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読む前に押さえたいこと
「前頭葉は思考、後頭葉は視覚」と覚えても、実際の患者を前にすると症状と部位が結び付かないことがあります。脳の働きは一つの場所だけで完結せず、皮質、深部構造、白質路がネットワークとして協力しているためです。この記事では、脳の部位ごとの代表的な機能と障害時にみられやすい症状を整理します。失語と構音障害、麻痺と失行、視野障害と半側空間無視など、現場で混同しやすい違いも解説します。
脳の機能は「1部位=1機能」ではなく、複数部位のネットワークで成り立つ
この章の要点脳には機能局在があります。機能局在とは、運動、感覚、視覚などについて、特に重要な役割を担う領域があるという考え方です。一方で、思考、言語、注意、記憶、感情などの複雑な機能は、一つの領域だけで完結しません。
例えば言語には、前頭葉、側頭葉、頭頂葉と、それらをつなぐ白質路が関与します。空間への注意も、頭頂葉だけではなく前頭葉や皮質下構造を含むネットワークによって支えられています。
そのため、「左前頭葉だから必ず運動性失語」「右頭頂葉だから必ず半側空間無視」とは限りません。症状は病変の位置だけでなく、大きさ、白質路への広がり、浮腫、発症からの時間、もともとの機能局在などでも変わります。[古典的なブローカ野・ウェルニッケ野モデルだけでは現在の言語ネットワークを十分に説明できないことも指摘されています。](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27584714/)
前頭葉
- 代表的な機能
- 随意運動、運動計画、遂行機能、行動調整、言語表出に関係する処理
- 障害時にみられ得る変化
- 対側の運動障害、発動性低下、脱抑制、計画困難、失語
頭頂葉
- 代表的な機能
- 体性感覚、空間認知、身体認識、注意、行為の組み立て
- 障害時にみられ得る変化
- 対側感覚障害、半側空間無視、失行、失認
側頭葉
- 代表的な機能
- 聴覚、言語理解に関係する処理、記憶、物体・顔の認知
- 障害時にみられ得る変化
- 失語、記憶障害、認知の障害、側頭葉発作
後頭葉
- 代表的な機能
- 視覚情報の初期処理
- 障害時にみられ得る変化
- 対側同名視野障害、皮質盲、視覚認知の障害
島皮質
- 代表的な機能
- 味覚、内受容感覚、自律神経・情動・注意ネットワーク
- 障害時にみられ得る変化
- 味覚、身体内部感覚、自律神経反応などの変化
視床
- 代表的な機能
- 感覚・運動情報の中継と調整、覚醒、認知
- 障害時にみられ得る変化
- 対側感覚障害、運動失調、意識・認知の変化、視床痛
視床下部
- 代表的な機能
- 体温、食欲、口渇、睡眠覚醒、内分泌、自律神経の調節
- 障害時にみられ得る変化
- 体温・水分・睡眠・内分泌の異常
大脳基底核
- 代表的な機能
- 運動の選択・開始・調節、自動化、習慣、報酬学習
- 障害時にみられ得る変化
- 動作緩慢、不随意運動、筋緊張や行動の変化
海馬
- 代表的な機能
- 新しい陳述記憶の形成・固定
- 障害時にみられ得る変化
- 新しい出来事を覚えにくい、見当識の障害
扁桃体
- 代表的な機能
- 情動的な重要性の評価、恐怖学習など
- 障害時にみられ得る変化
- 情動反応や危険判断の変化
小脳
- 代表的な機能
- 運動の協調、姿勢・平衡、タイミング、運動学習
- 障害時にみられ得る変化
- 運動失調、測定障害、眼振、失調性構音障害
脳幹
- 代表的な機能
- 覚醒、呼吸・循環、嚥下、眼球運動、脳神経機能、上下行路
- 障害時にみられ得る変化
- 意識障害、呼吸異常、嚥下障害、複視、交代性症候
脳梁
- 代表的な機能
- 左右大脳半球間の情報伝達
- 障害時にみられ得る変化
- 半球間の情報統合障害、離断症候群
| 部位 | 代表的な機能 | 障害時にみられ得る変化 |
|---|---|---|
| 前頭葉 | 随意運動、運動計画、遂行機能、行動調整、言語表出に関係する処理 | 対側の運動障害、発動性低下、脱抑制、計画困難、失語 |
| 頭頂葉 | 体性感覚、空間認知、身体認識、注意、行為の組み立て | 対側感覚障害、半側空間無視、失行、失認 |
| 側頭葉 | 聴覚、言語理解に関係する処理、記憶、物体・顔の認知 | 失語、記憶障害、認知の障害、側頭葉発作 |
| 後頭葉 | 視覚情報の初期処理 | 対側同名視野障害、皮質盲、視覚認知の障害 |
| 島皮質 | 味覚、内受容感覚、自律神経・情動・注意ネットワーク | 味覚、身体内部感覚、自律神経反応などの変化 |
| 視床 | 感覚・運動情報の中継と調整、覚醒、認知 | 対側感覚障害、運動失調、意識・認知の変化、視床痛 |
| 視床下部 | 体温、食欲、口渇、睡眠覚醒、内分泌、自律神経の調節 | 体温・水分・睡眠・内分泌の異常 |
| 大脳基底核 | 運動の選択・開始・調節、自動化、習慣、報酬学習 | 動作緩慢、不随意運動、筋緊張や行動の変化 |
| 海馬 | 新しい陳述記憶の形成・固定 | 新しい出来事を覚えにくい、見当識の障害 |
| 扁桃体 | 情動的な重要性の評価、恐怖学習など | 情動反応や危険判断の変化 |
| 小脳 | 運動の協調、姿勢・平衡、タイミング、運動学習 | 運動失調、測定障害、眼振、失調性構音障害 |
| 脳幹 | 覚醒、呼吸・循環、嚥下、眼球運動、脳神経機能、上下行路 | 意識障害、呼吸異常、嚥下障害、複視、交代性症候 |
| 脳梁 | 左右大脳半球間の情報伝達 | 半球間の情報統合障害、離断症候群 |
まず押さえたい脳の主要部位と代表的な働き
この章の要点脳は大きく、大脳、小脳、脳幹に分けられます。大脳の表面にある大脳皮質は、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉などに分かれます。その深部には、視床、視床下部、大脳基底核、海馬などがあります。
以下の表は学習の入口です。症状から病変を確定するための診断表ではありません。
中脳
- 主に関係する機能・構造
- 動眼・滑車神経、瞳孔反応、眼球運動、覚醒、運動調節
- 障害時に注目する変化
- 意識変化、眼球運動障害、瞳孔不同、対光反射の変化
橋
- 主に関係する機能・構造
- 顔面感覚・運動、外転、聴覚・平衡、小脳との連絡、呼吸調節
- 障害時に注目する変化
- 複視、顔面麻痺、構音・嚥下障害、運動失調、呼吸異常
延髄
- 主に関係する機能・構造
- 嚥下、発声、舌運動、呼吸・循環調節、錐体交叉
- 障害時に注目する変化
- 嚥下障害、嗄声、舌偏位、呼吸・循環変化、四肢運動障害
| 部位 | 主に関係する機能・構造 | 障害時に注目する変化 |
|---|---|---|
| 中脳 | 動眼・滑車神経、瞳孔反応、眼球運動、覚醒、運動調節 | 意識変化、眼球運動障害、瞳孔不同、対光反射の変化 |
| 橋 | 顔面感覚・運動、外転、聴覚・平衡、小脳との連絡、呼吸調節 | 複視、顔面麻痺、構音・嚥下障害、運動失調、呼吸異常 |
| 延髄 | 嚥下、発声、舌運動、呼吸・循環調節、錐体交叉 | 嚥下障害、嗄声、舌偏位、呼吸・循環変化、四肢運動障害 |
前頭葉は「動く」「計画する」「行動を調整する」に関わる
この章の要点前頭葉の後方にある中心前回には、一次運動野があります。ここから出た指令の多くは反対側の顔面や手足の運動に関与します。その前方にある運動前野や補足運動野は、動作の準備、順序、開始などに関わります。
前頭葉の前方にある前頭前野は、目標を立てる、優先順位を付ける、注意を切り替える、行動を抑制する、結果を予測するといった遂行機能に関与します。前頭葉損傷では、検査上の麻痺が目立たなくても、動作を始めない、手順が組めない、同じ行動を繰り返す、危険を予測できないなどの変化がみられます。
前頭葉内側部の障害では発動性低下や無関心、眼窩前頭部では脱抑制や社会的判断の変化、背外側部では計画・作業記憶・切り替えの障害が目立つことがあります。ただし前頭葉機能は、頭頂葉、視床、大脳基底核などとの接続にも支えられています。[前頭葉障害を局所だけでなく分散したネットワークとして評価する必要性が示されています。](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34881727/)
話せない
- 分解して確認すること
- 言葉が出ない、理解できない、発音だけ不明瞭、声が出ないのか
- 関係する可能性がある部位・機能
- 優位半球言語ネットワーク、運動経路、小脳、脳幹、喉頭
手が動かない
- 分解して確認すること
- 筋力低下、痛み、感覚障害、指示理解困難、失行のどれか
- 関係する可能性がある部位・機能
- 運動野、錐体路、頭頂葉、視床、脳幹など
食事の片側を残す
- 分解して確認すること
- 視野障害、半側空間無視、頸部や眼球運動制限のどれか
- 関係する可能性がある部位・機能
- 後頭葉、視放線、右優位の注意ネットワーク
ふらつく
- 分解して確認すること
- 麻痺、感覚障害、前庭障害、小脳性運動失調、血圧低下のどれか
- 関係する可能性がある部位・機能
- 小脳、脳幹、前庭系、感覚路など
指示に従えない
- 分解して確認すること
- 意識、聴力、言語理解、注意、意欲、失行のどこに問題があるか
- 関係する可能性がある部位・機能
- 脳幹・視床、側頭葉、前頭葉、頭頂葉など
同じ質問を繰り返す
- 分解して確認すること
- 聞こえているか、理解できるか、新しい記憶が保持されているか
- 関係する可能性がある部位・機能
- 海馬を含む内側側頭葉、視床、前頭葉など
| 観察された状態 | 分解して確認すること | 関係する可能性がある部位・機能 |
|---|---|---|
| 話せない | 言葉が出ない、理解できない、発音だけ不明瞭、声が出ないのか | 優位半球言語ネットワーク、運動経路、小脳、脳幹、喉頭 |
| 手が動かない | 筋力低下、痛み、感覚障害、指示理解困難、失行のどれか | 運動野、錐体路、頭頂葉、視床、脳幹など |
| 食事の片側を残す | 視野障害、半側空間無視、頸部や眼球運動制限のどれか | 後頭葉、視放線、右優位の注意ネットワーク |
| ふらつく | 麻痺、感覚障害、前庭障害、小脳性運動失調、血圧低下のどれか | 小脳、脳幹、前庭系、感覚路など |
| 指示に従えない | 意識、聴力、言語理解、注意、意欲、失行のどこに問題があるか | 脳幹・視床、側頭葉、前頭葉、頭頂葉など |
| 同じ質問を繰り返す | 聞こえているか、理解できるか、新しい記憶が保持されているか | 海馬を含む内側側頭葉、視床、前頭葉など |
頭頂葉は「感じる」だけでなく、身体と空間を統合する
この章の要点頭頂葉の前方にある中心後回は一次体性感覚野です。反対側の身体から届く触覚、痛覚、温度覚、位置覚などの情報処理に関わります。
後方の頭頂連合野は、見た情報と身体感覚を統合し、「自分の身体がどこにあるか」「物がどの方向にあるか」「どこへ手を伸ばすか」を組み立てます。
右半球を中心とする注意ネットワークが障害されると、病変と反対側の空間や身体への注意が向きにくい半側空間無視が生じることがあります。単に見えていない視野障害とは異なり、食事の片側を残す、患側の手を置き去りにする、片側の障害物にぶつかるなどの形で現れます。
優位半球側の頭頂葉では、失行、読み書きや計算の障害、左右や指の認識の障害などがみられる場合があります。半側空間無視は「右頭頂葉だけの症状」ではなく、前頭葉や白質路を含む注意ネットワークの障害として理解する方が適切です。[空間性注意と半側空間無視のネットワーク研究](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21692662/)でも、この分散性が示されています。
失語
- 中心となる障害
- 言葉を話す、理解する、読む、書くなどの言語機能
- 観察の例
- 物品名が出ない、指示を理解できない、言い誤りがある
構音障害
- 中心となる障害
- 言葉は組み立てられるが、発音運動がうまくできない
- 観察の例
- 内容は適切だが、ろれつが回らず聞き取りにくい
発語失行
- 中心となる障害
- 発音の運動プログラムを組み立てにくい
- 観察の例
- 音の誤りが一定せず、発音を探るような動きがある
失行
- 中心となる障害
- 筋力や理解だけでは説明できない、学習した目的動作の障害
- 観察の例
- 道具の使い方や身振りを指示どおり行えない
失認
- 中心となる障害
- 感覚入力があるのに、対象の意味を認識できない
- 観察の例
- 見えている物や触れた物を認識できない
半側空間無視
- 中心となる障害
- 片側の空間へ注意を向けにくい
- 観察の例
- 片側の食事や更衣、整容を見落とす
視野障害
- 中心となる障害
- 視覚経路の障害により一定範囲が見えない
- 観察の例
- 両眼の同じ側の視野で対象を捉えにくい
| 用語 | 中心となる障害 | 観察の例 |
|---|---|---|
| 失語 | 言葉を話す、理解する、読む、書くなどの言語機能 | 物品名が出ない、指示を理解できない、言い誤りがある |
| 構音障害 | 言葉は組み立てられるが、発音運動がうまくできない | 内容は適切だが、ろれつが回らず聞き取りにくい |
| 発語失行 | 発音の運動プログラムを組み立てにくい | 音の誤りが一定せず、発音を探るような動きがある |
| 失行 | 筋力や理解だけでは説明できない、学習した目的動作の障害 | 道具の使い方や身振りを指示どおり行えない |
| 失認 | 感覚入力があるのに、対象の意味を認識できない | 見えている物や触れた物を認識できない |
| 半側空間無視 | 片側の空間へ注意を向けにくい | 片側の食事や更衣、整容を見落とす |
| 視野障害 | 視覚経路の障害により一定範囲が見えない | 両眼の同じ側の視野で対象を捉えにくい |
側頭葉は聴覚・言語・記憶・認知に関わる
この章の要点側頭葉上部には聴覚情報を処理する領域があります。聴覚路には両側性の入力があるため、片側の側頭葉障害だけで両耳が完全に聞こえなくなるとは限りません。
優位半球の側頭葉後方を含む言語ネットワークは、音声の分析や言葉の理解に関わります。ただし、言語理解を一つの「ウェルニッケ野」だけに限定することはできません。前頭葉、側頭葉、頭頂葉と、それらを結ぶ経路が協力しています。
側頭葉内側部の海馬と周辺皮質は、新しい出来事や事実を記憶として形成する陳述記憶に重要です。海馬は記憶のすべてを永久保存する単独の倉庫ではなく、新しい記憶の形成と固定に関わるネットワークの一部です。[記憶には海馬を含む陳述記憶系と、技能・習慣などの非陳述記憶系があることが整理されています。](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25731765/)
側頭葉の下面から後頭葉へ続く経路は、物体や顔を「何であるか」と認識する処理に関わります。側頭葉障害では、聞こえていても言葉として理解できない、見えていても対象を認識しにくいといった症状が起こり得ます。
後頭葉は視覚を処理し、片側病変では反対側の視野が障害される
この章の要点後頭葉の一次視覚野には、左右の眼から「反対側の視野」の情報が届きます。右後頭葉は主に左視野、左後頭葉は主に右視野の処理に関与します。
そのため、右後頭葉の障害では、両眼の左側が見えにくくなる左同名半盲が起こり得ます。「右脳の病変だから右眼が見えない」という関係ではありません。片眼だけの視力低下は、網膜や視神経など、視交叉より前の経路も考える必要があります。
視覚情報は後頭葉で処理された後、側頭葉方向の「何が見えているか」を認識する経路と、頭頂葉方向の「どこにあるか」「どう手を伸ばすか」を扱う経路へ広がります。したがって、視力や視野が保たれていても、対象や顔を認識できない場合があります。[後頭葉病変と視野欠損の対応は、MRIと視野検査を用いたヒト研究でも確認されています。](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10037566/)
島皮質は身体内部の感覚と自律神経・情動を結び付ける
この章の要点島皮質は大脳外側溝の奥にあり、外からは見えにくい領域です。味覚、痛み、内受容感覚に関与します。内受容感覚とは、動悸、息苦しさ、吐き気、空腹など、身体内部の状態を感じ取る働きです。
島皮質は、自律神経反応、感情、注意、意思決定などを扱う複数のネットワークとも接続しています。そのため、島皮質を含む病変では、単一の決まった症状ではなく、味覚、身体感覚、自律神経反応、言語、嚥下など複数領域の変化が組み合わさる場合があります。
「島皮質=味覚だけ」と覚えず、身体の状態と情動・行動を統合する領域として捉えると理解しやすくなります。
視床・視床下部・大脳基底核は、皮質の働きを深部から支える
この章の要点視床は、嗅覚を除く多くの感覚情報が大脳皮質へ向かう途中で中継・調整される場所です。運動、覚醒、注意、記憶などに関係する核もあります。視床病変では、反対側の感覚障害、運動失調、意識や記憶の変化がみられ、後になって強い痛みが現れる場合もあります。
視床下部は、体温、食欲、口渇、睡眠覚醒リズム、ストレス反応、自律神経、内分泌を統合し、身体内部の恒常性を保ちます。下垂体と密接に連携するため、病変によって水分出納やホルモン分泌が変化することがあります。[視床下部は感覚入力を自律神経・内分泌・行動出力へ統合する中枢として整理されています。](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27065164/)
大脳基底核は、動きの開始、選択、強さや滑らかさの調節、自動化に関与します。また、習慣、報酬、動機付け、認知にも関係します。大脳基底核障害は、典型的な錐体路性麻痺というより、動きが少ない、開始しにくい、動きすぎる、姿勢や筋緊張が異常になるといった形で現れます。[大脳基底核には運動系だけでなく、眼球運動、認知、情動に関係する並列回路があります。](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3543080/)
海馬と扁桃体を「辺縁系=感情」と一括りにしない
この章の要点海馬は、新しい出来事や事実を記憶として形成する過程に重要です。両側の海馬や周辺領域が障害されると、会話直後の内容を忘れる、同じ質問を繰り返すなど、新しい記憶を保持しにくい状態が生じ得ます。
扁桃体は、刺激が自分にとってどの程度重要かを評価し、特に危険や恐怖に関係する学習、情動反応に関与します。ただし「扁桃体がすべての感情を作る」とは言えません。
以前は海馬、扁桃体、帯状回などを一つの辺縁系としてまとめる説明が一般的でした。現在は、記憶を担う回路と、情動・報酬・意思決定を担う回路を、接続の異なる複数のシステムとして捉える見方があります。[「単一の辺縁系」という概念の限界も査読総説で指摘されています。](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24439664/)
小脳は筋力を生むのではなく、動きの誤差とタイミングを調整する
この章の要点小脳は、大脳からの運動指令と、実際に起きた動きの感覚情報を照合し、動作のずれを調整します。姿勢、平衡、眼球運動、運動学習、動作のタイミングにも関与します。
小脳障害では、力そのものが出ない麻痺よりも、狙った位置を越える・届かない、動作が分解される、反復運動が不規則になる、歩行時にふらつく、発音のリズムが乱れるなどがみられます。
小脳半球の障害では病変と同じ側の上下肢に運動失調が現れやすく、虫部を含む正中部の障害では体幹・歩行の不安定さが目立つ傾向があります。ただし、めまいやふらつきだけで小脳病変と断定することはできません。
小脳は運動だけでなく、認知や情動に関係する大脳との回路も持ちます。[国際的なコンセンサス論文](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4089997/)では、運動学習に加えて認知・情動機能への関与も整理されています。
脳幹は意識・呼吸・脳神経機能と、脳と身体を結ぶ経路を担う
この章の要点脳幹は中脳、橋、延髄からなり、大脳と脊髄の間に位置します。運動路・感覚路が通過し、多くの脳神経核、覚醒に関係する網様体、呼吸・循環・嚥下などに関係する神経回路が存在します。
「左脳は論理、右脳は感性」と単純に分けない
この章の要点左右の大脳半球には機能の偏りがあります。運動と体性感覚は基本的に反対側の身体と強く関係します。言語機能は多くの人で左半球優位ですが、利き手や個人によって異なります。
右半球は、空間性注意、顔や声の情動的特徴、会話の抑揚などに重要な役割を持ちます。しかし、創造性、論理、性格などを左右どちらか一方だけが担当するわけではありません。
左右半球は脳梁などを介して情報を交換しています。「右脳型」「左脳型」という二分法より、課題ごとに左右の複数領域が協力すると考える方が実際の脳機能に近くなります。
症状から局在を考えるときは「何ができないか」を分解する
この章の要点「話せない」「動けない」「見えていない」という表現だけでは、障害されている機能を特定できません。患者ができない理由を分解して観察します。
失語・構音障害・失行・失認は障害される段階が異なる
この章の要点同じ「できない」でも、言語、運動の実行、動作の組み立て、対象の認知では障害されている段階が異なります。
看護観察では部位を当てるより、症状の組み合わせと変化を捉える
この章の要点看護師が局在を考える目的は、病名を決めることではなく、変化を早く発見し、必要な情報を正確に共有することです。新たな局所神経症状や急な意識変化を認めた場合は、施設の急変・脳卒中対応手順に沿って速やかに報告します。
観察では次の順に整理すると、症状の組み合わせを捉えやすくなります。
- 発症・変化した時刻と経過
最後に普段どおりだった時刻、突然か徐々か、改善・悪化しているかを確認します。
- 意識と注意
開眼、呼びかけへの反応、見当識、指示への反応、左右への注意を確認します。
- 瞳孔と眼球運動
瞳孔径、左右差、対光反射、眼位、共同偏視、複視の有無を確認します。
- 顔面と四肢の運動
顔面の左右差、上肢保持、握力、下肢挙上、左右差、普段との違いを確認します。
- 感覚
触覚の左右差、しびれ、位置感覚の変化を、意識と理解の程度に合わせて確認します。
- 言語と発音
自発話、呼称、簡単な指示理解、復唱、発音の明瞭さを分けて観察します。
- 視野と空間性注意
片側からの呼びかけへの反応、食事・整容・移乗時の見落とし、物への衝突を確認します。
- 協調運動と姿勢
安全が確保できる範囲で、座位・立位、四肢の狙いのずれ、体幹の傾きを確認します。
- 嚥下・発声・呼吸
むせ、湿性嗄声、唾液処理、咳嗽、呼吸数・呼吸様式の変化を確認します。
報告では「右頭頂葉障害だと思います」と推測だけを伝えるより、「20時10分から左側の呼びかけに反応しにくく、左上肢がベッド柵に挟まっていても気付かない。左上肢保持も低下している」のように、時刻・左右・具体的行動・普段との差を伝えます。最終的な局在判断には、医師による神経診察とCT・などの画像評価が必要です。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- Brain Basics: Know Your BrainNational Institute of Neurological Disorders and Stroke, National Institutes of Health・2024大脳各葉、小脳、脳幹、視床、視床下部、大脳基底核などの基本構造と代表的機能。一般向け公的解説であり、推奨強度を評価する診療ガイドラインではない。原資料を開く
- 高次脳機能障害者支援法関係通知について厚生労働省・2025高次脳機能障害に含まれる記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害、失語、失行、失認の公的な位置付け。機能局在を規定する資料ではない。原資料を開く
- Executive Dysfunction and the Prefrontal CortexContinuum: Lifelong Learning in Neurology・2021前頭前野と遂行機能、行動、分散ネットワークの関係。成人の神経疾患を中心とした査読総説であり、診療上の推奨強度は設定されていない。原資料を開く
残り9件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- Spatial Neglect and Attention NetworksAnnual Review of Neuroscience・2011半側空間無視を、右頭頂葉だけでなく前頭頭頂葉と白質結合を含む注意ネットワークの障害として捉える根拠。ヒト病変・機能画像研究を統合した査読総説。原資料を開く
- Broca and Wernicke are dead, or moving past the classic model of language neurobiologyBrain and Language・2016ブローカ野・ウェルニッケ野による古典的二領域モデルの限界と、言語を分散したネットワークとして理解する必要性。査読総説。原資料を開く
- Conscious and Unconscious Memory SystemsCold Spring Harbor Perspectives in Biology・2015海馬・内側側頭葉が関係する陳述記憶と、技能・習慣などの非陳述記憶の区別。ヒト健忘症研究などを統合した査読総説。