・抗生剤の定義、抗菌薬適正使用の考え方、経験的治療、培養採取、抗菌薬開始後の再評価、狭域化、抗菌薬分類。原資料を開く
- 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 別冊厚生労働省・2023年MSSA・MRSA、腸球菌、ESBL産生菌、AmpC産生菌、CRE、緑膿菌など、入院患者で問題となる微生物と抗菌薬選択。VCMのTDM、DAPの肺炎への不適、緑膿菌に対する抗菌薬など。原資料を開く
- JAID/JSC感染症治療ガイド2023一般社団法人日本感染症学会・公益社団法人日本化学療法学会・2023年敗血症、呼吸器感染症、尿路感染症、腹膜炎、皮膚軟部組織感染症など16領域と、耐性菌・ブレイクポイント・PK/PDを含む日本の感染症治療全般。原資料を開く
残り6件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- MRSA感染症の診療ガイドライン2024(Executive summary)公益社団法人日本化学療法学会・一般社団法人日本感染症学会・2024年MRSA感染症に対する抗MRSA薬の選択、菌血症、肺炎、骨・関節感染症など感染部位別の考え方。原資料を開く
- 抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022公益社団法人日本化学療法学会・一般社団法人日本TDM学会・2022年バンコマイシン、テイコプラニン、アミノグリコシド系などにおけるTDM、PK/PD指標、投与設計。原資料を開く
- 抗微生物薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス 2024年度改訂版8学会合同抗微生物薬適正使用推進検討委員会・2025年医療機関における抗微生物薬適正使用支援、ASTによる介入・評価の考え方。原資料を開く
- グラム陰性薬剤耐性菌治療ガイダンス公益社団法人日本化学療法学会・一般社団法人日本感染症学会・2026年2026年5月時点のグラム陰性薬剤耐性菌に対する標的治療の最新指針。経験的治療ではなく、AMRが検出された、または強く疑われる場合を対象とする。