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読む前に押さえたいこと
脳下垂体腫瘍では、頭痛や視野障害といった神経症状だけでなく、月経異常、性機能低下、体型の変化、多尿など、一見すると脳とは結びつきにくい症状が現れます。これは下垂体が視神経の近くに位置し、同時に全身のホルモン調節を担っているためです。さらに手術後は、尿量や血清Na、意識、視機能などの変化から内分泌合併症を早期に捉える必要があります。この記事では、病態から検査、治療、術後看護までを「なぜ見るのか」とつなげて整理します。
下垂体腫瘍は「場所」と「ホルモン」の両方が問題になる
この章の要点下垂体腫瘍を理解する最初のポイントは、症状が腫瘍による圧迫とホルモン異常の両方から生じることです。
下垂体は脳の底部にあるトルコ鞍という骨のくぼみに位置する小さな内分泌器官です。前葉からACTH、TSH、GH、PRL、LH、FSHなどが分泌され、甲状腺、副腎、生殖腺、成長・代謝などを調節します。
下垂体のすぐ上には視神経が交差する「視交叉」があり、左右には海綿静脈洞があります。この狭い場所で腫瘍が大きくなるため、上方へ進展すれば視路、側方へ進展すれば海綿静脈洞周辺の構造に影響する可能性があります。
一方、腫瘍細胞自体がホルモンを過剰に産生することもあります。さらに正常下垂体が圧迫されれば、逆にホルモンが不足します。
つまり「下垂体に腫瘍がある」という画像所見だけで症状を説明するのではなく、
①どこを圧迫しているか
②何のホルモンが過剰か
③何のホルモンが不足しているか
の3方向から患者を捉えることが重要です。日本内分泌学会のガイドラインでも、下垂体腫瘍では画像だけでなく内分泌機能と視機能を評価する構成になっています。
なお、従来「下垂体腺腫」と呼ばれてきた下垂体前葉由来腫瘍について、WHO第5版ではpituitary neuroendocrine tumor:PitNET(下垂体神経内分泌腫瘍)という名称が用いられています。日本内分泌学会2023年版では名称変更による混乱を避けるため「下垂体腫瘍(腺腫)」という表現が採用されています。
「機能性」と「非機能性」は腫瘍の大きさではなくホルモン過剰症状で考える
この章の要点下垂体腫瘍は臨床上、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に分けて考えると理解しやすくなります。
機能性下垂体腫瘍は、生物学的に作用するホルモンを過剰に分泌し、それによる臨床症候を生じる腫瘍です。代表例はPRL産生腫瘍、GH産生腫瘍、ACTH産生腫瘍、TSH産生腫瘍です。
一方、非機能性下垂体腫瘍では臨床的なホルモン過剰症候が前面に出ません。そのため、小さい段階では気づかれず、腫瘍が大きくなって視機能障害や下垂体機能低下を生じてから発見されることがあります。
したがって「非機能性=症状がない、危険ではない」という意味ではありません。
また、頭痛やめまいなど別の理由でCT・MRIを撮影し、偶然下垂体部の病変が発見される下垂体偶発腫もあります。偶然見つかったからといって画像だけで経過観察を決めるのではなく、内分泌機能と視機能を確認し、病変の種類を鑑別します。
機能性下垂体腫瘍
- 主な問題
- ホルモン過剰+腫瘍による圧迫
- 代表例・症状
- PRL、GH、ACTH、TSHなどの過剰
非機能性下垂体腫瘍
- 主な問題
- 主に腫瘍による圧迫、正常下垂体の圧迫
- 代表例・症状
- 視野障害、頭痛、下垂体機能低下など
偶発的下垂体腫瘍
- 主な問題
- 無症候の場合もあるが機能評価が必要
- 代表例・症状
- 他目的のCT・MRIで偶然発見
| 分類 | 主な問題 | 代表例・症状 |
|---|---|---|
| 機能性下垂体腫瘍 | ホルモン過剰+腫瘍による圧迫 | PRL、GH、ACTH、TSHなどの過剰 |
| 非機能性下垂体腫瘍 | 主に腫瘍による圧迫、正常下垂体の圧迫 | 視野障害、頭痛、下垂体機能低下など |
| 偶発的下垂体腫瘍 | 無症候の場合もあるが機能評価が必要 | 他目的のCT・MRIで偶然発見 |
視野障害は腫瘍が視交叉へ進展している可能性を考える重要な所見
この章の要点下垂体腫瘍で特に重要な神経症状の一つが視機能障害です。これは下垂体のすぐ上に視交叉が存在するためです。
腫瘍が上方へ拡大して視交叉を圧迫すると、典型的には両耳側半盲などの視野障害が生じます。ただし、実際の障害パターンは腫瘍と視路の位置関係によって異なるため、「下垂体腫瘍なら必ず両耳側半盲」と覚えるのは適切ではありません。
患者自身は「視野が欠けた」と明確に表現せず、「人や物にぶつかる」「横から来たものに気づかない」「見えづらい」と訴えることもあります。そのため看護では、視力・視野の訴えだけでなく、普段と比較した見え方やADL上の変化にも注目します。
非機能性下垂体腫瘍では、MRIで視神経・視交叉を圧迫し、眼科的検査で視機能障害が明らかな場合、手術療法が推奨されています。視交叉へ接触・圧迫していても明らかな視機能障害がない場合は、年齢や全身状態などを含めて手術適応が検討されます。
頭痛もみられますが、頭痛だけで腫瘍増大を判断することはできません。特に重要なのは、後述するように「突然の強い頭痛」に視力低下、複視、眼球運動障害、嘔吐、意識変化などが加わった場合です。この場合は下垂体卒中を鑑別する必要があります。
機能性腫瘍では「何のホルモンが多いか」で全身症状が変わる
この章の要点機能性下垂体腫瘍では、腫瘍の大きさだけでなく、過剰に分泌されるホルモンが症状を決めます。そのため、小さな腫瘍でも全身に大きな影響を及ぼすことがあります。
PRL産生腫瘍(プロラクチノーマ)では、高PRL血症により女性では月経不順・無月経、不妊、乳汁分泌、男性では性欲低下や性機能障害などが生じます。ただしPRLはストレス、睡眠、運動、薬剤、原発性甲状腺機能低下症、下垂体茎周辺病変などでも上昇するため、PRL高値だけでプロラクチノーマとは診断できません。
GH産生腫瘍では成人で先端巨大症を生じます。手足の容積増大、顔貌変化、巨大舌などに加え、高血圧、耐糖能異常、睡眠時無呼吸症候群など全身への影響があります。診断ではGHだけでなくIGF-1やブドウ糖負荷試験、MRIなどを組み合わせます。
ACTH産生腫瘍によるクッシング病では、ACTHによって副腎からのコルチゾール分泌が過剰になります。体型変化だけでなく、高血圧、糖代謝異常、感染リスク、骨代謝など多系統に影響します。診断では日内変動やデキサメタゾン抑制試験などを用い、単一のコルチゾール値だけでは判断しません。
TSH産生腫瘍では甲状腺ホルモンが高値となり、動悸、頻脈、発汗、体重減少などの甲状腺中毒症状がみられます。
大きな腫瘍ではホルモンが「増える」だけでなく「足りなくなる」
この章の要点下垂体腫瘍では、正常下垂体が圧迫されることで下垂体機能低下症を生じることがあります。この視点は、特に非機能性の大きな腫瘍で重要です。
ACTHが低下すると副腎からのコルチゾール分泌が低下し、倦怠感、食欲低下、悪心・嘔吐、低血圧、低血糖、低Na血症などを伴うことがあります。重症化した副腎不全は生命に関わるため、下垂体機能低下の中でもACTH-コルチゾール系は特に重要です。日本内分泌学会ガイドラインでもACTH分泌低下症には副腎皮質ホルモン補充が必要とされています。
TSH分泌低下では中枢性甲状腺機能低下症を生じます。この場合、原発性甲状腺機能低下症と異なり、TSHだけを見て甲状腺機能を評価できないことが重要です。
LH・FSH低下では性腺機能低下を生じ、月経異常、性欲低下、不妊などにつながります。GH低下では成人成長ホルモン分泌不全症を呈する場合があります。
さらに重要なのがホルモン補充の順番です。中枢性甲状腺機能低下症と副腎不全を合併する場合、日本内分泌学会ガイドラインではグルココルチコイドを開始した後に甲状腺ホルモンを投与するとされています。
看護では、食欲低下や倦怠感を単なる術後疲労と考えず、血圧、意識、血糖、Na、悪心・嘔吐などを組み合わせて評価することが重要です。
診断はMRIだけでなく「画像・ホルモン・視機能」を組み合わせる
この章の要点下垂体腫瘍ではMRIで腫瘍を確認するだけでは評価は終わりません。画像・内分泌機能・視機能を組み合わせて、腫瘍が何を起こしているかを評価します。
MRIでは腫瘍の存在、大きさ、視神経・視交叉との位置関係、海綿静脈洞など周囲への進展を確認します。
一方、内分泌検査では「ホルモンが過剰か」「正常下垂体の機能が低下していないか」の両方を調べます。
日本内分泌学会の偶発的下垂体腫瘍の手引きでは、基礎評価として早朝空腹時にGH、IGF-1、PRL、TSH、FT4、ACTH、コルチゾール、LH、FSH、男性ではテストステロン、女性ではE2などを測定し、必要に応じて負荷試験を行うとされています。
ただし、これらは「基準範囲内ならすべて正常」という単純な読み方はできません。ホルモンには日内変動があり、年齢、性別、薬剤、ストレス、妊娠、測定法などの影響もあります。また中枢性内分泌障害では、下垂体ホルモンと標的臓器ホルモンとの組み合わせで判断する必要があります。
視交叉付近へ進展している場合は、眼科的な視力・視野評価も重要です。日本内分泌学会の手引きでは視野検査について静的視野検査の感度が高いとされています。
したがって看護師が検査結果を見るときも、「MRIで○cm」「ACTHが○」「Naが○」と単独で覚えるより、何を確認する検査なのかを理解することが大切です。
治療は「腫瘍を小さくする」だけでなくホルモン異常の是正を目指す
この章の要点下垂体腫瘍の治療は一律ではなく、腫瘍の種類・ホルモン機能・大きさ・圧迫症状によって手術、薬物療法、放射線療法、経過観察などを選択します。
非機能性下垂体腫瘍で視交叉を圧迫し視機能障害を認める場合は、圧迫解除を目的として手術が重要になります。一方、視機能障害がなく、増大も明らかでない病変では経過観察となる場合があります。
機能性腫瘍では腫瘍の種類によって方針が大きく異なります。
特にプロラクチノーマでは、ドパミン作動薬が治療の基本・第一選択です。カベルゴリンなどによってPRL低下と腫瘍縮小を期待できるため、「下垂体腫瘍=まず手術」ではありません。薬物抵抗性や副作用などでは手術が検討されます。
一方、他の機能性腫瘍では手術が治療の中心となる場合が多く、残存・再発やホルモン過剰が続く場合に薬物療法や放射線療法を組み合わせます。
また、腫瘍を治療しても既に生じた下垂体機能低下がすべて回復するとは限りません。その場合は必要なホルモン補充を継続します。
そのため治療効果は「MRIで腫瘍が小さくなったか」だけでなく、視機能、ホルモン値、臨床症状、下垂体機能などを含めて評価します。
手術では鼻から蝶形骨洞を通って下垂体へ到達する方法が広く用いられる
この章の要点下垂体腫瘍では、鼻腔から蝶形骨洞を経由してトルコ鞍へ到達する経鼻経蝶形骨洞手術が広く行われています。
頭蓋骨を大きく開けずに下垂体へ到達できる一方、下垂体周辺には視神経、内頸動脈、海綿静脈洞、正常下垂体など重要構造が存在します。
さらに鼻腔から頭蓋底へ到達するため、術後には一般的な脳神経外科術後観察に加え、
視機能・神経症状
下垂体前葉機能
尿量・水分出納
血清Na
鼻出血
髄液漏
感染
などを確認する必要があります。
国内報告でも経鼻内視鏡手術後には鼻出血、髄液漏、髄膜炎などの鼻副鼻腔・頭蓋底関連合併症が報告されており、脳神経外科、内分泌科、耳鼻咽喉科などの連携が重要です。
術後は意識・瞳孔・視機能を「術前と比べて変わったか」で見る
この章の要点下垂体腫瘍術後の神経学的観察では、新しい変化がないかを術前状態と比較することが重要です。
意識状態、瞳孔、眼球運動、視力・視野の自覚症状、頭痛、悪心・嘔吐などを確認します。
たとえば術前から視野障害がある患者では、「視野障害あり」だけでは変化を評価できません。術前と比べて改善したのか、同程度なのか、悪化したのかを捉えます。
新たな視力低下、視野の悪化、複視、眼球運動障害、意識変化、急激に増悪する頭痛などがあれば、術後出血や周囲構造への影響などを含めた評価が必要になるため、速やかに担当医療者へ共有します。
報告するときは「見えにくいと言っています」だけでなく、
いつから変化したか
左右差があるか
術前との違い
瞳孔や眼球運動
意識状態
頭痛・嘔吐
バイタルサイン
などを組み合わせることで、変化の緊急性を判断しやすくなります。
術後の尿量は「多いか」だけでなく尿の濃さ・飲水・Naとセットで見る
この章の要点下垂体手術後で特に重要なのが水・Naバランスです。下垂体後葉系のバソプレシン分泌が障害されれば中枢性尿崩症を生じる可能性があり、逆にバソプレシン作用が相対的に過剰になる時期には低Na血症を生じることがあります。
中枢性尿崩症ではバソプレシン作用が不足するため、腎臓で水を十分に再吸収できず、薄い尿が大量に排泄されます。その結果、口渇、多飲、多尿が生じ、飲水で補えなければ血清Na上昇や脱水につながります。
日本内分泌学会の中枢性尿崩症診断の手引きでは、成人の尿量3,000mL/日以上または40mL/kg/日以上、尿浸透圧300mOsm/kg以下などが診断所見に含まれています。これは中枢性尿崩症の診断基準の一部であり、「術後にこの尿量になったら看護師が必ず報告する」という共通基準ではありません。
術直後の多尿には輸液、血糖、利尿など別の原因もあり、尿量だけで尿崩症と判断できません。術後DIの定義自体にも研究間で差があることが指摘されています。
そのため看護では、
尿量とその推移
飲水量・輸液量
口渇
尿の希釈を示す検査
血清Na・血漿浸透圧
体重
血圧・脈拍
意識や全身状態
を組み合わせます。
逆に尿量が減少する時期にも注意が必要です。低Na血症が進行すると、悪心、頭痛、倦怠感から、重症では意識障害やけいれんなどの神経症状につながる可能性があります。
したがって「尿量が多い=尿崩症」「尿量が少ない=問題なし」ではありません。経時変化とNaを組み合わせて捉えることが重要です。
尿量
- なぜ見るか
- 水排泄の変化を捉える
- 注意する変化
- 急な多尿、逆にそれまでの多尿からの変化
飲水・輸液量
- なぜ見るか
- 尿量とのバランスを評価
- 注意する変化
- 尿量に対して補給が追いつかない
血清Na
- なぜ見るか
- 水バランス異常を反映
- 注意する変化
- 上昇・低下ともに経時変化を見る
尿の濃さ・浸透圧
- なぜ見るか
- 水利尿かどうかを判断する材料
- 注意する変化
- 多量かつ希薄な尿
口渇
- なぜ見るか
- 高浸透圧への生理的反応の手掛かり
- 注意する変化
- 強い口渇、多飲
体重・循環状態
- なぜ見るか
- 水分出納を補助的に評価
- 注意する変化
- 急な変化、低血圧など
意識・頭痛・悪心
- なぜ見るか
- Na異常などの重症化を捉える
- 注意する変化
- 新規・増悪する神経症状
| 観察 | なぜ見るか | 注意する変化 |
|---|---|---|
| 尿量 | 水排泄の変化を捉える | 急な多尿、逆にそれまでの多尿からの変化 |
| 飲水・輸液量 | 尿量とのバランスを評価 | 尿量に対して補給が追いつかない |
| 血清Na | 水バランス異常を反映 | 上昇・低下ともに経時変化を見る |
| 尿の濃さ・浸透圧 | 水利尿かどうかを判断する材料 | 多量かつ希薄な尿 |
| 口渇 | 高浸透圧への生理的反応の手掛かり | 強い口渇、多飲 |
| 体重・循環状態 | 水分出納を補助的に評価 | 急な変化、低血圧など |
| 意識・頭痛・悪心 | Na異常などの重症化を捉える | 新規・増悪する神経症状 |
透明な鼻漏・鼻出血・発熱は経鼻手術後の重要な変化として捉える
この章の要点経鼻経蝶形骨洞手術後は、髄液鼻漏や鼻出血、感染など頭蓋底手術特有の合併症にも注意します。
髄液鼻漏では鼻から水様性の液体が流れることがあります。しかし鼻汁だけで髄液と断定することはできないため、量、性状、出現状況、頭痛や発熱などの随伴症状を確認し、疑わしい場合は医療チームへ共有します。
髄液漏は頭蓋内と鼻腔側の交通につながるため、髄膜炎などの感染リスクとも関連します。国内の経鼻下垂体手術の報告でも、術後髄液漏や髄膜炎が報告されています。
また鼻出血も観察します。単にティッシュに少量付着した程度なのか、持続しているのか、口腔・咽頭側への流入がないか、循環動態への影響がないかを組み合わせます。
術後に鼻を強くかむ、強くいきむなど頭蓋内圧・鼻副鼻腔内圧に影響する行為について制限が指示される場合があります。ただし具体的な期間は術式や頭蓋底再建、髄液漏の有無などによって異なるため、施設・術者の指示に従って患者へ説明します。共通の日数を看護師独自の基準として設定しないことが重要です。
倦怠感・低血圧・悪心を「術後だから」で終わらせず副腎不全も考える
この章の要点下垂体手術後ではACTH-コルチゾール系の評価が重要です。特に副腎不全は見逃すと重症化する可能性があります。
ACTHは副腎皮質からのコルチゾール分泌を促します。そのためACTH分泌が低下すると、コルチゾール不足につながります。
注意する症状は、強い倦怠感、食欲低下、悪心・嘔吐、血圧低下、意識変化などです。低血糖や低Na血症を伴うこともあります。
問題は、これらの多くが「手術後にもあり得る症状」であることです。
だからこそ一つの症状だけではなく、
術前の下垂体機能
ステロイド投与状況
血圧・脈拍
意識
血糖
Na
食事摂取
悪心・嘔吐
コルチゾール等の検査結果
を組み合わせて考えます。
日本内分泌学会ガイドラインではACTH分泌低下症にステロイド補充が必要とされ、副腎クリーゼを疑う場合には診断確定を待つことより治療を優先するとしています。
看護師が副腎クリーゼを診断するのではなく、急激な全身状態の変化を「下垂体疾患患者に起きた変化」として認識し、担当医へ速やかに伝えることが重要です。
突然の激しい頭痛+視機能や意識の変化では下垂体卒中を見逃さない
この章の要点下垂体腫瘍の患者に突然の強い頭痛が出現した場合、下垂体卒中を重要な鑑別として考えます。
下垂体卒中は、下垂体腫瘍などに急性の出血や梗塞が起こり、腫瘍内圧や周囲への圧迫が急激に増す病態です。
急激な頭痛に加えて、嘔吐、視力・視野障害、複視、眼瞼下垂や眼球運動障害、意識障害などを伴うことがあります。さらにACTH-コルチゾール系が急激に障害されると副腎不全を合併し、生命に関わる可能性があります。国際的な診療ガイドラインでも神経内分泌学的な緊急病態として扱われています。
看護では頭痛の有無だけでなく、
発症が突然か
以前と性質が違うか
視力・視野の変化
複視
瞳孔
眼球運動
意識
嘔吐
血圧などの循環状態
を速やかに確認します。
特に「昨日から頭痛がある」患者と「突然、今までにない強い頭痛が出て視力も落ちた」患者では緊急性が異なります。
新規の視機能障害、眼球運動障害、意識変化、循環不安定などを伴う場合には、症状の発症時刻と経過を含めて速やかに医師へ共有する必要があります。
退院後も「腫瘍」「視機能」「ホルモン」の3つを長期的にフォローする
この章の要点下垂体腫瘍は手術が終われば観察終了ではありません。長期的には画像・視機能・内分泌機能の再評価が必要です。
腫瘍が残存していれば増大していないかをMRIなどで確認します。全摘出後でも腫瘍の種類によって再発評価が必要になります。
また、下垂体機能は術前と術後で変化する可能性があります。改善する機能もあれば、補充療法が必要になる機能もあります。放射線治療を受けた患者などでは遅れて下垂体機能低下が問題になることもあります。
偶発的な非機能性下垂体腫瘍で手術を行わず経過観察する場合、日本内分泌学会2023年版では一つの標準的な目安として、当初3か月後、その6か月後、その後は1年ごとにMRIと下垂体前葉ホルモン・標的ホルモンの基礎値を評価する方針が示されています。ただし、これはすべての下垂体腫瘍に一律適用する間隔ではなく、病型・増大速度・治療歴などによって計画は異なります。
患者への説明では、頭痛だけを再受診の目安にするのではなく、視力・視野の変化、強い倦怠感、嘔吐、著しい口渇・多尿、意識変化など、ホルモン異常を示唆する症状にも注意してもらいます。
ホルモン補充療法を受けている患者では自己判断による中断を避けることも重要です。特にACTH分泌低下によるグルココルチコイド補充では、感染症や手術などのストレス時に通常と異なる対応が必要になる場合があるため、主治医から指示されたシックデイルールや緊急時対応を理解できているか確認します。日本内分泌学会はACTH分泌低下症患者に副腎不全カード等の携帯と周囲への周知も示しています。
看護では「脳外科+内分泌」の両方から患者を捉える
この章の要点下垂体腫瘍の看護で最も重要なのは、患者を神経症状だけで評価しないことです。
下垂体は視交叉など重要な神経構造の近くにある一方、全身の内分泌機能を調節しています。そのため一つの変化が神経系なのか、内分泌系なのか、水・電解質異常なのかを考えながら観察します。
たとえば術後に「ぼーっとしている」患者がいた場合、神経学的悪化だけでなく、低Na血症、副腎不全、血糖異常、薬剤など複数の可能性があります。
「尿量が増えた」場合も同様です。中枢性尿崩症だけでなく、輸液や血糖など別の原因を含め、尿の濃さ、Na、飲水量、口渇、体重、循環状態と合わせます。
したがって重要なのは、数値一つで診断名を当てることではありません。
①普段・術前との違い
②いつから変わったか
③ほかに何が変わったか
④病態としてどうつながるか
⑤緊急性のある変化ではないか
を整理することです。
医師へ報告するときも、「尿が多いです」ではなく、「○時頃から尿量がそれまでより増加し、口渇も強く、直近の水分出納と血清Naはこう変化している」のように経時変化と関連所見を伝えることで、評価につながる情報になります。
脳下垂体腫瘍は「圧迫・過剰・低下」で整理すると理解しやすい
この章の要点脳下垂体腫瘍を理解するときは、まず圧迫・ホルモン過剰・ホルモン低下の3方向に分けて考えます。
腫瘍が上方へ進展すれば視路を圧迫し、視機能障害につながります。機能性腫瘍ではPRL、GH、ACTH、TSHなどの過剰によって全身症状が生じます。一方、大きな腫瘍や治療後には正常下垂体機能が低下し、副腎・甲状腺・性腺などの機能低下につながることがあります。
診断ではMRIだけではなく、ホルモン検査と視機能評価を組み合わせます。治療も腫瘍型によって異なり、手術、薬物療法、放射線療法、経過観察を使い分けます。
特に術後看護では、意識・瞳孔・視機能などの神経学的観察に加えて、尿量・血清Na・水分出納・副腎機能・髄液漏を意識することが重要です。
「何を観察するか」を暗記するより、「下垂体がどの機能を担っていて、その機能が障害されると何が起こるか」を理解すると、患者の変化を結びつけて考えられるようになります。
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この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版一般社団法人 日本内分泌学会/厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班・2023年ガイドラインの対象・作成方法、PitNET名称、先端巨大症、クッシング病、高PRL血症、中枢性尿崩症、ACTH分泌低下症、TSH分泌低下症、偶発的下垂体腫瘍の診断・治療を原文PDFで確認。特に偶発的下垂体腫瘍について、p.57前後の内分泌・視機能評価、手術適応、経過観察、早朝空腹時のホルモン基礎値評価を確認した。原資料を開く
- Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary TumorsEndocrine Pathology・2022年WHO第5版における下垂体前葉由来腫瘍のPituitary Neuroendocrine Tumor(PitNET)への分類変更と病理学的分類の概要を確認。原資料を開く
- Clinical guidelines for management of diabetes insipidus and syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion after pituitary surgeryEndocrinología y Nutrición・2014年下垂体手術後にバソプレシン分泌異常による中枢性尿崩症およびSIADHが生じ得ること、水・電解質管理が重要であることを確認。今回はPubMed上の抄録範囲を確認したため、細かな治療数値は公開原稿の根拠として使用していない。原資料を開く
残り4件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- Prevention of Cerebrospinal Fluid Leakage and Endocrinological Management after Transsphenoidal Surgery脳神経外科・2023年経蝶形骨洞手術後の内分泌障害、水・電解質管理、髄液漏など生命に関わり得る術後合併症管理の重要性を抄録で確認。原資料を開く
- UK guidelines for the management of pituitary apoplexy