時間に合わせて読む
目次この記事でわかること12項目+
点線の用語を長押しすると、短い解説が開きます。タップ・クリックでも確認できます。
読む前に押さえたいこと
「超速効型は食直前、速効型は食前30分」と覚えても、製品名が変わると迷うことがあります。インスリン製剤には、食後の血糖上昇を抑えるものと、食事のない時間にも必要な基礎分泌を補うものがあります。さらに、条件付きで食後投与できる製品、白濁して再懸濁が必要な製品、透明でも2成分を含む製品、週1回投与する製品があり、分類名だけでは安全に判断できません。この記事では、作用時間、食事との関係、治療での使い分け、絶食時・低血糖時の観察、投与前確認を順に整理します。実際の投与では、一覧より最新の処方指示、電子添文、施設手順を優先してください。
インスリン製剤は「追加分泌」と「基礎分泌」のどちらを補うかで整理する
この章の要点結論からいうと、製品名を覚える前に、追加分泌と基礎分泌のどちらを補う製剤かを確認すると、役割と投与時刻を結び付けやすくなります。
健康な膵臓では、食後の血糖上昇に応じてインスリンが増える追加分泌と、食事をしていない時間にも持続する基礎分泌があります。追加分泌を主に補う超速効型・速効型は、食後血糖を抑えるため、食事と投与の間隔が重要です。基礎分泌を主に補う中間型・持効型溶解は、肝臓からの糖放出を抑え、空腹時を含む血糖を調整します。
混合型は、食事用の超速効型または速効型と中間型を一定比率で含む白濁製剤です。配合溶解型も食事用と基礎用の2成分を含みますが、持効型溶解成分と組み合わせた透明な製剤です。2025年には週1回持効型溶解インスリンのアウィクリが国内で販売開始となり、「持効型は毎日投与する」とは限らなくなりました。
インスリン製剤一覧では、作用時間と食事との関係をセットで確認する
この章の要点一覧では、作用が始まるまでの時間、作用が強くなる時間帯、持続時間に加え、食事との関係を確認します。ただし、表の時間は製剤群の一般的な目安であり、個々の患者への投与時刻や用量を決める値ではありません。投与量、注射部位、血流、運動、皮下の腫瘤・硬結などで吸収は変わるため、血糖の経時変化と症状で実際の効き方を評価します。
製品欄には国内で使用されている主な例を示しました。同じ成分でも濃度、ペン・カートリッジ・バイアル、バイオ後続品の別があります。投与時は分類だけでなく、患者、製品名、濃度、剤形・注入器、単位、時刻を処方と照合してください。
超速効型
- 主な成分・代表的な製品
- インスリン アスパルト:ノボラピッド、同BS製剤/インスリン リスプロ:ヒューマログ、同BS製剤/インスリン グルリジン:アピドラ
- 作用発現の目安
- 皮下注射後約10~20分
- 最大作用・持続時間の目安
- 最大作用:約1~3時間/持続:約4~5時間
- 一般的な投与タイミング
- 原則として食直前。製品と処方を確認
- 主な役割・注意
- 追加分泌を補い、食後血糖を抑える
作用発現をさらに速めた超速効型
- 主な成分・代表的な製品
- faster-acting insulin aspart:フィアスプ/ultra rapid lispro:ルムジェブ
- 作用発現の目安
- 従来の超速効型より速い
- 最大作用・持続時間の目安
- 製品、投与量、患者の状態で異なる
- 一般的な投与タイミング
- 食事開始時(開始前2分以内)。患者の状態に応じて開始後20分以内も可
- 主な役割・注意
- 食事開始に近い投与が可能。ただし食後投与を原則にしない
速効型
- 主な成分・代表的な製品
- ヒトインスリン:ヒューマリンR、ノボリンR
- 作用発現の目安
- 皮下注射後約30分
- 最大作用・持続時間の目安
- 最大作用:約2時間/持続:約5~8時間
- 一般的な投与タイミング
- 一般に食前約30分
- 主な役割・注意
- 追加分泌を補う。製品・剤形と指示により静脈内投与などにも用いられる
中間型(NPH)
- 主な成分・代表的な製品
- ヒューマリンN、ノボリンN
- 作用発現の目安
- 約1~3時間
- 最大作用・持続時間の目安
- 作用の山があり、持続:約18~24時間
- 一般的な投与タイミング
- 製品・療法で異なるため処方時刻を確認。ヒューマリンNの電子添文では一般に朝食前30分以内
- 主な役割・注意
- 基礎分泌を補う。白濁しており再懸濁が必要
混合型
- 主な成分・代表的な製品
- ノボラピッド30・50ミックス、ヒューマログミックス25・50、ノボリン30R、ヒューマリン3/7
- 作用発現の目安
- 含まれる食事用成分による
- 最大作用・持続時間の目安
- 中間型成分の時間帯まで作用
- 一般的な投与タイミング
- アナログ混合型は食直前、ヒトインスリン混合型は一般に食前約30分。製品別に確認
- 主な役割・注意
- 追加分泌と基礎分泌を固定比率で補う。白濁しており再懸濁が必要
配合溶解型
- 主な成分・代表的な製品
- インスリン デグルデク/インスリン アスパルト:ライゾデグ
- 作用発現の目安
- 食事用成分は速やかに作用
- 最大作用・持続時間の目安
- 基礎成分は長く作用
- 一般的な投与タイミング
- 1日1回なら毎日一定の主たる食事の直前、1日2回なら朝食・夕食直前
- 主な役割・注意
- 追加分泌と基礎分泌を固定比率で補う透明な製剤
連日投与の持効型溶解
- 主な成分・代表的な製品
- インスリン グラルギンU100:ランタス、同BS製剤/同U300:ランタスXR/インスリン デテミル:レベミル/インスリン デグルデク:トレシーバ
- 作用発現の目安
- 約1~2時間
- 最大作用・持続時間の目安
- グラルギンU100・デテミル:約24時間/グラルギンU300:24時間超/デグルデク:42時間以上
- 一般的な投与タイミング
- 食事とは直接連動させず、処方された時刻。デテミルなどは1日2回の場合もある
- 主な役割・注意
- 主に基礎分泌を補う。濃度と製品名を確認
週1回持効型溶解
- 主な成分・代表的な製品
- インスリン イコデク:アウィクリ(700単位/mL)
- 作用発現の目安
- 緩徐に作用
- 最大作用・持続時間の目安
- 1週間の基礎分泌を補う
- 一般的な投与タイミング
- 週1回、同一曜日。曜日変更・投与忘れでは投与間隔4日以上などの条件を確認
- 主な役割・注意
- 成人の基礎分泌を補う。特に1型糖尿病では適用を慎重に検討
| 分類 | 主な成分・代表的な製品 | 作用発現の目安 | 最大作用・持続時間の目安 | 一般的な投与タイミング | 主な役割・注意 |
|---|---|---|---|---|---|
| 超速効型 | インスリン アスパルト:ノボラピッド、同BS製剤/インスリン リスプロ:ヒューマログ、同BS製剤/インスリン グルリジン:アピドラ | 皮下注射後約10~20分 | 最大作用:約1~3時間/持続:約4~5時間 | 原則として食直前。製品と処方を確認 | 追加分泌を補い、食後血糖を抑える |
| 作用発現をさらに速めた超速効型 | faster-acting insulin aspart:フィアスプ/ultra rapid lispro:ルムジェブ | 従来の超速効型より速い | 製品、投与量、患者の状態で異なる | 食事開始時(開始前2分以内)。患者の状態に応じて開始後20分以内も可 | 食事開始に近い投与が可能。ただし食後投与を原則にしない |
| 速効型 | ヒトインスリン:ヒューマリンR、ノボリンR | 皮下注射後約30分 | 最大作用:約2時間/持続:約5~8時間 | 一般に食前約30分 | 追加分泌を補う。製品・剤形と指示により静脈内投与などにも用いられる |
| 中間型(NPH) | ヒューマリンN、ノボリンN | 約1~3時間 | 作用の山があり、持続:約18~24時間 | 製品・療法で異なるため処方時刻を確認。ヒューマリンNの電子添文では一般に朝食前30分以内 | 基礎分泌を補う。白濁しており再懸濁が必要 |
| 混合型 | ノボラピッド30・50ミックス、ヒューマログミックス25・50、ノボリン30R、ヒューマリン3/7 | 含まれる食事用成分による | 中間型成分の時間帯まで作用 | アナログ混合型は食直前、ヒトインスリン混合型は一般に食前約30分。製品別に確認 | 追加分泌と基礎分泌を固定比率で補う。白濁しており再懸濁が必要 |
| 配合溶解型 | インスリン デグルデク/インスリン アスパルト:ライゾデグ | 食事用成分は速やかに作用 | 基礎成分は長く作用 | 1日1回なら毎日一定の主たる食事の直前、1日2回なら朝食・夕食直前 | 追加分泌と基礎分泌を固定比率で補う透明な製剤 |
| 連日投与の持効型溶解 | インスリン グラルギンU100:ランタス、同BS製剤/同U300:ランタスXR/インスリン デテミル:レベミル/インスリン デグルデク:トレシーバ | 約1~2時間 | グラルギンU100・デテミル:約24時間/グラルギンU300:24時間超/デグルデク:42時間以上 | 食事とは直接連動させず、処方された時刻。デテミルなどは1日2回の場合もある | 主に基礎分泌を補う。濃度と製品名を確認 |
| 週1回持効型溶解 | インスリン イコデク:アウィクリ(700単位/mL) | 緩徐に作用 | 1週間の基礎分泌を補う | 週1回、同一曜日。曜日変更・投与忘れでは投与間隔4日以上などの条件を確認 | 成人の基礎分泌を補う。特に1型糖尿病では適用を慎重に検討 |
超速効型でも食後投与できるとは限らず、製品名の確認が必要
この章の要点超速効型を「すべて食後投与できる」と覚えるのは危険です。ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラなど従来の超速効型は、原則として食直前に投与します。
フィアスプとルムジェブは、食事開始時、すなわち食事開始前2分以内の投与が基本です。患者の状態に応じて食事開始後20分以内の投与も認められていますが、これは毎回の食後投与を推奨する意味ではありません。処方指示に加え、食事摂取の確実性、食物の吸収遅延、血糖推移、早期低血糖の既往を確認します。
速効型ヒトインスリンは、皮下注射後の作用発現が超速効型より遅いため、一般に食前約30分に投与します。名称が似ていても投与間隔は異なるため、食事が予定どおり提供され、患者が摂取できる状態かを製品のタイミングに合わせて確認することが重要です。
従来の超速効型
- 食事との基本的な関係
- 原則として食直前
- 確認するポイント
- 「全製品で食後可」とまとめない
フィアスプ、ルムジェブ
- 食事との基本的な関係
- 食事開始前2分以内。患者の状態に応じ、開始後20分以内も可
- 確認するポイント
- 食後投与は製品固有の用法と患者ごとの判断に基づく
速効型
- 食事との基本的な関係
- 一般に食前約30分
- 確認するポイント
- 超速効型と取り違えない
アナログ混合型
- 食事との基本的な関係
- 原則として食直前
- 確認するポイント
- 混合比率と製品名を確認する
ヒトインスリン混合型
- 食事との基本的な関係
- 一般に食前約30分
- 確認するポイント
- 「混合型はすべて食直前」ではない
ライゾデグ
- 食事との基本的な関係
- 毎日一定の主たる食事の直前。1日2回なら朝食・夕食直前
- 確認するポイント
- 透明でも食事用成分を含む
連日投与の持効型
- 食事との基本的な関係
- 食事とは直接連動しない
- 確認するポイント
- 処方された時刻と回数を守る
アウィクリ
- 食事との基本的な関係
- 週1回、同一曜日
- 確認するポイント
- 連日投与しない。前回投与日を確認する
| 製剤 | 食事との基本的な関係 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 従来の超速効型 | 原則として食直前 | 「全製品で食後可」とまとめない |
| フィアスプ、ルムジェブ | 食事開始前2分以内。患者の状態に応じ、開始後20分以内も可 | 食後投与は製品固有の用法と患者ごとの判断に基づく |
| 速効型 | 一般に食前約30分 | 超速効型と取り違えない |
| アナログ混合型 | 原則として食直前 | 混合比率と製品名を確認する |
| ヒトインスリン混合型 | 一般に食前約30分 | 「混合型はすべて食直前」ではない |
| ライゾデグ | 毎日一定の主たる食事の直前。1日2回なら朝食・夕食直前 | 透明でも食事用成分を含む |
| 連日投与の持効型 | 食事とは直接連動しない | 処方された時刻と回数を守る |
| アウィクリ | 週1回、同一曜日 | 連日投与しない。前回投与日を確認する |
白濁するのは中間型と混合型で、配合溶解型のライゾデグは透明
この章の要点中間型NPH製剤と、中間型成分を含む混合型製剤は、成分が懸濁した白濁製剤です。放置すると沈殿と上澄みに分かれるため、投与前に製品の取扱説明書・電子添文どおりに穏やかに転倒・回転させ、均一に再懸濁します。必要な回数や方法は製品・容器で異なるので、強く振るなど自己流で混ぜません。
超速効型、速効型、持効型溶解、週1回持効型溶解は、原則として無色澄明です。ライゾデグも2成分を含みますが、デグルデクとアスパルトの透明な配合溶解製剤です。「2種類入りなら白濁」という見分け方はできません。
通常と異なる濁り・変色、再懸濁後も残る沈殿・塊、ラベルと指示の不一致があれば投与を保留し、処方医・薬剤師へ確認します。異なるインスリンの混注が認められる組み合わせもありますが、製品ごとの条件があるため、明示された処方・手順なしに同じ注射器へ混ぜてはいけません。
1型糖尿病では基礎・追加インスリンを組み合わせ、2型糖尿病では血糖パターンに応じて強化する
この章の要点1型糖尿病では、持効型溶解などで基礎分泌を補い、各食前の超速効型などで追加分泌を補う基礎・追加インスリン療法が基本です。日本糖尿病学会は、頻回注射またはインスリンポンプによる強化インスリン療法を、1型糖尿病の細小血管症の発症・進行予防のため強く推奨しています。
2型糖尿病では、経口血糖降下薬やGLP-1受容体作動薬で十分な血糖コントロールが得られない場合、1日1回の持効型溶解インスリンを加える方法があります。これで不十分なら、最も食後血糖が高くなる食事に超速効型を1回加えるbasal-plus療法を行い、必要に応じて食事用インスリンの回数を段階的に増やします。頻回注射が適さない場合には、混合型・配合溶解型の1日2回投与などが選択されます。ただし、追加用と基礎用の比率が固定されるため、食事量や生活時間が日ごとに大きく変わる患者では調整しにくいことがあります。
使い分けは製剤の長短だけでなく、血糖パターンと自己管理能力で決まります。看護師は製剤を独自に選ばず、空腹時・食前・食後・夜間のどこで高血糖またはが続くか、食事量と時間、運動、腎機能、自己注射の手技、認知・視力・手指機能、支援者の有無を確認します。単回値だけで結論を出さず、測定時刻、食事、投与製剤・単位・時刻を対応させた経時的な情報を処方医・薬剤師へ共有すると、基礎用と食事用のどちらを再評価すべきか検討しやすくなります。
絶食や食事遅延時は「食事用を打たない」「基礎用を通常量で打つ」と一律に判断しない
この章の要点絶食・食事遅延時は、食事用、補正用、基礎用を分けて個別指示を確認します。食事用インスリンを通常量投与した後に食事が遅れたり摂取できなくなったりすると、インスリン作用に見合う糖質が入らず低血糖の危険が高まります。投与前に現在の血糖値、食事の予定、配膳状況、実際に摂取できる状態か、悪心・嘔吐や嚥下の問題、前回投与、補正指示を確認します。食事の中止・遅延が分かったら、自己判断で通常量を投与せず、処方医へ食事用と補正用を分けて照会します。
一方、基礎インスリンは食事の有無だけで不要になるものではありません。特に1型糖尿病やインスリン依存状態では、インスリンの中断や過度の減量により高血糖・ケトーシス・糖尿病ケトアシドーシスへ進むおそれがあります。しかし、絶食でも全員が通常量という意味でもありません。手術、感染症、腎・肝機能、直近の低血糖、輸液・経管栄養、ステロイド使用などで必要量は変わるため、絶食時の基礎量と血糖測定、補正、糖質投与の具体的な指示が必要です。
病棟では、投与前に食事が提供され患者が食べられることを確認する運用が安全につながりますが、確認と投与の順序は製品、患者状態、施設手順で異なります。食止めや検査時間の変更を把握したら、配膳部門・検査部門を含めて共有し、インスリン指示も変更済みか確認します。高血糖に口渇、多尿、悪心・嘔吐、腹痛、呼吸状態や意識の変化を伴う場合、特に1型糖尿病ではケトン体測定の指示と速やかな診察につなげます。小児の周術期・シックデイに関する具体的な割合を、成人を含むすべての患者へ流用してはいけません。
週1回のアウィクリは注射回数を減らせるが、曜日と単位の誤りに注意する
この章の要点アウィクリはインスリン イコデクを成分とする、成人に週1回投与する持効型溶解インスリンです。国内では総量300単位製剤が2025年1月、総量700単位製剤が同年12月に販売開始されました。効能は「インスリン療法が適応となる糖尿病」ですが、1型糖尿病の臨床試験では連日投与の基礎インスリンより低血糖が多かったため、電子添文は連日製剤を選ぶことも検討したうえで、適用を慎重に考慮するよう求めています。
原則として毎週同じ曜日に投与します。曜日を変更するときは投与間隔を4日以上空け、投与を忘れたときは気づいた時点で投与し、次回まで4日以上空けたうえで新しい曜日を基準にします。ただし、これは患者・看護師が自己判断で日程を組み替えるための規則ではありません。前回投与日と個別指示を確認し、変更時は血糖モニタリングを十分に行います。糖尿病性昏睡、急性感染症、手術など緊急時は、本剤だけで対応する製剤ではありません。
濃度は700単位/mLで、総量300単位と総量700単位はペン全体に入っている量です。1回の処方単位と混同してはいけません。専用ペンの用量設定は10単位刻みで、1クリックは10単位です。1クリックを1単位と誤認すると過量投与になります。指示単位をmLへ換算せず、そのまま表示窓で設定し、ペンから注射器で薬液を抜き取りません。
開始・切り替え時は作用が安定するまで血糖を十分に確認します。高齢者向けRecommendationでは、投与後2~4日目に食前血糖が最も下がりやすく、注射負担軽減が期待できる一方、低血糖が重症化・遷延する可能性、認知機能や支援体制、食事のむらを踏まえる必要があるとしています。この2~4日目という観察点は高齢者向けの専門家提言であり、全患者へ同一の投与調整規則として一般化しません。
投与前は製品名、単位、食事、前回投与、注射部位を順に照合する
この章の要点インスリンの取り違えや単位の誤認は、重い低血糖または高血糖につながり得ます。投与前は、製品・単位・時刻を患者の状態とセットで確認します。
- 患者と処方指示
- 製品名、インスリンの種類、濃度
- ペン、カートリッジ、バイアルなどの剤形と、適合する注入器
- 投与量の「単位」、投与経路、投与時刻
- 現在の血糖値、普段の低血糖症状、意識状態
- 食事の有無、配膳状況、摂取可能性
- 前回投与の製品・単位・時刻。週1回製剤では前回投与日
- 透明・白濁など通常の外観、再懸濁の要否
- 注射部位、腫瘤・硬結、発赤、前回の注射位置
バイアルから吸引するときは、「単位」または「UNITS」の目盛りがあるインスリン専用注射器を使用します。一般の注射器でmLへ換算すると重大な過量投与につながるおそれがあります。高濃度の専用ペンも体積へ換算せず、表示された単位で投与します。
皮下注射は、同じ部位の中でも注射箇所を毎回変え、多くの電子添文に従って前回箇所から少なくとも2~3cm離します。同一箇所への反復で生じるリポジストロフィーや皮膚アミロイドーシスの腫瘤・硬結部では吸収が妨げられ、血糖が不安定になることがあります。硬結部を避けて正常部位へ変更した後は吸収が変わり、過度に増量されていた場合に低血糖となる可能性があるため、血糖と処方量の再評価につなげます。
製品と指示が一致しない、単位や前回投与が不明、食事条件が変わった、外観が異常な場合は投与を保留します。処方医・薬剤師へ、相違点と現在の血糖値、食事状況、直近の投与を具体的に伝え、確認後に投与します。
「ピークがない」「長く効く」は、低血糖が起きないという意味ではない
この章の要点持効型溶解インスリンは、グラルギンやデグルデクのように明らかな作用の山が少ない製剤があります。しかし、低血糖が起こらないわけではありません。投与量に対して食事摂取が少ない、運動量が増えた、腎・肝機能が低下した、重複投与した、ほかの血糖降下薬が加わった場合などは、作用が相対的に過剰になり得ます。
反対に、「持続約24時間」は全患者で24時間後に作用が突然なくなるという意味ではありません。デグルデクの作用は42時間以上とされますが、42時間ごとに投与するという意味でもなく、処方された用法に従います。週1回製剤では低血糖が遷延する可能性があります。
作用時間表は製剤の特徴を比較する学習上の目安です。看護では、低値や高値が現れた時刻を、投与した製剤・単位・時刻、食事、運動、腎機能の変化と重ねます。単独の血糖値だけで「基礎用が多い」「食事用が足りない」と断定せず、反復するパターンを共有して処方の再評価につなげます。
低血糖は数値と症状を確認し、初期対応後も再発を観察する
この章の要点低血糖は、通常、血糖値70mg/dL未満、または動悸、発汗、振戦、強い空腹感、脱力、集中力低下、意識レベル低下などの症状があるときに疑い、対応します。70mg/dLは一般的な対応開始の目安であり、個別の治療目標や全施設共通の医師報告基準ではありません。症状の出方には個人差があり、高齢者、低血糖を繰り返す患者、自律神経障害がある患者では警告症状が乏しいことがあります。症状がある場合は、測定値が70mg/dL以上でも経過と再測定を含めて評価します。
経口摂取できる場合、日本糖尿病学会のガイドラインは、ブドウ糖を中心とした糖質をブドウ糖として5~10g摂取することを初期対応の目安としています。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中なら、砂糖ではなくブドウ糖を用います。意識低下や嚥下困難がある患者へは、誤嚥のおそれがあるため経口摂取させず、緊急対応として応援要請・医師への報告を行い、施設の指示に従って静脈内ブドウ糖またはグルカゴン投与と搬送・診療につなげます。
症状が改善しても再発・遷延することがあるため、再測定と再評価が必要です。対応後の血糖値、症状・意識の回復、食事摂取、その後も作用が続くインスリンの種類を確認します。処方医へは、最低血糖値と測定時刻、症状と意識、直近の製品・単位・投与時刻、食事・運動、行った処置と反応を伝えます。重症低血糖、原因不明の反復、週1回製剤に関連する低血糖は、より長い観察や専門医への相談が必要になり得ます。
血糖値と測定時刻
- 観察する理由・変化の意味
- 投与後のどの時間帯に低下したかを製剤の作用と照合する
- 連携時に伝えること
- 最低値、推移、再測定値
発汗、振戦、動悸、空腹感
- 観察する理由・変化の意味
- 交感神経症状で、意識低下より先に現れることがある
- 連携時に伝えること
- 発症時刻、普段の低血糖症状との違い
脱力、集中力低下、行動変化、意識
- 観察する理由・変化の意味
- 脳への糖供給不足を示し、重症化すると自力で対処できない
- 連携時に伝えること
- 意識レベル、嚥下可否、けいれんの有無
製品・単位・投与時刻、前回投与
- 観察する理由・変化の意味
- 重複投与、製剤取り違え、作用の重なりを検討する
- 連携時に伝えること
- ペンや記録で確認できた事実、不明点
食事量、嘔吐、運動、腎・肝機能の変化
- 観察する理由・変化の意味
- インスリンに対する糖質不足、需要低下、作用遷延の要因となり得る
- 連携時に伝えること
- 食事摂取量、症状、活動、検査値の変化
初期対応と反応
- 観察する理由・変化の意味
- 回復の有無と再発リスクを判断する
- 連携時に伝えること
- 糖質・薬剤の種類と量、実施時刻、症状・血糖の反応
| 観察すること | 観察する理由・変化の意味 | 連携時に伝えること |
|---|---|---|
| 血糖値と測定時刻 | 投与後のどの時間帯に低下したかを製剤の作用と照合する | 最低値、推移、再測定値 |
| 発汗、振戦、動悸、空腹感 | 交感神経症状で、意識低下より先に現れることがある | 発症時刻、普段の低血糖症状との違い |
| 脱力、集中力低下、行動変化、意識 | 脳への糖供給不足を示し、重症化すると自力で対処できない | 意識レベル、嚥下可否、けいれんの有無 |
| 製品・単位・投与時刻、前回投与 | 重複投与、製剤取り違え、作用の重なりを検討する | ペンや記録で確認できた事実、不明点 |
| 食事量、嘔吐、運動、腎・肝機能の変化 | インスリンに対する糖質不足、需要低下、作用遷延の要因となり得る | 食事摂取量、症状、活動、検査値の変化 |
| 初期対応と反応 | 回復の有無と再発リスクを判断する | 糖質・薬剤の種類と量、実施時刻、症状・血糖の反応 |
インスリン製剤で誤解しやすいポイントを整理する
この章の要点インスリン製剤は、分類名だけで投与法まで推測すると誤りやすくなります。よくある誤解を、製品固有の条件と患者ごとの指示に置き換えて整理します。
超速効型はすべて食後に投与できる
- 正しい捉え方
- 食事開始後20分以内の投与が認められているのは、フィアスプ、ルムジェブなど製品固有の条件。食後投与を原則にはしない
「超超速効型」は正式な分類名
- 正しい捉え方
- 国内電子添文では超速効型。作用発現の速さを説明する呼び方として使われることがある
混合型はすべて食直前
- 正しい捉え方
- アナログ混合型は食直前、ヒトインスリン混合型は一般に食前約30分で、製品ごとに確認する
2成分を含む製剤はすべて白濁
- 正しい捉え方
- ライゾデグは2成分を含むが透明
持効型は絶食なら必ず中止、または必ず通常量
- 正しい捉え方
- 基礎インスリンを自己判断で中止せず、絶食時の量は病型、病態、血糖、治療内容に基づく個別指示を確認する
ピークがない製剤なら低血糖は起きない
- 正しい捉え方
- 明らかな作用の山が少なくても低血糖は起こり得る
300単位/mL、700単位/mLなどの高濃度製剤は自分でmLへ換算する
- 正しい捉え方
- 専用ペンでは指示単位をそのまま設定し、体積換算しない。製品ごとの設定単位も確認する
週1回製剤は忘れた翌日に通常どおり追加すればよい
- 正しい捉え方
- 前回投与日と4日以上の投与間隔を確認し、電子添文・個別指示に従う
アウィクリの「総量300単位」「総量700単位」が1回量である
- 正しい捉え方
- これはペン全体の含有量。1回の処方単位とは別で、1刻みは10単位
作用時間は患者にかかわらず一定
- 正しい捉え方
- 投与量、部位、血流、運動、腫瘤・硬結などで変動する
| よくある誤解 | 正しい捉え方 |
|---|---|
| 超速効型はすべて食後に投与できる | 食事開始後20分以内の投与が認められているのは、フィアスプ、ルムジェブなど製品固有の条件。食後投与を原則にはしない |
| 「超超速効型」は正式な分類名 | 国内電子添文では超速効型。作用発現の速さを説明する呼び方として使われることがある |
| 混合型はすべて食直前 | アナログ混合型は食直前、ヒトインスリン混合型は一般に食前約30分で、製品ごとに確認する |
| 2成分を含む製剤はすべて白濁 | ライゾデグは2成分を含むが透明 |
| 持効型は絶食なら必ず中止、または必ず通常量 | 基礎インスリンを自己判断で中止せず、絶食時の量は病型、病態、血糖、治療内容に基づく個別指示を確認する |
| ピークがない製剤なら低血糖は起きない | 明らかな作用の山が少なくても低血糖は起こり得る |
| 300単位/mL、700単位/mLなどの高濃度製剤は自分でmLへ換算する | 専用ペンでは指示単位をそのまま設定し、体積換算しない。製品ごとの設定単位も確認する |
| 週1回製剤は忘れた翌日に通常どおり追加すればよい | 前回投与日と4日以上の投与間隔を確認し、電子添文・個別指示に従う |
| アウィクリの「総量300単位」「総量700単位」が1回量である | これはペン全体の含有量。1回の処方単位とは別で、1刻みは10単位 |
| 作用時間は患者にかかわらず一定 | 投与量、部位、血流、運動、腫瘤・硬結などで変動する |
製品名の暗記より、役割・食事・外観・投与間隔の4点を確認する
この章の要点インスリン製剤は、まず追加分泌用か基礎分泌用かという役割を確認します。次に、食事との投与間隔、透明か白濁か、連日か週1回かという4つの視点で整理すると、製品名だけの暗記より安全な確認につながります。
特に注意するのは、同じ超速効型でも食後投与の可否が異なること、混合型・配合溶解型は成分比率が固定されること、絶食時の基礎インスリンを一律に中止・継続できないこと、週1回製剤を連日投与してはいけないことです。低血糖は数値だけでなく症状と経時変化を見て、対応後の再発も確認します。
一覧表は学習の出発点です。実際の投与では、最新の処方指示、電子添文、施設手順、患者の血糖値・食事・前回投与を優先し、疑問や不一致があれば投与前に処方医・薬剤師へ確認してください。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 糖尿病診療ガイドライン2024 第6章 インスリンによる治療一般社団法人日本糖尿病学会・2024年インスリン製剤の分類、作用発現・最大作用・持続時間、基礎分泌と追加分泌、食事との投与時期、1型糖尿病の強化インスリン療法、2型糖尿病のbasal-plus療法と段階的強化を確認した(見出し1~5、9、11、12)。文献検索期限は2023年6月19日で、発売後の週1回製剤は含まれない。原資料を開く
- インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表一般社団法人日本糖尿病学会(監修)、公益社団法人日本糖尿病協会(制作協力)・2026年2026年2月時点の国内製品、剤形、食事との投与時期、バイオ後続品、アウィクリの総量・濃度・10単位刻みを確認した(見出し2、3、7、8、11)。原資料を開く
- フィアスプ注100単位/mLほか 電子化された添付文書ノボ ノルディスク ファーマ株式会社(PMDA掲載)・2026年超速効型としての位置づけ、食事開始前2分以内、患者の状態に応じ食事開始後20分以内という用法、低血糖、取り違え、注射部位、専用注射器に関する注意を確認した(見出し2、3、8~11)。原資料を開く
残り9件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- ルムジェブ注カートほか 電子化された添付文書日本イーライリリー株式会社(PMDA掲載)・2025年食事開始前2分以内、患者の状態に応じ食事開始後20分以内という用法と、作用発現が速いため早期の低血糖に注意する点を確認した(見出し2、3、11)。原資料を開く
- ヒューマリンN注100単位/mL 電子化された添付文書日本イーライリリー株式会社(PMDA掲載)・2025年NPHヒトインスリンが白色懸濁製剤であること、一般に朝食前30分以内とする用法、再懸濁、製品の条件に従う混注、注射部位の変更を確認した(見出し2、4、8)。原資料を開く
- ライゾデグ配合注フレックスタッチ 電子化された添付文書ノボ ノルディスク ファーマ株式会社(PMDA掲載)・2023年デグルデクとアスパルトを7:3で含む透明な配合溶解製剤であること、1日1回では毎日一定の主たる食事直前、1日2回では朝食・夕食直前に投与する用法を確認した(見出し1~4、11)。原資料を開く