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目次この記事でわかること15項目+
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読む前に押さえたいこと
「どの手術のあとにDVTへ注意すればいいの?」「弾性ストッキングやIPCは全員につければいい?」と迷うことがあります。深部静脈血栓症(DVT)は手術名だけで決まるものではなく、手術侵襲、悪性腫瘍、年齢、術後の不動、VTE既往などが重なって発症リスクが変化します。特に下肢整形外科大手術や悪性腫瘍を伴う大手術では注意が必要です。この記事では、DVTが起こる仕組みから、リスクの高い手術、予防法、術後に見るべき下肢・呼吸・循環の変化、報告につなげる考え方まで順番に解説します。
術後に注意するDVTは、肺血栓塞栓症まで含めて考える
この章の要点術後に予防したいのは、深部静脈血栓症(DVT)だけではなく、DVTと肺血栓塞栓症(PTE/PE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE)です。
DVTは、主に下肢や骨盤内の深い静脈に血栓が形成された状態です。その血栓の一部がはがれて静脈血流に乗り、右心系を経由して肺動脈を閉塞すると肺血栓塞栓症になります。
そのため看護では、「脚が腫れていないから大丈夫」と下肢だけで判断するのではなく、術後の突然の呼吸困難、SpO₂低下、頻脈、胸部症状、失神・血圧低下などにも注意する必要があります。
一方、すべてのDVTが肺塞栓へ進展するわけではありません。特に無症候性の遠位型DVTでは経過観察となる場合もあり、血栓の位置、症状、患者背景、進展リスクによって対応が異なります。
手術後にDVTが増えるのは「血流の停滞・血管障害・凝固亢進」が重なるため
この章の要点手術後にDVTが起こりやすくなる理由は、静脈血流の停滞、血管内皮への影響、血液が固まりやすくなる状態が重なりやすいためです。
特に術後は、疼痛、麻酔の影響、安静指示、筋力低下などによって歩行や足関節運動が減ります。通常、下肢静脈の血液は、歩行や足関節運動に伴う下腿筋の収縮、いわゆる筋ポンプ作用によって心臓へ戻ります。この動きが少なくなると、下肢に血液が停滞しやすくなります。
さらに手術侵襲に伴う炎症や組織損傷は凝固系にも影響します。がん患者では、悪性腫瘍自体が血栓形成を促進する因子となることがあります。
つまり「手術をした」という一点より、大きな侵襲+長時間手術+術後不動+患者自身の危険因子が重なるほど注意が必要です。2025年ガイドラインも、手術だけではなく追加危険因子を含めて総合的にリスクを判断する考え方を採っています。
特に注意したいのは人工股関節・人工膝関節・股関節骨折などの下肢整形外科大手術
この章の要点術後DVTを考えるうえで、まず覚えておきたいのが下肢整形外科大手術です。
代表的なのは、
- 人工股関節全置換術(THA)
- 人工膝関節全置換術(TKA)
- 股関節骨折手術
です。
これらの手術では、下肢への手術侵襲に加え、疼痛や荷重制限などによって術後の運動量が低下しやすく、静脈うっ滞が生じやすくなります。
2025年ガイドラインでも、エノキサパリンなどの薬物的予防が日本で承認されている代表的な手術として、人工股関節全置換術、人工膝関節全置換術、股関節骨折手術が挙げられています。これは「薬を必ず使用する」という意味ではなく、これらがVTE予防を特に意識する手術であることを理解する手掛かりになります。
膝関節鏡視下手術など、比較的侵襲が小さく早期歩行が可能な手術は同じ整形外科でも状況が異なります。そのため「整形外科手術=すべて同じリスク」と考えないことが重要です。
人工股関節全置換術
- DVTを考えるうえで重要な理由
- 下肢大手術、術後活動性低下
- 看護で特に確認したいこと
- 離床状況、患肢・反対側の腫脹や疼痛、予防法の実施状況
人工膝関節全置換術
- DVTを考えるうえで重要な理由
- 下肢大手術、膝周囲への侵襲、活動性低下
- 看護で特に確認したいこと
- 下腿症状、足関節運動、離床・歩行状況
股関節骨折手術
- DVTを考えるうえで重要な理由
- 骨折そのもの、手術、受傷後からの不動が重なりやすい
- 看護で特に確認したいこと
- 手術前からの臥床期間、離床状況、呼吸循環変化
脊椎手術
- DVTを考えるうえで重要な理由
- 術後運動制限を伴う場合がある
- 看護で特に確認したいこと
- 神経症状・運動能力、離床制限、圧迫療法の実施状況
| 手術・状況 | DVTを考えるうえで重要な理由 | 看護で特に確認したいこと |
|---|---|---|
| 人工股関節全置換術 | 下肢大手術、術後活動性低下 | 離床状況、患肢・反対側の腫脹や疼痛、予防法の実施状況 |
| 人工膝関節全置換術 | 下肢大手術、膝周囲への侵襲、活動性低下 | 下腿症状、足関節運動、離床・歩行状況 |
| 股関節骨折手術 | 骨折そのもの、手術、受傷後からの不動が重なりやすい | 手術前からの臥床期間、離床状況、呼吸循環変化 |
| 脊椎手術 | 術後運動制限を伴う場合がある | 神経症状・運動能力、離床制限、圧迫療法の実施状況 |
一般外科・泌尿器科・婦人科では「大手術・年齢・がん・VTE既往」が重要
この章の要点非整形外科手術では、「何科の手術か」だけではなく、手術の大きさと患者背景を組み合わせてVTEリスクを評価します。
2025年JCS/JPCPHSガイドラインでは、一般外科・泌尿器科・婦人科手術について低・中・高・最高の4段階で整理しています。
目安として「大手術」は腹部手術、または45分以上を要する手術などが考慮されますが、厳密に手術時間だけで決めるものではなく、麻酔法、出血量、輸血、手術時間などを含めて総合的に評価します。
40歳を超える悪性腫瘍患者の大手術は高リスクに分類され、VTE既往や血栓性素因がある患者の大手術は最高リスクに位置づけられています。
そのため、例えば同じ腹部手術でも、若く短期間で離床できる患者と、高齢・活動性がん・VTE既往・長期臥床が重なる患者では予防の考え方が異なります。
低リスク
- 一般外科・泌尿器科・婦人科手術の代表的な考え方
- 60歳未満の非大手術、40歳未満の大手術
中リスク
- 一般外科・泌尿器科・婦人科手術の代表的な考え方
- 60歳以上または危険因子を伴う非大手術、40歳以上または危険因子を伴う大手術
高リスク
- 一般外科・泌尿器科・婦人科手術の代表的な考え方
- 40歳以上の悪性腫瘍の大手術
最高リスク
- 一般外科・泌尿器科・婦人科手術の代表的な考え方
- VTE既往または血栓性素因を伴う大手術
| リスク | 一般外科・泌尿器科・婦人科手術の代表的な考え方 |
|---|---|
| 低リスク | 60歳未満の非大手術、40歳未満の大手術 |
| 中リスク | 60歳以上または危険因子を伴う非大手術、40歳以上または危険因子を伴う大手術 |
| 高リスク | 40歳以上の悪性腫瘍の大手術 |
| 最高リスク | VTE既往または血栓性素因を伴う大手術 |
がん手術では「手術侵襲」と「悪性腫瘍そのもの」のリスクが重なる
この章の要点悪性腫瘍の大手術は、術後VTEを特に意識する状況です。理由は、手術による侵襲や不動だけではなく、悪性腫瘍そのものがVTEの危険因子になるためです。
2025年ガイドラインでは悪性疾患を追加危険因子とし、特に活動性がんを強い危険因子の一つとして扱っています。また、がん化学療法も追加リスクとして挙げられています。
したがって消化器がん、婦人科がん、泌尿器がんなどでは、「腹部手術だから」という理由だけでなく、活動性がん、年齢、化学療法、中心静脈カテーテル、長期臥床などが重なっていないかを見る必要があります。
看護師が情報収集するときも、「術式」だけを確認して終わらず、がん治療歴や既往歴、術前からのADLをセットで確認するとリスクを把握しやすくなります。
手術名以上に重要なこともある「患者側の追加危険因子」
この章の要点同じ手術を受けてもDVTリスクが異なるのは、患者ごとに追加危険因子が違うためです。
2025年ガイドラインでは、肥満やエストロゲン療法、静脈瘤のほか、高齢、長期臥床、心不全、呼吸不全、悪性疾患、中心静脈カテーテル、がん化学療法、重症感染症などが挙げられています。
さらにVTE既往、血栓性素因、下肢麻痺、下肢ギプス固定、活動性がんは、より強い危険因子として示されています。
特に重要なのがVTE既往です。「以前DVTになったが現在は治っている」患者でも、既往そのものが次の周術期リスク評価に影響します。
看護師の術前・術後情報収集では、
「以前、脚に血栓ができたことはないか」
「肺塞栓の既往はないか」
「普段から歩けているか」
「術前から何日程度動けていないか」
「麻痺やギプス固定はないか」
「活動性がんや化学療法はないか」
といった情報が、予防法を理解するうえで重要です。
VTE既往
- なぜ注意するか
- 再びVTEを起こすリスク評価上、重要な情報
長期臥床
- なぜ注意するか
- 下腿筋ポンプが働きにくく静脈うっ滞につながる
下肢麻痺
- なぜ注意するか
- 自発運動が少なく静脈還流が低下しやすい
活動性がん
- なぜ注意するか
- がん自体に伴う凝固亢進などが関与
高齢
- なぜ注意するか
- 複数の危険因子や活動性低下を伴うことがある
中心静脈カテーテル
- なぜ注意するか
- VTEの追加危険因子として評価される
重症感染症
- なぜ注意するか
- 炎症・臥床など複数の要因が重なり得る
肥満
- なぜ注意するか
- VTEの追加危険因子の一つ
| 危険因子の例 | なぜ注意するか |
|---|---|
| VTE既往 | 再びVTEを起こすリスク評価上、重要な情報 |
| 長期臥床 | 下腿筋ポンプが働きにくく静脈うっ滞につながる |
| 下肢麻痺 | 自発運動が少なく静脈還流が低下しやすい |
| 活動性がん | がん自体に伴う凝固亢進などが関与 |
| 高齢 | 複数の危険因子や活動性低下を伴うことがある |
| 中心静脈カテーテル | VTEの追加危険因子として評価される |
| 重症感染症 | 炎症・臥床など複数の要因が重なり得る |
| 肥満 | VTEの追加危険因子の一つ |
「腹腔鏡・ロボット手術だからDVTが多い」と一律には考えない
この章の要点腹腔鏡手術では気腹によって静脈還流が低下する可能性があるため、「開腹よりDVTが多いのでは」と考えたくなります。しかし、低侵襲手術だから一律にVTEが増えるとはいえません。
2025年ガイドライン作成者による解説では、その後の研究で腹腔鏡手術のVTE発症頻度が開腹手術より増加しなかった報告が紹介されています。術中出血や侵襲の減少、早期離床が可能になったことなどが関係すると考えられています。
ただし、「腹腔鏡だからVTE予防が不要」という意味でもありません。
例えば腹腔鏡下のがん手術でも、活動性がん、高齢、長時間手術、過去のVTE、術後活動性低下などがあればリスクは上がります。
術式の名称だけで決めず、患者全体のリスクを評価することが重要です。
DVT予防の土台は、可能な患者での早期離床と積極的な運動
この章の要点周術期VTE予防の基本は、可能な範囲で早期離床・積極的な運動を進めることです。
2025年ガイドラインでは、VTEリスクのある周術期患者について、早期離床と積極的運動が推奨クラスIとされています。
歩行や足関節運動によって下腿筋が収縮すると、静脈血を中枢側へ戻す筋ポンプ作用が働きます。これにより静脈うっ滞を減らすことが予防につながります。
看護では単に「歩いてください」と促すのではなく、
- 安静度
- 荷重制限
- 血圧や循環状態
- 疼痛
- めまい
- 麻痺
- 術後出血
- ドレーンやルート類
を確認したうえで、安全に動ける方法を考えます。
離床できない患者でも、禁止されていなければ足関節の底背屈など、自力で行える下肢運動が選択肢になります。
ただし術式や整形外科的制限によって許容される運動は異なるため、安静度や荷重指示を優先します。
弾性ストッキング・IPC・抗凝固療法は、リスクに合わせて選択する
この章の要点VTE予防は「全員に同じセットを行う」のではなく、VTEリスクと出血リスクを比較して選択します。
2025年ガイドラインでは、中リスクでは早期離床に加えて弾性ストッキングまたは間欠的空気圧迫法(IPC)を用います。IPCは中リスクに対し推奨クラスI、弾性ストッキングはIIaです。
高リスクでは早期離床に加え、IPCまたは抗凝固療法が推奨されています。
最高リスクでは、抗凝固療法とIPC、または抗凝固療法と弾性ストッキングを組み合わせます。
一方、出血リスクが高い患者では抗凝固薬がかえって問題になることがあるため、IPCなどの理学的予防を中心とする場合があります。
この点は、術後出血が重大な結果につながり得る患者を看護するときに特に重要です。「DVTリスクが高い=必ず抗凝固薬」ではありません。
低
- 2025年ガイドラインにおける基本的な予防の考え方
- 早期離床・積極的運動
中
- 2025年ガイドラインにおける基本的な予防の考え方
- 早期離床・積極的運動+弾性ストッキングまたはIPC
高
- 2025年ガイドラインにおける基本的な予防の考え方
- 早期離床・積極的運動+IPCまたは抗凝固療法
最高
- 2025年ガイドラインにおける基本的な予防の考え方
- 早期離床・積極的運動+抗凝固療法とIPC、または抗凝固療法と弾性ストッキング
出血リスクが高い
- 2025年ガイドラインにおける基本的な予防の考え方
- 抗凝固療法の利益と出血リスクを検討し、IPCなどの理学的予防を考慮
| VTEリスク | 2025年ガイドラインにおける基本的な予防の考え方 |
|---|---|
| 低 | 早期離床・積極的運動 |
| 中 | 早期離床・積極的運動+弾性ストッキングまたはIPC |
| 高 | 早期離床・積極的運動+IPCまたは抗凝固療法 |
| 最高 | 早期離床・積極的運動+抗凝固療法とIPC、または抗凝固療法と弾性ストッキング |
| 出血リスクが高い | 抗凝固療法の利益と出血リスクを検討し、IPCなどの理学的予防を考慮 |
IPC・弾性ストッキングは「装着されているか」だけでなく、効いている状態かを見る
この章の要点IPCや弾性ストッキングは、装着しただけで看護が終わるものではありません。正しく使用できているかを継続して確認する必要があります。
IPCは下肢を周期的に圧迫し、静脈血を中枢側へ送り出すことで静脈うっ滞を減らします。弾性ストッキングも下肢へ段階的な圧迫を加え、静脈還流を補助します。
観察では、
- 指示された予防法が実施されているか
- IPCのカフがずれていないか
- チューブが屈曲・外れていないか
- 装置が実際に作動しているか
- 弾性ストッキングにしわ・丸まり・食い込みがないか
- 皮膚の発赤、圧迫痕、水疱、疼痛、しびれなどがないか
- 足趾の色調・冷感など末梢循環に異常がないか
を確認します。
特に感覚障害、循環障害、浮腫、脆弱な皮膚がある患者では、圧迫による皮膚障害を見逃さないことが重要です。
また、すでにDVTを疑う変化が出現した場合に「もっと強く圧迫すればよい」と自己判断するのではなく、いったん状態を評価し、医師へ情報共有して診断・対応につなげます。
術後DVTでは「片脚の腫れ・疼痛・左右差」を経時的に見る
この章の要点DVTを疑うきっかけとして重要なのは、新しく出現した下肢の左右差です。
観察するのは、
- 腫脹
- 疼痛
- 熱感
- 発赤・色調変化
- 浮腫
- 周径の左右差
- 患者が訴える張った感じ・重い感じ
などです。
重要なのは、一項目だけでDVTと決めないことです。
例えば術後の患肢は手術そのものによって腫れていることがあります。一方で、昨日より腫脹が急に強くなった、新たに片側の下腿痛が出現した、左右差が拡大しているなど、普段からの変化が重要です。
周径を測定する場合も、測定部位が毎回違えば比較できません。同じ位置・同じ条件で経時変化を見る必要があります。
また、症状が乏しいDVTも存在します。無症候性遠位DVTが画像検査で発見されることもあるため、「下腿痛がない=DVTなし」とは判断できません。
突然の呼吸困難・SpO₂低下・頻脈・血圧低下は肺血栓塞栓症を含めて緊急評価する
この章の要点DVT患者で最も警戒したい合併症の一つが、血栓が肺動脈へ移動する肺血栓塞栓症(PE)です。
術後患者に、
- 突然の呼吸困難
- 原因のはっきりしないSpO₂低下
- 急な頻脈
- 胸痛・胸部不快感
- 冷汗
- 不穏
- 失神・意識状態の変化
- 血圧低下
などが出現した場合は、PEを含む急変を考えて迅速に評価します。
もちろん、術後低酸素血症には無気肺、肺炎、出血、心不全など他の原因もあります。したがってSpO₂だけでPEを診断するのではありません。
看護師はまずABCを意識しながら意識状態、呼吸数、SpO₂、脈拍、血圧などを再評価し、酸素投与など施設の急変対応手順・指示に沿って対応し、医師や急変対応チームへ速やかに連絡します。
報告するときは「SpO₂が低いです」だけではなく、
「術後何日目か」
「いつから、どのように変化したか」
「SpO₂、呼吸数、脈拍、血圧」
D-dimerだけでは術後DVTを診断できず、必要に応じて下肢静脈エコーなどで確認する
この章の要点DVTが疑われたとき、D-dimerは参考になる検査ですが、D-dimer高値だけでDVTとは診断できません。
D-dimerは、体内で形成されたフィブリン血栓が分解される際に増える物質です。そのため血栓形成を反映しますが、手術、炎症、悪性腫瘍、高齢などでも上昇します。
つまり術後患者では、DVTがなくても高値になることがあります。
特に「○μg/mL以上なら必ずDVT」という全術後患者に共通する一律の基準を作ることは適切ではありません。
DVTの評価では、症状、リスク背景、臨床的疑いと組み合わせ、必要に応じて下肢静脈超音波検査などの画像検査へつなげます。
日本では、がん手術患者など一部の高リスク群で術前D-dimerと下肢静脈エコーを組み合わせたスクリーニングも行われていますが、ガイドラインではスクリーニングの有用性を示す研究とそうでない研究の両方があることも指摘されています。したがって全患者に同じ検査を行うという意味ではありません。
看護師は検査値単独で判断せず、「術後何日目なのか」「症状があるのか」「値がどのように変化したのか」「患者のVTEリスクは高いか」を含めて情報を整理します。
患者には「血栓予防のために動く理由」を説明すると予防行動につながる
この章の要点早期離床や足関節運動は、患者からすると「手術したばかりなのに、なぜもう動くの?」と感じることがあります。そのため、予防の意味を伝えることが重要です。
例えば、
「手術後は動く量が減ると脚の静脈の血流が滞り、血栓ができやすくなります。安全を確認しながら少しずつ動くことが血栓予防にもなります」
と説明すると、離床や運動の目的を理解しやすくなります。
IPCについても、
「脚を定期的に圧迫して、動けない間の血流を助ける機械です」
と説明できます。
退院後については、患者ごとの活動制限を守ったうえで、長時間同じ姿勢を続けないことや、医療者から指示された運動を続けること、片脚の急な腫れ・痛み、突然の息苦しさなどが出現した場合は医療機関へ相談することを伝えます。
ただし術後の運動量や荷重制限は術式によって大きく異なるため、「DVT予防だから必ず歩く」と一律に説明せず、主治医・リハビリテーション職種の指示された範囲で行います。
「DVTを起こしやすい手術」を覚えるより、リスクが重なる患者を見つけることが重要
この章の要点術後DVTを理解するうえで最も重要なのは、「この手術ならDVT、この手術なら安全」と単純に分類しないことです。
まず特に注意したい代表例として、人工股関節全置換術、人工膝関節全置換術、股関節骨折手術などの下肢整形外科大手術があります。
非整形外科では、悪性腫瘍を伴う大手術、長時間・大きな侵襲を伴う手術などでリスクが高くなります。
そこに、
- VTE既往
- 活動性がん
- 高齢
- 長期臥床
- 下肢麻痺
- 血栓性素因
- 重症感染症
- 中心静脈カテーテル
- がん化学療法
などの患者側因子が重なるほど注意が必要です。
予防の基本は、安全が確保できる範囲での早期離床・運動です。リスクに応じて弾性ストッキング、IPC、抗凝固療法などを組み合わせますが、抗凝固療法では同時に出血リスクも考慮します。
看護では、予防法が実際に機能しているか、患者がどこまで動けているか、下肢に新たな左右差がないかを経時的に確認します。そして突然の呼吸困難やSpO₂低下、頻脈、血圧低下などが出現した場合は、肺血栓塞栓症を含む急変として迅速な評価・報告につなげることが重要です。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- JCS/JPCPHS 2025 Guideline on Pulmonary Hypertension and Pulmonary Embolism/Deep Vein ThrombosisJapanese Circulation Society / Japanese Pulmonary Circulation and Pulmonary Hypertension Society・20262025年改訂版ガイドラインの英語全文版。第XII章 Prevention of Venous Thromboembolism、Recommendation Table 35、Tables 17-19を確認。周術期VTEリスク分類、追加危険因子、早期離床、弾性ストッキング、IPC、抗凝固療法、出血リスク、整形外科手術における薬物的予防の記載を見出し1-6、8-15に使用。原資料を開く
- 2025年改訂版肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン日本循環器学会・日本肺高血圧・肺循環学会・2025日本語公式原文。第4章VTEの予防を検索可能範囲で確認し、一般外科・泌尿器科・婦人科のリスク評価、下肢整形外科手術、脊椎手術、早期離床・IPC等の日本語表現を英語全文版と照合した。見出し3、4、8、9の確認に使用。原資料を開く
- VTEの予防日本血栓止血学会・20252025年ガイドライン作成者による解説。VTE発症リスクの層別化、Caprini Score、周術期予防、すべての入院患者に対する早期離床、低侵襲手術とVTEの関係を確認。主に見出し7、8の補足根拠として使用。原資料を開く
実践時は最新情報と所属施設の手順をご確認ください。