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読む前に押さえたいこと
人工呼吸器を見ると、A/C、SIMV、PS、PEEP、FiO₂など多くの略語が並び、「どこから見ればよいのか分からない」と感じやすいものです。しかし重要なのはモード名を丸暗記することではありません。「患者が自分で呼吸しているのか」「機械が何を保証しているのか」「実際に肺へどれだけ空気が入っているのか」を順番に見ると理解しやすくなります。この記事では、代表的なモードの仕組みと使い分けから、設定値、波形、アラーム、吸引、離脱、看護観察までをつなげて解説します。
人工呼吸器は「酸素を入れる機械」ではなく、換気と酸素化を支える生命維持装置
この章の要点人工呼吸器の目的は、呼吸筋だけでは十分な呼吸を維持できない患者に対し、肺へのガスの出入りを補助または代行することです。大きく考えると、換気と酸素化を支える装置です。
換気とは、主に二酸化炭素を体外へ排出する働きを指します。換気が不足するとPaCO₂が上昇し、呼吸性アシドーシスにつながることがあります。人工呼吸器では一回換気量(VT)や呼吸回数(RR)などが換気量に影響します。
酸素化とは、肺胞から血液へ酸素を取り込む働きです。人工呼吸器では主にFiO₂(吸入酸素濃度)やPEEP(呼気終末陽圧)が関係します。ただし「SpO₂が低いからFiO₂だけを上げればよい」というものではなく、無気肺、肺水腫、肺炎、分泌物、気胸、循環不全など原因を同時に評価します。
人工呼吸器が必要となる代表的な状況には、重症肺炎やARDSによる低酸素血症、神経筋疾患や中枢神経障害による換気不全、意識障害による気道保護困難、術後管理などがあります。したがって「人工呼吸器を使っている」という情報だけで病態を判断せず、なぜ人工呼吸が必要なのかを最初に確認することが重要です。
モードを理解する鍵は「誰が吸気を始め、何を保証し、いつ吸気を終えるか」
この章の要点人工呼吸器のモードは名称から覚えるより、「呼吸の始まり・途中・終わり」を分解すると理解しやすくなります。
まず見るのがトリガーです。トリガーとは「吸気を開始するきっかけ」です。設定された時間で人工呼吸器が吸気を開始する場合と、患者の吸気努力を流量や圧変化で感知して開始する場合があります。
次に「何を一定にするか」を見ます。VCVでは一回換気量を中心に設定し、PCVでは吸気圧を中心に設定します。この違いによって、患者の肺や気道の状態が変化したとき「圧が変わるのか」「換気量が変わるのか」が変わります。
最後にサイクル、つまり吸気から呼気へ切り替わる条件を確認します。時間で切り替わるもの、設定量に達して切り替わるもの、吸気流量が低下したことで切り替わるものなどがあります。
したがって初学者は、
「自発呼吸はあるか」
→「その呼吸を人工呼吸器が補助するか」
→「機械が何を保証するか」
→「実際のVT・RR・圧はどうなっているか」
という順で見ると整理しやすくなります。
VCVとPCVの違いは「換気量を保証するか、吸気圧を規定するか」
この章の要点VCV(volume control ventilation:量規定換気)は、設定した一回換気量を送り込むことを優先します。そのため換気量を管理しやすい一方、肺コンプライアンスが低下したり気道抵抗が上昇したりすると、同じ量を送り込むために必要な気道内圧が上昇します。
たとえば分泌物が増えた、気管チューブが屈曲した、気管支攣縮が起きた、肺が硬くなったといった状況ではピーク気道内圧が高くなる可能性があります。
一方PCV(pressure control ventilation:圧規定換気)は、吸気時の圧を規定します。設定された圧を基本として送気するため、肺コンプライアンスや気道抵抗が変化すると、今度は一回換気量が変化します。肺が硬くなれば同じ圧でも入る空気量が少なくなります。
そのため、
VCVなら「圧が上がっていないか」
PCVなら「VTが落ちていないか」
を特に意識します。
ただし「PCVのほうが肺に優しい」「VCVよりPCVが必ず良い」と単純化してはいけません。成人ARDSについて、ARDS診療ガイドライン2021ではPCVとVCVのどちらを用いるべきかについて明確な推奨を行えるだけの根拠はないとしています。重要なのはモード名そのものより、VT・肺胞圧・PEEP・患者との同調性などを含めた肺保護的な換気です。
主に規定するもの
- VCV
- 一回換気量
- PCV
- 吸気圧
肺が硬くなった場合
- VCV
- 気道内圧が上昇しやすい
- PCV
- 一回換気量が低下しやすい
気道抵抗が増えた場合
- VCV
- 圧上昇に注意
- PCV
- VT低下に注意
看護で特に見る変化
- VCV
- Ppeak、Pplat、波形
- PCV
- VT、分時換気量、波形
共通して見るもの
- VCV
- SpO₂、RR、血液ガス、呼吸努力、循環、患者との同調
- PCV
- —
| 項目 | VCV | PCV |
|---|---|---|
| 主に規定するもの | 一回換気量 | 吸気圧 |
| 肺が硬くなった場合 | 気道内圧が上昇しやすい | 一回換気量が低下しやすい |
| 気道抵抗が増えた場合 | 圧上昇に注意 | VT低下に注意 |
| 看護で特に見る変化 | Ppeak、Pplat、波形 | VT、分時換気量、波形 |
| 共通して見るもの | SpO₂、RR、血液ガス、呼吸努力、循環、患者との同調 |
A/Cは「患者が吸っても、機械の時間が来ても、設定された呼吸を補助する」
この章の要点A/C(Assist/Control ventilation)は、人工呼吸器が設定した最低呼吸回数を確保しながら、患者自身が吸気を始めた場合にも呼吸を補助するモードです。
たとえば設定RRが12回/分であれば、自発呼吸が全くなければ人工呼吸器が最低限の換気を行います。一方、患者が20回吸気をトリガーすれば、そのトリガーされた呼吸にも設定されたVCまたはPCの換気が行われます。
そのため換気を十分に補助しやすく、強い呼吸補助を必要とする患者に使用されます。
一方、自発呼吸が頻回になると機械もそのたびに補助するため、実際のRRや分時換気量が設定値より大きくなることがあります。「設定RR12だから患者は12回呼吸している」とは限りません。
看護では設定値と実測値を分けて見ることが重要です。
頻呼吸になっていれば、疼痛、不安、発熱、代謝性アシドーシス、低酸素血症、呼吸器との非同調、鎮静不足などを評価します。ただ人工呼吸器の設定だけを問題と考えないことが重要です。
SIMVは「決められた回数の強制換気」と「その間の自発呼吸」が共存する
この章の要点SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation:同期式間欠的強制換気)は、一定回数の強制換気を行いながら、その間に患者の自発呼吸を許すモードです。
強制換気部分にはVCVまたはPCVが使われます。強制換気以外の自発呼吸には、必要に応じてPS(pressure support)が加えられます。
たとえばSIMV 8回/分+PSという設定なら、最低8回の強制換気を行いつつ、その間に患者が自分で呼吸できます。その自発呼吸をPSで補助するという構造です。
ここで重要なのは「SIMVだから離脱モード」と覚えないことです。
以前から人工呼吸器離脱過程で使われてきましたが、離脱可能性そのものは、原疾患改善、意識、循環、酸素化、呼吸状態を評価し、SBT(自発呼吸トライアル)などで判断します。3学会合同の人工呼吸器離脱プロトコルもSBTを中心とした評価を示しています。
SIMV中では、自発呼吸部分のVTやRRが極端に小さくなっていないか、呼吸仕事量が増えていないかを観察します。
PSVとCPAPは、自発呼吸がある患者の「自分で吸う呼吸」を支える
この章の要点PSV(pressure support ventilation)は、患者が自分で吸気を開始したとき、その吸気に設定された圧を上乗せして補助する方式です。患者自身の吸気トリガーが必要なため、基本的に自発呼吸が前提です。
PSを高くすると吸気仕事量を大きく補助しやすくなります。低くすると患者自身が担う呼吸仕事量が増えます。
ただし、PSVでは一回換気量そのものは保証されません。同じPSでも、肺コンプライアンス低下、気道抵抗上昇、呼吸筋疲労などによってVTが減少します。したがって「PS○cmH₂O」という数字だけでなく、実際のVT、RR、分時換気量、努力呼吸を確認します。
CPAP(continuous positive airway pressure)は、自発呼吸中の気道に一定の陽圧を維持する考え方です。人工呼吸器の侵襲的管理では、CPAPにPSを組み合わせることがあります。
患者が十分な換気を維持できなくなると、RR増加、VT低下、努力呼吸、発汗、頻脈、SpO₂低下、PaCO₂上昇などが現れることがあります。「自発呼吸がある=安全」ではないことが重要です。
PRVCなどの複合モードは「目標VTに近づけるため圧を自動調整する」考え方がある
この章の要点近年の人工呼吸器には、VCVとPCVの特徴を組み合わせた制御方式があります。代表例としてPRVC(pressure regulated volume control)などがあります。
概念としては、目標とするVTを得られるよう、患者の肺メカニクスや直前の換気量を参考に人工呼吸器が吸気圧を調整します。
ただし、ここは特に注意が必要です。
同じような機能でもメーカーによってPRVC、VC+、AutoFlow、APVなど名称が異なり、制御アルゴリズムも完全に同一とは限りません。そのためモード名だけから動作を推測しないことが重要です。
臨床では、患者が急に強い吸気努力を出した場合などに設定圧と実測VTの関係が変化するため、モニター値と波形を確認します。
Nurse Atlasのような共通教材では基本原理までを理解し、実機の細かな操作は各人工呼吸器の取扱説明書・施設の教育資料に従うのが安全です。
FiO₂・PEEP・VT・RR・PSは、それぞれ違う目的を持つ設定値
この章の要点人工呼吸器を見るときは設定値を一つずつ暗記するのではなく、「酸素化」「換気」「呼吸仕事量」のどこに働く設定なのかを整理します。
FiO₂は吸入酸素濃度です。FiO₂ 0.40なら40%酸素を意味します。主に酸素化を支えます。
PEEPは呼気の終わりにも気道内に陽圧を残す設定です。肺胞虚脱を防ぎ、機能的な肺胞を保つことで酸素化改善を狙います。一方、過剰なPEEPは肺過膨張や静脈還流低下を介して循環に影響し得るため、SpO₂だけでなく血圧や循環も評価します。
ARDS診療ガイドライン2021では成人ARDSに高いPEEPを用いることを条件付きで推奨していますが、研究で用いられたPEEPには幅があり、「ARDSなら一律○cmH₂O」という意味ではありません。
VT(一回換気量)は1回の呼吸で出入りするガス量です。
RRは1分間の呼吸回数です。
VTとRRは分時換気量に大きく関係しますが、死腔換気もあるため「VT×RRだけでPaCO₂が完全に決まる」わけではありません。
PSは自発吸気を補助する圧です。
吸気時間・I:E比はガスを肺へ送る時間と呼気に使える時間に関係します。特に閉塞性換気障害では呼気時間不足によるair trappingやauto-PEEPにも注意が必要です。
トリガー感度は患者の吸気努力を人工呼吸器がどの程度で検出するかに関係します。鈍すぎると患者が吸っても機械が反応せず呼吸仕事量が増え、敏感すぎると振動やリークなどで誤作動することがあります。
FiO₂
- 主な意味
- 吸入酸素濃度
- 看護で見るもの
- SpO₂、PaO₂、必要酸素量の推移
PEEP
- 主な意味
- 呼気終末の陽圧
- 看護で見るもの
- 酸素化、血圧、肺過膨張の可能性
VT
- 主な意味
- 一回換気量
- 看護で見るもの
- 実測VT、体格、肺保護換気
RR
- 主な意味
- 強制換気回数
- 看護で見るもの
- 実測RR、分時換気量、PaCO₂
PS
- 主な意味
- 自発吸気の補助圧
- 看護で見るもの
- VT、RR、努力呼吸
吸気圧
- 主な意味
- PCV時の換気を作る圧
- 看護で見るもの
- VT、圧、肺メカニクス
トリガー
- 主な意味
- 吸気開始の感度
- 看護で見るもの
- 呼吸器との同調
吸気時間/I:E
- 主な意味
- 吸気・呼気時間
- 看護で見るもの
- air trapping、波形、同調性
| 設定 | 主な意味 | 看護で見るもの |
|---|---|---|
| FiO₂ | 吸入酸素濃度 | SpO₂、PaO₂、必要酸素量の推移 |
| PEEP | 呼気終末の陽圧 | 酸素化、血圧、肺過膨張の可能性 |
| VT | 一回換気量 | 実測VT、体格、肺保護換気 |
| RR | 強制換気回数 | 実測RR、分時換気量、PaCO₂ |
| PS | 自発吸気の補助圧 | VT、RR、努力呼吸 |
| 吸気圧 | PCV時の換気を作る圧 | VT、圧、肺メカニクス |
| トリガー | 吸気開始の感度 | 呼吸器との同調 |
| 吸気時間/I:E | 吸気・呼気時間 | air trapping、波形、同調性 |
モードは「病名」だけで選ばず、自発呼吸・必要な補助量・肺メカニクスから使い分ける
この章の要点人工呼吸器の使い分けは「肺炎だからPCV」「術後だからSIMV」のように病名とモードを一対一で結び付けるものではありません。
まず、患者自身に十分な自発呼吸があるかを見ます。
自発呼吸がほとんどない、あるいは換気を確実に確保する必要がある場合は、A/Cなど強制換気を確保できる方式が適しています。
自発呼吸があり、呼吸筋の働きを利用しながら補助したい場合にはPSVなどが候補になります。
次に、換気量と圧のどちらをどう管理するかを考えます。VCVならVTを確保しやすい反面、肺メカニクス悪化時には圧上昇を監視します。PCVなら圧を規定できますが、VT低下を監視します。
そして患者との同調性を確認します。
設定上「正しい」モードでも、患者が激しくファイティングしていれば適切な換気とは言えません。疼痛、不安、呼吸欲求、分泌物、気管チューブ、鎮静状態、代謝性アシドーシスなど患者側の原因を含めて再評価します。
つまりモード選択の目的は、モード名を選ぶことではなく、必要なガス交換を保ちながら肺傷害と患者負担を抑えることです。
人工呼吸器患者の観察は「患者→気道→人工呼吸器→回路」の順でつなげる
この章の要点人工呼吸器管理中に最も重要なのは、人工呼吸器の数字よりもまず患者です。
患者を見る
意識、表情、呼吸困難感、胸郭運動、左右差、RR、呼吸パターン、SpO₂、心拍数、血圧、皮膚色、発汗などを確認します。
突然の頻呼吸と頻脈、SpO₂低下があれば、低酸素、分泌物、気胸、肺水腫、疼痛、発熱など複数の原因が考えられます。
気道を見る
気管チューブの深さ、固定状態、抜去・位置ずれの可能性、リーク、分泌物、痰の量・性状、呼吸音を確認します。
分泌物が増加して「ゴロゴロ」とした呼吸音があり、気道内圧上昇や換気量低下を伴う場合には気道閉塞の可能性を考えます。
人工呼吸器を見る
モード、設定FiO₂、PEEP、VT、RR、PS、吸気圧と、実際のVT、RR、分時換気量、気道内圧を比較します。
「設定」と「実測」を混同しないことが非常に重要です。
回路を見る
回路外れ、屈曲、圧迫、水の貯留、加温加湿器、フィルタ、接続部を確認します。
回路の水が患者側へ流れ込んだり、回路閉塞を起こしたりしないよう、機器の構造と施設手順に従って管理します。
波形を見ると「患者が苦しい理由」を数字より早く見つけられることがある
この章の要点人工呼吸器のグラフィックモニターには、主に圧、流量、換気量の時間変化が表示されます。アラームだけでは「何が起きているか」まで分からない場合がありますが、波形の変化は原因推定の手掛かりになります。
たとえばVCVでピーク気道内圧が上昇した場合、
気道抵抗が上がったのか
肺コンプライアンスが低下したのか
を考えます。
分泌物、チューブ屈曲、気管支攣縮などは気道抵抗を高めます。一方、肺水腫、ARDS悪化、無気肺、気胸などでは肺コンプライアンスが低下することがあります。
呼気フローが次の吸気開始までにゼロへ戻っていなければ、十分に呼出できずair trappingが起きている可能性があります。
また、患者が吸気努力をしているのに人工呼吸器が作動しない場合はtrigger asynchronyを考えます。反対に患者が吸っていないのに機械が呼吸を送る場合はauto-triggerの可能性があります。
患者人工呼吸器非同調が疑われるときは「鎮静が足りない」と即断せず、呼吸欲求、設定、回路リーク、トリガー、吸気時間、分泌物、疼痛などを系統的に確認します。
人工呼吸器アラームでは「音を止める」より先に患者の換気が保たれているか確認する
この章の要点人工呼吸器アラームが鳴った場合、最優先はアラーム表示そのものではなく患者が換気できているかです。
PMDA掲載の人工呼吸器添付文書でも、アラーム発生時には原因を確認して適切に対処すること、患者を継続的に監視すること、人工呼吸器が機能しない場合に備え手動式人工呼吸器など代替換気手段を準備することが示されています。
高圧アラーム
気道内圧が設定上限を超えています。
考えるものは、
分泌物
咳嗽
気管チューブ・回路屈曲
患者が人工呼吸器に逆らっている
気管支攣縮
肺コンプライアンス低下
気胸
などです。
まず胸郭運動、SpO₂、呼吸音、回路、気管チューブ、痰を確認します。
低圧・低換気量アラーム
回路外れやリーク、気管チューブ位置異常、カフ周囲リークなどを考えます。
特に「突然圧が出なくなり、VTも低下した」という場合は回路外れを迅速に確認します。
無呼吸アラーム
PSVやCPAPなど自発呼吸依存度が高い状況では重要です。
鎮静増強、意識状態悪化、中枢性無呼吸、呼吸筋疲労などを考えます。
患者状態が急激に悪化し人工呼吸器による換気が確保できない場合には、応援を要請し、施設手順に従って人工呼吸器から切り離しバッグバルブによる換気が必要となることがあります。
アラーム設定を安易に広げて鳴らなくするのではなく、
吸引は「定時にする処置」ではなく、分泌物による気道障害を評価して行う
この章の要点人工呼吸器装着患者では気管チューブによって自然な排痰機能が低下し、分泌物が気道に貯留しやすくなります。しかし吸引は侵襲的処置であり、「2時間ごと」など時間だけを根拠に機械的に繰り返すものではありません。
気管吸引ガイドライン2023では、気管吸引を「人工気道を含む気道から陰圧を用いて分泌物などを除去し、気道開存とガス交換を維持・改善する一連の行為」と位置付けています。また、患者自身の咳嗽などで除去できない分泌物に対して行い、必要以上の回数や時間の吸引を避けることを示しています。
吸引を考える所見には、
気道分泌音
可視的な痰
咳嗽増加
気道内圧上昇
VT低下
SpO₂低下
呼吸仕事量増加
などがあります。
ただしSpO₂低下だけで「痰だ」と決めつけてはいけません。無気肺、気胸、肺水腫、回路異常なども考えます。
吸引前後にはSpO₂、HR、血圧、呼吸音、痰の量・色・粘稠度、気道内圧、VTなどを比較し、「吸引によって何が改善したか」を確認します。
また、人工気道では口腔内分泌物がVAPに関わる可能性があり、口腔ケアも人工呼吸管理の一部です。日本集中治療医学会と日本クリティカルケア看護学会は、気管挿管患者のVAP予防を目的とした口腔ケア実践ガイドを公表しています。
ARDSでは「必要な換気を確保しながら肺を傷つけない」肺保護換気が重要
この章の要点人工呼吸器は救命に不可欠ですが、過度な換気量や圧によって肺傷害を悪化させる可能性があります。人工呼吸器による肺傷害を減らす考え方が肺保護換気です。
ARDS診療ガイドライン2021では、人工呼吸管理される成人ARDS患者で一回換気量を4〜8 mL/kgに制限することを強く推奨しています。ただしエビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。
体格に対するVTを考える場合、単純な実測体重ではなく、身長から算出される予測体重を用いる考え方が従来から用いられています。過去の国内敗血症ガイドラインでも予測体重を用いた設定が示されています。
同ガイドラインでは、成人ARDSに対するプラトー圧制限も条件付きで推奨されています。プラトー圧は肺胞にかかる圧を推定する重要な指標の一つですが、単独の値だけで肺傷害リスクを完全に判断できるわけではありません。
看護師が見るべきなのは、
VTが急に増減していないか
気道内圧が上昇していないか
SpO₂が維持できているか
循環が悪化していないか
患者の呼吸努力が過大になっていないか
という全体像です。
「SpO₂を上げること」だけが人工呼吸管理の成功ではありません。
人工呼吸器離脱は「設定を少しずつ下げる作業」ではなく、自力で呼吸を維持できるかを評価する
この章の要点人工呼吸器からの離脱では、原疾患が改善し、自発呼吸で十分なガス交換と呼吸仕事量を維持できるかを判断します。
日本集中治療医学会、日本呼吸療法学会、日本クリティカルケア看護学会は3学会合同で人工呼吸器離脱プロトコルを公表しており、施設に応じてチームで離脱を進めることを推奨しています。
中心となる考え方の一つがSBT(spontaneous breathing trial:自発呼吸トライアル)です。
SBT中に見るものは単にSpO₂だけではありません。
RR
VT
呼吸パターン
SpO₂
HR
血圧
意識
発汗
努力呼吸
呼吸困難感
などを合わせて評価します。
たとえばSpO₂が保たれていても、RRが急増し、努力呼吸と頻脈、発汗が出現していれば、自発呼吸を維持する負担が大きい可能性があります。
反対にPSを高くかけた状態で安定していても、その数字だけから抜管可能とは判断できません。
さらに「人工呼吸器から離脱できる」と「気管チューブを抜去できる」は完全に同じではありません。抜管には意識、咳嗽力、分泌物処理能力、気道開存性なども関係します。
報告ではモード名だけでなく「患者・設定・実測・変化・考えた原因」をセットで伝える
この章の要点人工呼吸器患者の報告で「SpO₂が下がりました」「高圧アラームが鳴っています」だけでは、相手が状況を判断する情報が足りません。
人工呼吸器管理では、何が変化したかとその前後関係を伝えます。
たとえば、
「A/C-PCで管理中。FiO₂とPEEPは直前から変更ありません。10分前からSpO₂が低下し、同時に高圧アラームが出ています。RRも増えています。右肺の呼吸音が弱く、吸引では少量の痰のみでした」
というように、
患者の状態
モードと主要設定
実測VT・RR・圧
SpO₂・循環
何がいつ変わったか
気道・回路をどう確認したか
をまとめます。
緊急性の高い変化として、急激なSpO₂低下、換気不能、著明な血圧低下、片側呼吸音消失、気道内圧の急上昇、意識状態急変などがあれば、単なる「人工呼吸器設定の問題」と考えず、患者の急変として速やかに医師や救急・集中治療チームへ連携します。
人工呼吸器管理で最も大切なのは、
設定値を見る → 実際の患者を見る
ではなく、
患者を見る → 人工呼吸器が患者に何をしているか確認する
という順序です。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- ARDS診療ガイドライン2021一般社団法人 日本呼吸療法医学会 一般社団法人 日本呼吸器学会 一般社団法人 日本集中治療医学会・2023年公開版/委員会報告2022年成人ARDSの侵襲的呼吸補助。CQ19一回換気量制限、CQ20 PEEP、CQ21プラトー圧、CQ22 PCVとVCV。成人ARDSに一回換気量4〜8 mL/kgを用いることを強く推奨。高PEEPとプラトー圧制限は条件付き推奨。PCVとVCVのどちらを使用すべきかについては明確な推奨を提示できない。見出し3、8、14。原資料を開く
- 人工呼吸器モードの使い分けとグラフィックモニター一般社団法人 日本呼吸療法医学会関連誌・2024年A/C、SIMV、CPAP、PS、VCV、PCVの基本的な作動原理と、気道抵抗・肺胸郭コンプライアンス変化による圧・換気量の変化、グラフィックモニターの役割。見出し2〜6、11。原資料を開く
- 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための)一般社団法人 日本呼吸療法医学会・2024年成人人工気道患者における気管吸引の目的、適応、アセスメント、実施前後の評価、安全管理。見出し13。原資料を開く
残り3件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- 人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル日本集中治療医学会 日本呼吸療法学会 日本クリティカルケア看護学会・2015年人工呼吸器離脱を施設に応じたチームアプローチで行うこと、SBTを含む離脱評価の考え方。見出し5、15。原資料を開く
- 成人用人工呼吸器 添付文書(PMDA公開資料)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2025年改訂資料等を確認使用前のアラーム作動確認、患者監視、アラームへの対応、安全な電源管理など。見出し12。人工呼吸器ごとの詳細操作は各製品の添付文書・取扱説明書に従う必要がある。原資料を開く
- 気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド日本集中治療医学会 日本クリティカルケア看護学会・2017年気管挿管患者のVAP予防を主目的とした口腔ケアの位置付け。見出し13。原資料を開く