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読む前に押さえたいこと
「ニュースで見た新しい薬は、いつから使えるのでしょうか」。患者さんのこの問いには、治療への期待だけでなく、病状が進む不安、仕事や家族との生活を守りたい思いが含まれることがあります。新薬は、治験が終わればすぐに誰でも使えるわけではありません。人での有効性・安全性を調べ、国の承認を受け、保険適用や供給などの条件を確認する必要があります。この記事では、日本の医療用新薬を中心に、治験開始から通常診療で使えるまでの期間の読み方、早期に届ける制度、承認前に使用を検討できる場合を整理します。その上で、看護職が見通しを説明し、本人の希望と生活に沿った意思決定を支える方法を考えます。
治験から使えるまでの期間は、起点と「使える」の意味で変わる
この章の要点新薬の治験には、説明用の目安として3~7年という数字があります。その後に承認申請・審査などが続くため、通常診療で使えるまでの見通しは年単位になることがあります。ただし、「治験開始から何年後に使える」と一律に約束できる数字ではありません。
日本製薬工業協会の解説では、臨床試験・治験を3~7年、基礎研究からの開発全体を9~17年としています。この資料の図は2012年の資料に基づきます。開発の長さを理解するための概略であり、2026年に開発中の薬の平均期間や、特定薬剤の発売予測として扱うことはできません。[日本製薬工業協会「くすりの情報Q&A」](https://www.jpma.or.jp/about_medicine/guide/med_qa/q33.html)
また、基礎研究から数えた年数と、初めて人に投与する治験から数えた年数は異なります。基礎研究は薬の候補を探す研究、非臨床試験は細胞や動物などで作用・安全性を調べる試験です。これらは一般に、人を対象にする治験より前から進められます。[PMDA「RS総合相談・RS戦略相談パンフレット」](https://www.pmda.go.jp/files/000239798.pdf)
本記事では、人での開発を始める時点から、日本の通常診療で使用するまでを中心に考えます。海外で治験が先行している薬では、日本で患者募集が始まった日が、人での開発全体の開始日とは限りません。日本での募集開始からさらに3~7年かかる、と機械的に当てはめることも適切ではありません。
「使える」にも違いがあります。治験の参加者として使用すること、製造販売が承認されること、保険診療で使用できるようになること、受診先で本人への投与を始められることは、それぞれ別です。患者に説明するときは、まずどの段階を尋ねているかを確認する必要があります。
治験
- 期間の起点・終点
- 人での開発開始から、承認に必要な試験成績を得るまで
- 数字の読み方
- 3~7年は説明用の概略。疾患・薬剤・試験計画で異なる
承認審査
- 期間の起点・終点
- 承認申請から承認まで
- 数字の読み方
- 通常品目12か月、優先品目9か月は審査の目標。詳細は見出し4
薬価収載
- 期間の起点・終点
- 承認から、保険診療で使うための薬価基準収載まで
- 数字の読み方
- 原則60日以内、遅くとも90日以内という標準処理期間。例外は見出し5
本人への使用開始
- 期間の起点・終点
- 供給・受診先での取扱い・本人の適応等を確認して開始
- 数字の読み方
- 上記の数字だけでは決められない
| 段階 | 期間の起点・終点 | 数字の読み方 |
|---|---|---|
| 治験 | 人での開発開始から、承認に必要な試験成績を得るまで | 3~7年は説明用の概略。疾患・薬剤・試験計画で異なる |
| 承認審査 | 承認申請から承認まで | 通常品目12か月、優先品目9か月は審査の目標。詳細は見出し4 |
| 薬価収載 | 承認から、保険診療で使うための薬価基準収載まで | 原則60日以内、遅くとも90日以内という標準処理期間。例外は見出し5 |
| 本人への使用開始 | 供給・受診先での取扱い・本人の適応等を確認して開始 | 上記の数字だけでは決められない |
第I相・第II相・第III相では、確認する疑問が違う
この章の要点治験は、承認に必要な人での有効性・安全性のデータを集める試験です。一般的な開発では、少人数での安全性確認から、患者での効果や用量の検討、より多くの患者での検証へ進みます。
第I相は、主に安全性や薬が体内でどう動くかを調べる段階です。薬物動態とは、薬が吸収され、体内に分布し、代謝・排泄される過程を指します。第II相では患者を対象に効果や安全性を検討し、使用する量などを絞り込みます。第III相では、より多くの患者で有効性・安全性を検証します。[PMDA「医薬品の開発プロセス」](https://www.pmda.go.jp/files/000239798.pdf)
第I相は通常、健康な成人を対象にしますが、抗がん薬の治験では第I相から患者を対象にする場合があります。また、国立がん研究センターは、患者数の少ない希少がんなどでは、第II相の成績を基に承認申請する場合があると説明しています。したがって、すべての薬が同じ対象・順序・期間で進むわけではありません。[国立がん研究センター東病院「治験・臨床研究とは」](https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/clinical_trial/patient/info/index.html)
看護職がニュースを読む際は、「何相か」に加えて、何の病気の、どのような患者を対象に、何を確かめる試験なのかを確認します。第III相という表示だけで発売時期は分かりません。試験を開始した段階なのか、患者の登録が終わったのか、結果が解析されたのかでも、意味が変わります。
第I相
- 一般的な対象
- 通常は少人数の健康成人。抗がん薬などでは患者
- 主に確認すること
- 安全性、忍容性、薬物動態など
- 読み違えないための注意
- 忍容性は、副作用等を含めて使用に耐えられる程度。効果の確立を意味しない
第II相
- 一般的な対象
- 対象疾患の患者
- 主に確認すること
- 効果の見込み、安全性、用量など
- 読み違えないための注意
- 有望な結果があっても、承認や本人への効果が保証されるわけではない
第III相
- 一般的な対象
- より多くの患者
- 主に確認すること
- 有効性・安全性の検証。標準治療等との比較
- 読み違えないための注意
- 試験終了後にも解析、申請準備、審査がある
| 段階 | 一般的な対象 | 主に確認すること | 読み違えないための注意 |
|---|---|---|---|
| 第I相 | 通常は少人数の健康成人。抗がん薬などでは患者 | 安全性、忍容性、薬物動態など | 忍容性は、副作用等を含めて使用に耐えられる程度。効果の確立を意味しない |
| 第II相 | 対象疾患の患者 | 効果の見込み、安全性、用量など | 有望な結果があっても、承認や本人への効果が保証されるわけではない |
| 第III相 | より多くの患者 | 有効性・安全性の検証。標準治療等との比較 | 試験終了後にも解析、申請準備、審査がある |
治験に時間がかかるのは、患者を集め、変化を追い、結果を検証するため
この章の要点治験の期間は、薬を投与する日数だけでは決まりません。対象となる患者の募集、治療後の経過観察、結果の解析、次の試験の準備が必要です。
患者の状態や併用治療が異なれば、効果・安全性の解釈も変わります。そのため、治験では参加できる条件と参加できない条件を定めます。条件を満たす人が少ない疾患では、必要な情報を集めること自体に時間がかかります。厚生労働省の有識者検討会報告書も、患者募集や開発体制、申請準備に関わる課題を整理しています。[厚生労働省「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 報告書」](https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001215514.pdf)
効果を評価するためには、結果が分かるまで追跡する時間も必要です。たとえば、投与後の症状を短期間で評価する試験と、病気の進行などを一定期間追う試験では、必要な観察期間が異なります。比較試験では、新薬を使った人の変化だけでなく、比較する治療を受けた人の変化も評価します。[国立がん研究センター東病院「第III相臨床試験」](https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/clinical_trial/patient/info/index.html)
さらに、治験成績以外にも、薬を一定の品質で製造できることなどを確認します。承認に必要な資料をそろえる工程があるため、「最後の患者への投与が終わった」と「申請できる」は同じではありません。[PMDA「医薬品の開発プロセス」](https://www.pmda.go.jp/files/000239798.pdf)
開発が続けば必ず発売されるわけでもありません。有効性、安全性などの評価によって、開発が中止される可能性があります。患者から「何年待てばよいか」と尋ねられたときは、経過した年数とともに、現在の段階と、まだ確かめる必要がある事項を説明することが大切です。
承認申請後の「通常12か月・優先9か月」は、すべての薬の期限ではない
この章の要点新医薬品の承認審査には、通常品目12か月・優先品目9か月という目標があります。ただし、これは治験開始から数えた期間でも、すべての申請品目に保証された承認期限でもありません。
PMDAは、治験成績などを基に品質・有効性・安全性を審査し、必要な調査を行います。薬事審議会での審議等を経て、最終的に厚生労働大臣が製造販売の承認を判断します。[PMDA「RS総合相談・RS戦略相談パンフレット」](https://www.pmda.go.jp/files/000239798.pdf)
第五期中期目標では、その年度に承認された品目の「申請から承認までの総審査期間」について、80%タイル値で通常12か月、優先9か月を達成することが示されています。80%タイル値は、期間を短い順に並べたときの、おおむね80%の位置にある値です。平均値とは異なります。[厚生労働省「PMDA中期目標」別紙](https://www.pmda.go.jp/files/000267755.pdf)
この指標の対象は、その年度に承認された品目です。審査中の品目や承認に至らない品目を含め、申請から12か月たてばすべて使えるという意味ではありません。申請前の治験や資料作成の期間、承認後の保険適用・供給の期間も含みません。
患者には「申請後の審査には目標がありますが、承認されるか、いつ承認されるかは品目ごとに確認が必要です」と伝えます。審査目標を治療開始日の約束に変えないことが、信頼関係を守ります。
承認後も、保険適用と本人への使用条件を確認する
この章の要点製造販売が承認されても、その日に誰でも保険診療で使えるとは限りません。通常の保険診療で使用するためには、薬価収載という段階を確認します。薬価収載は、保険診療で使う医薬品とその公定価格を薬価基準に載せることです。
2026年4月以降適用される厚生労働省通知では、新医薬品の承認から薬価収載までの標準的な事務処理期間は、原則60日以内、遅くとも90日以内とされています。ただし、収載希望書や必要資料の提出が遅れた場合、不備の補正に応じない場合、薬価算定案等への不服がある場合などは例外です。[厚生労働省「医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて」](https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001667931.pdf)
これは薬価収載の手続の期間です。製品の供給や受診先での取扱いを確認した上で、本人に投与できるか判断する段階まで保証する数字ではありません。厚生労働省の収載品目リストは、保険診療で使う医薬品を確認する入口になります。[厚生労働省「薬価基準収載品目リスト」](https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/tp20260401-01.html)
本人への使用では、承認された対象と本人の状態が合うかも確認します。同じ病名でも、年齢、病気の段階、これまでの治療、必要な検査の結果、併存疾患などによって判断が変わり得ます。承認された効能・効果とは、その薬が使用される対象となる病気や状態です。効能・効果、用法・用量、禁忌、使用上の注意を薬剤ごとに確認します。
条件付承認の薬では、承認後の調査や適正使用のための措置、施設等の要件が付く場合もあります。[厚生労働省「医薬品の条件付承認の取扱いについて」](https://www.pmda.go.jp/files/000280413.pdf)
看護職は、医師・薬剤師とともに、承認・保険適用・供給・本人の適応という別々の確認を整理します。「新薬が出た」という知らせを、本人の治療選択へつなぐには、この確認が必要です。
早期に届ける制度はあるが、必要な評価や承認後の検証を伴う
この章の要点医療上の必要性が高い薬を早期に届ける制度があります。何を優先する制度なのか、承認時にどこまで分かっているのかを分けて理解する必要があります。
優先審査は、対象となる申請を優先して審査する仕組みです。重篤な病気を対象とし、既存の薬や治療と比べて有効性・安全性が医療上明らかに優れると認められるものなどが対象になります。希少疾病用医薬品についても、優先審査に該当するとされた品目という条件があります。[厚生労働省「優先審査等の取扱いについて」の改正後通知](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8208&dataType=1&pageNo=1)
先駆的医薬品の指定制度は、画期性、対象疾患の重篤性、極めて高い有効性などの条件を踏まえ、指定品目の相談・審査を優先する仕組みです。第五期中期目標では、指定品目の総審査期間は全件6か月が目標とされています。6か月は、薬の発見や治験開始からの総期間ではありません。[PMDA「先駆的医薬品等指定制度」](https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/0002.html)、[厚生労働省「PMDA中期目標」](https://www.pmda.go.jp/files/000267755.pdf)
条件付承認は、一定の条件の下で早期の承認を可能にし、承認後に必要な試験・調査等を行う仕組みです。制度の見直しに関する改正法は、2026年5月1日に施行されています。[PMDA「医薬品の条件付承認制度への対応」](https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/0045.html)
対象には、医療上特に必要性が高いことに加え、得られた試験成績等で一定の安全性が示され、申請する効能・効果を合理的に予測できることなどが求められます。承認後には、有効性・安全性をより確かなものにする試験・調査が条件となります。結果に応じて承認内容や条件が変更され、承認が取り消される場合もあります。[厚生労働省「医薬品の条件付承認の取扱いについて」](https://www.pmda.go.jp/files/000280413.pdf)
患者への説明では、早く使用の機会を得られる点と、承認後も検証する事項がある点を併せて伝えます。どの制度にも共通して「治験が始まれば短期間で必ず使える」という保証はありません。
承認前に使う経路はあるが、参加条件・同意・費用の確認が必要
この章の要点未承認の薬でも、治験などの枠組みで承認前の使用を検討できる場合があります。ただし、本人が希望すれば使用できるとは限らず、通常診療で広く使える状態とは区別します。
治験では、病気の状態、これまでの治療、臓器機能など、試験ごとの参加条件に合うかを確認します。比較試験の場合、試験の設計によっては、新薬を希望しても標準治療などの比較群に割り付けられる可能性があります。割付けは、参加者を治療群に分けることです。試験によってはプラセボという、有効成分を含まない比較用の薬が使われます。[国立がん研究センター東病院「治験・臨床研究とは」](https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/clinical_trial/patient/info/index.html)
参加するかどうかは本人の自由意思です。説明と同意を意味するインフォームド・コンセントでは、目的、方法、期待する効果、予測される不利益、参加しない場合の治療などを理解できるよう説明します。質問や検討の時間を持ち、参加しないことや途中でやめることを選べます。不参加を理由に不利益を受けないことも説明されます。[厚生労働省「インフォームド・コンセント」](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/fukyu3.html)
通院・検査が増える可能性があるため、医療費だけでなく、交通費、仕事を休む必要、付き添いなども確認します。治験薬や検査の費用が治験依頼者の負担となる場合がありますが、すべて無料とは限りません。具体的な費用と日程は、担当医師やCRCに確認します。CRCは臨床研究コーディネーターで、治験の説明や実施、患者と関係者の連絡を支援する職種です。[国立がん研究センター中央病院「よくあるご質問」](https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/clinical_trial/patient/faq/index.html)
治験に参加できない場合には、人道的見地からの拡大治験や患者申出療養を相談できることもあります。それぞれ対象や確認手続が異なります。
通常の治験
- どのような枠組みか
- 承認のためのデータを集める試験に参加する
- 主な条件・限界
- 募集状況と参加条件の確認が必要。新薬群への割付けや本人への効果は保証されない
拡大治験
- どのような枠組みか
- 主たる治験に参加できない患者へ、人道的見地から治験の枠組みで提供する
- 主な条件・限界
- 原則、生命に重大な影響があり、有効な既存治療がない疾患。国内開発の最終段階などの条件があり、実施義務はない
患者申出療養
- どのような枠組みか
- 患者の申出を起点に、保険外の医療と保険診療を制度上併用する
- 主な条件・限界
- 科学的根拠、実施計画、安全性等の確認が必要。未承認薬など保険外部分は原則自己負担
| 経路 | どのような枠組みか | 主な条件・限界 |
|---|---|---|
| 通常の治験 | 承認のためのデータを集める試験に参加する | 募集状況と参加条件の確認が必要。新薬群への割付けや本人への効果は保証されない |
| 拡大治験 | 主たる治験に参加できない患者へ、人道的見地から治験の枠組みで提供する | 原則、生命に重大な影響があり、有効な既存治療がない疾患。国内開発の最終段階などの条件があり、実施義務はない |
| 患者申出療養 | 患者の申出を起点に、保険外の医療と保険診療を制度上併用する | 科学的根拠、実施計画、安全性等の確認が必要。未承認薬など保険外部分は原則自己負担 |
海外で承認された薬でも、日本で使える時期が決まっているとは限らない
この章の要点海外の承認は、日本での承認や保険適用を意味しません。国内の開発・申請がどこまで進んでいるかを確認する必要があります。
海外と比べて日本での使用が遅れる問題は、ドラッグ・ラグと呼ばれます。そこには、審査の期間だけでなく、国内開発や申請の開始が遅れることも関係します。さらに、海外で承認されていても日本での開発が行われない問題は、ドラッグ・ロスとして整理されています。[厚生労働省「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 報告書」](https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001215514.pdf)
国内で開発されていない薬に、国内の承認申請後の審査目標を当てはめても、使える時期は計算できません。「海外で承認されたから、あと1年ほど待てば日本で使える」と説明することは避けます。
この問題への対応として、厚生労働省は国際共同治験ワンストップ窓口とPMDAの連携を通知しています。国際共同治験は、複数の国・地域が共通の計画で行う治験です。窓口では国内での治験実施に関する相談や医療機関の紹介・調整等を行い、一定の要件を満たす品目にはPMDAの相談を優先する取扱いがあります。通知は2026年2月10日以降の日程調整希望提出品目に適用されています。[厚生労働省「国際共同治験ワンストップ窓口とPMDAの連携について」](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc9711&dataType=1&pageNo=1)
これは国内開発を促す取組です。すべての海外薬について国内導入を保証したものでも、使用までの期間がどれだけ短くなるかを確定したものでもありません。
看護職は、患者が海外の情報を持参した際に、薬剤名、対象疾患、発表された国、国内開発の有無を一緒に整理します。期待や不安を受け止めた上で、主治医・薬剤師と国内の選択肢を確認することが、必要な情報へつなぐ支援になります。
「いつ使えるか」を尋ねられたら、希望と生活を聴いてから見通しを共有する
この章の要点患者への説明では、分かっている段階と、まだ分からない時期を分けて伝えます。その前後に、本人がその薬に何を期待しているか、生活の何を守りたいかを聴くことが大切です。
「早く使いたい」という言葉には、症状を軽くしたい、家で過ごしたい、働き続けたい、家族の予定に参加したいなど、異なる希望があり得ます。治療を受けること自体に加え、本人が大切にする生活を理解すると、説明や支援の焦点が定まります。QOLは生活の質を意味し、本人がどう暮らしたいかという視点を含みます。
次は架空の学習用会話例です。実在患者の事例ではありません。
看護師:「新しい薬のことが気になっているのですね。今、このお話をしてもよいですか。別の時間でも大丈夫です」
患者:「いつ使えるようになるのか知りたいです。病気が進む前に使いたいので」
看護師:「使える時期が、今の治療を考える上でも大事なのですね。その薬に、いちばん期待していることはどのようなことですか」
患者:「仕事を続けたいです。でも、遠くの病院へ何度も通うのは難しいです」
看護師:「仕事を続けたい気持ちと、通院の負担が気になっているのですね。薬の名前と、見た情報を一緒に確認してもよいでしょうか」
看護師:「治験中なのか、申請済みなのか、承認後なのかで見通しが変わります。一般的な年数だけでは、使える日をお伝えできません。ご自身が対象になるか、通院や費用はどうなるかを、主治医や治験の担当者と確認する必要があります」
看護師:「今のお話では、仕事を続けることを大切にしていて、通院回数と費用を確認したい、という理解で合っていますか。必要な内容を担当者に共有して、一緒に確認してもよいですか」
このように、許可、開かれた質問、受け止め、理解の確認、支援への接続を順につなげます。治験の自由意思や検討時間を尊重する考え方は、厚生労働省の説明にも示されています。[厚生労働省「インフォームド・コンセント」](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/fukyu3.html)
本人が話したくない場合や、沈黙が続く場合は、問いを重ねて答えを急がせません。話さない選択を尊重し、必要な情報をどの程度、いつ受け取りたいかを確認します。家族への共有についても、本人の希望とプライバシーに配慮します。
聴き取った内容は具体的な支援に使います。通院が難しいなら、実際の日程や入院の必要性をCRCに確認します。費用や仕事との両立が課題なら、本人の同意を得て相談支援部門や医療ソーシャルワーカーにつなぎます。治験の通院頻度や費用は試験によって異なるため、一般的な説明で結論を出しません。[国立がん研究センター中央病院「よくあるご質問」](https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/clinical_trial/patient/faq/index.html)
また、新薬の情報確認と並行して、現在の治療、症状への対応、退院後の生活を主治医や関係職種と検討します。発売を待つことだけが本人の生活計画にならないよう、今できる支援を具体化します。
使い始めた後も、普段との違いを捉え、安全性の情報をつなぐ
この章の要点新薬は、承認後も安全性の情報を集め、必要な対策を見直します。承認を受けたことは、すべての使用条件で副作用の可能性がなくなったことを意味しません。
その確認に役立つのが、医薬品リスク管理計画であるRMPです。薬剤ごとに、関連性が分かっている重要なリスク、関連が疑われる重要なリスク、まだ不足している情報を整理し、情報収集とリスクを減らす活動をまとめます。[PMDA「医薬品リスク管理計画」](https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/items-information/rmp/0002.html)
看護では、電子添文、患者向医薬品ガイド、RMPとその資材を確認し、薬剤ごとの注意点を本人の状態に結び付けます。電子添文は、効能・効果、用法・用量、禁忌、重要な注意、副作用などを示す添付文書の電子版です。治験中は、その試験の説明文書や実施計画、担当者の指示が確認の基礎になります。
観察では、まず使用前の状態を把握します。もともとの症状、日常動作、食事、睡眠、治療への負担感を確認しておくと、使用後の変化を比較できます。治療目的に関わる症状がどう変わったかを、本人が大切にしている生活と合わせて捉えます。
次に、普段との違いと時間経過を確認します。新たな症状がいつ始まり、薬の開始・投与・変更とどのような時間関係にあるか、続いているか、強まっているかを整理します。併用薬の変更や病気の経過も確認します。薬を使った後の変化だけで、副作用と確定することはできないためです。
検査が指定されている場合は、何のリスクを見つける目的なのかを理解し、使用前との比較や経時変化、症状と合わせて確認します。報告・対応の基準は薬剤や治験ごとに異なります。すべての新薬に共通する検査値の閾値や観察頻度を、独自に設定してはいけません。
気になる変化を伝える際には、薬剤名、投与・服用の時刻、症状の開始時刻、経過、関連する所見や検査結果、併用薬を整理し、医師・薬剤師へ共有します。治験参加者では治験担当医師やCRCにもつなぎます。共有後は、指示された再確認事項と、状態が悪化していないかを確認します。市販薬や健康食品を含む併用薬の確認も必要です。[国立がん研究センター中央病院「副作用・併用薬に関するQ&A」](https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/clinical_trial/patient/faq/index.html)
急な息苦しさ、声のかすれ、意識の変化、血圧低下などが現れた場合は、予定の観察時刻まで待たず、医師への連絡と応援要請を行います。薬剤によるアナフィラキシーでは、皮膚症状がない場合もあります。投与中に疑われる場合は、原因と考えられる薬剤の投与中止を含め、院内の緊急対応手順に沿って対応します。原因の確定を待って連絡を遅らせないことが大切です。[厚生労働省「アナフィラキシー対応マニュアル」](https://www.pmda.go.jp/files/000279383.pdf)
退院後には、薬剤に応じて連絡が必要な症状、通常の相談先、夜間・休日の連絡先、緊急時の受診方法を本人が理解できる形で確認します。アナフィラキシーが疑われる急な呼吸器症状やショック症状が院外で生じた場合は、救急車による受診が必要です。
使用時期を調べるときは、薬剤名・開発段階・確認日をそろえる
この章の要点個別薬剤の使用時期は、薬剤名・国内の開発段階・確認日をそろえて調べます。公式資料で確認できる範囲と、主治医や受診先への確認が必要な範囲を分けると、説明が具体的になります。
まず、国内で承認されているかを調べます。PMDAの[新医薬品の承認品目一覧](https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0010.html)は年度別の承認情報への入口です。薬剤名を確認したら、製品情報の電子添文などで、承認された対象や注意事項を調べます。[PMDAおくすりサーチ](https://www.pmda.go.jp/okusuri_search/)も、薬や副作用、治験情報を調べる入口になります。
次に、保険診療での使用について、厚生労働省の[薬価基準収載品目リスト](https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/tp20260401-01.html)を確認します。本調査では2026年10月1日適用の掲載ページを確認しています。収載状況と本人への保険診療上の取扱い、実際の供給・受診先での使用可否は、医師・薬剤師と確認します。
承認前の使用を検討する場合は、[PMDAの主たる治験・拡大治験情報](https://www.pmda.go.jp/review-services/trials/0016.html)や、PMDAおくすりサーチから案内される臨床研究情報ポータルで、試験の内容、募集状況、実施医療機関を調べます。検索結果だけで参加可能と判断せず、主治医を通じて確認します。制度の違いを深めたい場合には、厚生労働省の[患者申出療養制度](https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/)が次の入口です。
使用後の安全性については、[PMDAのRMP資料](https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/items-information/rmp/0002.html)と、薬剤ごとの患者向け資材を確認します。
患者と共有する際は、「何が確認できたか」「何が未確定か」「次に誰へ確認するか」を明らかにします。期間の数字を伝えるだけで終わらず、本人が大切にする生活に関わる選択肢を一緒に整理することが、看護の役割です。
本記事の制度・資料の確認日:2026年10月2日。
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復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
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この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 1つのくすりを開発するのに、どれくらいの年月がかかりますか。日本製薬工業協会Q33の回答と解説(3)。治験3~7年、基礎研究からの開発9~17年という説明用目安。図は2012年資料に基づき、現在の平均値として使用しない。見出し1。原資料を開く
- RS総合相談・RS戦略相談パンフレット(2025年7月版)独立行政法人医薬品医療機器総合機構・20252-1「医薬品の開発プロセス」、冊子本文p.3~6。非臨床試験、治験の各相、申請資料、PMDA審査と厚生労働大臣の承認を確認。見出し1~4。全文の確認ではない。原資料を開く
- 治験・臨床研究とは国立研究開発法人国立がん研究センター東病院・20232023年6月22日更新。「第I相臨床試験」~「第III相臨床試験」。抗がん薬では第I相から患者を対象とすること、比較試験、希少がんで第II相後に申請する場合を確認。がん領域の説明を全疾患へ一般化しない。見出し2・3・7。原資料を開く
残り18件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構中期目標厚生労働省・20242024年2月22日付け。第五期中期目標の別紙p.17と注1。承認品目の総審査期間について、通常品目12か月、優先品目9か月を80%タイル値で達成、先駆的医薬品指定品目は全件6か月という目標。見出し4・6。原資料を開く
- 医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて厚生労働省・20262026年2月13日通知、4月1日以降適用。別添1(2)、PDF第3ページ。承認から薬価収載まで原則60日以内・遅くとも90日以内という標準的事務処理期間と、提出遅延・不服・資料不備等の例外。見出し5。原資料を開く
- 「優先審査等の取扱いについて」の一部改正について厚生労働省・20242024年1月16日改正。掲載された改正後通知の第1、1・2・4。優先審査の対象、重篤性と医療上の有用性による評価、希少疾病用医薬品のうち優先審査該当とされた品目という条件。見出し6。原資料を開く
- 先駆的医薬品等指定制度(先駆け審査指定制度)