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読む前に押さえたいこと
「右肺は3葉、左肺は2葉」は覚えていても、聴診した場所がどの肺葉に当たるのか、肺区域のS番号が何を表すのか、肺胞・胸膜・肺循環が症状や所見にどう関係するのかは混乱しやすいところです。この記事では、肺を“空気の通り道”“ガス交換の場”“血流”“胸膜と呼吸運動”の順に組み立て直します。正常構造を土台に、呼吸音の左右差、努力呼吸、胸痛、画像所見をどう観察し、何を組み合わせて報告するかまで解説します。臨床で使える肺の地図を作りましょう。
肺は「空気・血液・胸郭」が協働して働く臓器
この章の要点肺の役割は、吸い込んだ空気と血液の間で酸素と二酸化炭素を交換することです。ただし、肺だけが単独で空気を吸い込むわけではありません。気道が空気を運び、肺胞がガスを交換し、肺循環が血液を届け、胸膜・胸郭・横隔膜が肺を動かします。
肺の解剖は、次の4要素に分けると理解しやすくなります。
- 気管から肺胞まで空気を運ぶ管
- 肺胞と毛細血管からなるガス交換面
- 肺動脈・肺毛細血管・肺静脈からなる肺循環
- 肺を胸壁の動きに追従させる胸膜と呼吸筋
呼吸状態を観察するときも、この4要素を順に考えます。空気が届かないのか、肺胞で交換できないのか、血流が届かないのか、胸郭を動かせないのかを分けると、所見の意味を整理しやすくなります。
右肺は3葉、左肺は2葉で、心臓の位置が左右差をつくる
この章の要点胸の中には左右1つずつ肺があり、中央の縦隔を挟んで配置されています。縦隔には心臓、大血管、気管、食道などが存在します。肺の上端を肺尖、横隔膜に接する下端を肺底、肋骨に面する部分を肋骨面、縦隔に面する部分を縦隔面と呼びます。
右肺は上葉・中葉・下葉の3葉です。水平裂が上葉と中葉を分け、斜裂が中葉と下葉を分けます。左肺は上葉・下葉の2葉で、両者を斜裂が分けます。左肺には心臓が位置するための心切痕があり、右肺より小さくなっています。
左上葉の下前方にある舌区は、右中葉と位置・機能上対応する部分ですが、「左中葉」ではありません。記録や画像報告では左上葉の一部として扱います。
肺門は、主気管支、肺動脈、肺静脈、リンパ管、神経などが肺へ出入りする内側のくぼみです。肺門部にある構造の束を肺根と呼びます。
肺葉
- 右肺
- 上葉・中葉・下葉
- 左肺
- 上葉・下葉
葉を分ける裂
- 右肺
- 水平裂・斜裂
- 左肺
- 斜裂
特徴的な部分
- 右肺
- 中葉がある
- 左肺
- 心切痕と舌区がある
区域数の代表的な国内表記
- 右肺
- 10区域
- 左肺
- 8区域
看護で意識する位置
- 右肺
- 中葉は主に前胸部・右側胸部から評価する
- 左肺
- 舌区は主に前胸部・左側胸部から評価する
| 比較項目 | 右肺 | 左肺 |
|---|---|---|
| 肺葉 | 上葉・中葉・下葉 | 上葉・下葉 |
| 葉を分ける裂 | 水平裂・斜裂 | 斜裂 |
| 特徴的な部分 | 中葉がある | 心切痕と舌区がある |
| 区域数の代表的な国内表記 | 10区域 | 8区域 |
| 看護で意識する位置 | 中葉は主に前胸部・右側胸部から評価する | 舌区は主に前胸部・左側胸部から評価する |
気管支は空気を肺胞へ配る「枝分かれした管」である
この章の要点空気は、気管から左右の主気管支へ進み、葉気管支、区域気管支、細気管支、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、肺胞へ到達します。太い管から細い管へ順に枝分かれするため、全体を気管支樹と呼びます。
気管が左右の主気管支へ分かれる部分は気管分岐部、またはカリナです。主気管支は肺門から肺内へ入り、右では3本、左では2本の葉気管支へ分かれます。葉気管支は各肺葉へ空気を送り、さらに区域気管支へ分かれます。
終末細気管支までの主な役割は空気を運ぶことで、この範囲を伝導域と呼びます。気管・気管支の粘膜では、粘液が異物を捕らえ、線毛が咽頭側へ運びます。太い気道は軟骨で支えられますが、細気管支には軟骨がなく、平滑筋によって内径が変化します。このため、細気管支の収縮、粘膜浮腫、分泌物は気流を妨げます。
呼吸細気管支より末梢は呼吸域です。ここから肺胞が現れ、実際のガス交換が始まります。したがって「換気できない」ときには、中央の気道が閉塞している場合、細気管支が狭い場合、胸郭が動かない場合など、異なる部位の問題を考える必要があります。
肺区域は肺葉をさらに分けた、画像・気管支鏡・手術の共通地図
この章の要点肺区域は、1本の区域気管支が空気を送り、対応する肺動脈枝が血液を送る単位です。肺葉より小さく、病変の位置を詳しく示すためにS番号を使います。気管支はB、肺区域はSで表すため、B6が空気を送る範囲がS6です。
国内の代表的な表記では右肺を10区域、左肺を8区域に分けます。左肺ではS1とS2をS1+2、S7とS8に相当する領域をまとめるなど、資料や分岐形態によって数え方が異なることがあります。カルテ、画像報告、手術記録を読むときは、使用されている表記法を確認します。
肺区域を知る目的は暗記だけではありません。たとえば「右下葉S6に陰影がある」と分かれば、下葉の上部で背側に近い病変を想定し、画像、体位、聴診位置、痰の排出状況を対応させやすくなります。ただし、区域境界は体表から直接見えず、個体差もあるため、体表所見だけで区域を断定してはいけません。
右上葉
- 区域
- S1
- 区域名
- 肺尖区
右上葉
- 区域
- S2
- 区域名
- 後上葉区
右上葉
- 区域
- S3
- 区域名
- 前上葉区
右中葉
- 区域
- S4
- 区域名
- 外側中葉区
右中葉
- 区域
- S5
- 区域名
- 内側中葉区
右下葉
- 区域
- S6
- 区域名
- 上下葉区
右下葉
- 区域
- S7
- 区域名
- 内側肺底区
右下葉
- 区域
- S8
- 区域名
- 前肺底区
右下葉
- 区域
- S9
- 区域名
- 外側肺底区
右下葉
- 区域
- S10
- 区域名
- 後肺底区
左上葉
- 区域
- S1+2
- 区域名
- 肺尖後区
左上葉
- 区域
- S3
- 区域名
- 前上葉区
左上葉・舌区
- 区域
- S4
- 区域名
- 上舌区
左上葉・舌区
- 区域
- S5
- 区域名
- 下舌区
左下葉
- 区域
- S6
- 区域名
- 上下葉区
左下葉
- 区域
- S8
- 区域名
- 前肺底区
左下葉
- 区域
- S9
- 区域名
- 外側肺底区
左下葉
- 区域
- S10
- 区域名
- 後肺底区
| 肺葉 | 区域 | 区域名 |
|---|---|---|
| 右上葉 | S1 | 肺尖区 |
| 右上葉 | S2 | 後上葉区 |
| 右上葉 | S3 | 前上葉区 |
| 右中葉 | S4 | 外側中葉区 |
| 右中葉 | S5 | 内側中葉区 |
| 右下葉 | S6 | 上下葉区 |
| 右下葉 | S7 | 内側肺底区 |
| 右下葉 | S8 | 前肺底区 |
| 右下葉 | S9 | 外側肺底区 |
| 右下葉 | S10 | 後肺底区 |
| 左上葉 | S1+2 | 肺尖後区 |
| 左上葉 | S3 | 前上葉区 |
| 左上葉・舌区 | S4 | 上舌区 |
| 左上葉・舌区 | S5 | 下舌区 |
| 左下葉 | S6 | 上下葉区 |
| 左下葉 | S8 | 前肺底区 |
| 左下葉 | S9 | 外側肺底区 |
| 左下葉 | S10 | 後肺底区 |
肺胞は薄い壁と毛細血管を密着させたガス交換面である
この章の要点肺胞は単なる空気袋ではありません。薄い肺胞上皮、毛細血管、両者の基底膜からなる血液空気関門を通して、酸素と二酸化炭素を拡散させる構造です。
Ⅰ型肺胞上皮細胞は薄く扁平で、肺胞表面の大部分を覆います。毛細血管内皮と非常に近接し、ガスが移動する距離を短くしています。Ⅱ型肺胞上皮細胞は、肺胞内面の表面張力を下げる肺サーファクタントを分泌します。サーファクタントは、呼気時に肺胞がつぶれにくく、次の吸気で広がりやすい状態を保ちます。肺胞マクロファージは、末梢まで到達した異物や病原体を取り込みます。
肺胞壁と毛細血管の間には、支持組織である間質があります。肺胞内に液体や炎症産物が入る、肺胞が虚脱する、間質が厚くなるといった変化は、いずれも酸素が血液へ移動する効率を下げ得ます。
看護では、肺胞の異常を呼吸音だけで判断しません。呼吸数、呼吸努力、SpO2の推移、発熱、喀痰、画像所見、活動時の変化を組み合わせて評価します。
肺循環は「空気のある肺胞」へ血液を届けて初めて役割を果たす
この章の要点全身から戻った静脈血は、右心室から肺動脈へ送られ、肺胞周囲の毛細血管に到達します。ガス交換後の血液は、通常4本の肺静脈を通って左心房へ戻ります。ここでは、肺動脈が酸素の少ない血液を、肺静脈が酸素化された血液を運ぶ点が重要です。
肺胞へ届く空気を換気、肺胞周囲の毛細血管を流れる血液を灌流と呼びます。十分なガス交換には、換気と灌流の両方が必要です。空気が届いても血流がなければ交換できず、血流があっても肺胞が換気されなければ血液を十分に酸素化できません。
この関係から、SpO2の低下を「痰が詰まったため」と一つの原因に決めつけることはできません。気道閉塞、肺胞の虚脱や浸出液、肺血流の障害、呼吸運動の低下などを、経過とほかの所見から分けて考えます。
肺門からはリンパ管や神経も出入りします。肺内、肺門、縦隔には気管支に沿ってリンパ節が配置され、感染や悪性腫瘍の広がりを評価する際に重要です。自律神経は気道平滑筋や分泌に関与しますが、実際の気道径は炎症、分泌物、薬剤など多くの要因でも変化します。
肺は胸膜を介して胸郭の動きについていく
この章の要点肺そのものには、四肢を動かすような骨格筋がありません。吸気では主に横隔膜が収縮して下がり、肋間筋の働きも加わって胸腔が広がります。その動きが胸膜を介して肺へ伝わり、肺内の圧が下がって空気が入ります。安静呼気は主に肺と胸壁の弾性収縮によって起こります。
肺表面を覆う膜が臓側胸膜、胸壁・横隔膜・縦隔の内面を覆う膜が壁側胸膜です。二つの胸膜の間にある胸膜腔には薄い液体層があり、摩擦を減らしながら肺を胸壁の動きに追従させます。
胸膜腔へ空気が入る気胸では、この連動が損なわれて肺が虚脱し得ます。液体が過剰にたまる胸水では、肺が外側から圧迫されます。どちらも患側の胸郭運動や呼吸音が低下することがありますが、程度が小さい場合や条件によって所見が明瞭でないこともあります。
呼吸で増悪する鋭い痛みは、壁側胸膜の刺激を示唆します。横隔膜中央部の胸膜刺激が肩や頸部の関連痛として感じられることもあります。ただし、胸痛には心血管、筋骨格、消化器など多くの原因があるため、胸膜の痛みと自己判断してはいけません。
聴診部位は肺葉の体表位置から決める
この章の要点肺は胸郭全体へ広がっているため、前胸部だけの聴診では全肺葉を十分に評価できません。前面・側面・背面を系統的に聴き、左右の対応する位置を比較することが基本です。
健常者の体表上では、肺尖は前面で鎖骨内側部より約2横指上、背面で第7頸椎付近まで達します。肺底の目安は前面の鎖骨中線上で第6肋骨、側面の中腋窩線上で第8肋骨、背面で第10胸椎付近です。
右水平裂は前面の鎖骨中線上で第4肋骨付近を通ります。斜裂は背面の第2胸椎付近から前下方へ走るため、下葉の多くは背側から評価しやすくなります。右中葉と左舌区は前面から側面に位置するため、側胸部の聴診も欠かせません。
これらは健常者のおおよそのランドマークです。深い吸気、体格、胸郭変形、肺の過膨張、無気肺、手術後などで実際の位置は変わります。病変の正確な局在には画像情報が必要です。
前面
- ランドマーク
- 鎖骨内側部の約2横指上
- 解剖学的な目安
- 肺尖
前面
- ランドマーク
- 胸骨角・第2肋骨
- 解剖学的な目安
- 気管分岐部の高さを推定する起点
前面
- ランドマーク
- 鎖骨中線と第4肋骨
- 解剖学的な目安
- 右水平裂
前面
- ランドマーク
- 鎖骨中線と第6肋骨
- 解剖学的な目安
- 肺底、斜裂前端
側面
- ランドマーク
- 中腋窩線と第6肋骨
- 解剖学的な目安
- 右上葉・中葉・下葉の接点の目安
側面
- ランドマーク
- 中腋窩線と第8肋骨
- 解剖学的な目安
- 肺底
背面
- ランドマーク
- 第7頸椎
- 解剖学的な目安
- 肺尖
背面
- ランドマーク
- 第2胸椎
- 解剖学的な目安
- 斜裂の開始部
背面
- ランドマーク
- 第10胸椎
- 解剖学的な目安
- 肺底
| 体表 | ランドマーク | 解剖学的な目安 |
|---|---|---|
| 前面 | 鎖骨内側部の約2横指上 | 肺尖 |
| 前面 | 胸骨角・第2肋骨 | 気管分岐部の高さを推定する起点 |
| 前面 | 鎖骨中線と第4肋骨 | 右水平裂 |
| 前面 | 鎖骨中線と第6肋骨 | 肺底、斜裂前端 |
| 側面 | 中腋窩線と第6肋骨 | 右上葉・中葉・下葉の接点の目安 |
| 側面 | 中腋窩線と第8肋骨 | 肺底 |
| 背面 | 第7頸椎 | 肺尖 |
| 背面 | 第2胸椎 | 斜裂の開始部 |
| 背面 | 第10胸椎 | 肺底 |
呼吸音や胸郭運動は「どの構造が変化したか」を示す手掛かり
この章の要点呼吸所見は、気道、肺胞、胸膜、呼吸筋のどこに変化があるかを考える手掛かりです。ただし、一つの所見だけで診断はできません。左右差、分布、発症時期、経時変化、症状、バイタルサイン、画像を組み合わせます。
高調な笛声音であるwheezeは気道狭窄を示唆しますが、原因は一つではありません。頸部で強く聞こえる吸気性喘鳴、すなわちstridorは上気道狭窄を疑う所見であり、急速な悪化に注意します。
肺野で呼吸音が減弱する場合は、その部位への気流低下だけでなく、胸水や気胸のように肺と胸壁の間で音が伝わりにくい状態も考えます。片側だけ急に弱くなった場合は、左右差が特に重要です。
肺胞内が液体や炎症産物で満たされて肺が硬くなると、通常は気管付近で聞こえる気管支呼吸音や声音が末梢へ伝わりやすくなることがあります。胸膜摩擦音は胸膜の炎症を示唆します。ただし、異常音が明瞭でなくても肺炎などを否定できません。
誤嚥性肺炎の陰影は、肺底部や背側など重力方向に分布しやすく、活動性が低い人では背側優位になる傾向があります。したがって「誤嚥は右肺だけ」と決めつけず、普段の体位と前・側・背面の所見を確認します。
wheeze、呼気延長
- 関係し得る構造
- 気管支・細気管支
- 仕組みの例
- 気道内径が狭くなり、呼気流が制限される
- 組み合わせて見る情報
- 呼吸困難、呼吸数、努力呼吸、既往、治療前後
stridor
- 関係し得る構造
- 喉頭・胸腔外上気道
- 仕組みの例
- 上気道が狭くなり、吸気時に高調音が生じる
- 組み合わせて見る情報
- 発声、嚥下、意識、顔面・口腔の腫脹
片側性の呼吸音減弱
- 関係し得る構造
- 気道、肺、胸膜腔
- 仕組みの例
- 気流低下、肺虚脱、胸水・気胸など
- 組み合わせて見る情報
- 胸郭左右差、打診、胸痛、SpO2、処置歴
気管支呼吸音・声音増強
- 関係し得る構造
- 肺胞・肺実質
- 仕組みの例
- 空気の代わりに液体や組織が増え、音を伝えやすくなる
- 組み合わせて見る情報
- 発熱、喀痰、局在、画像
胸膜摩擦音
- 関係し得る構造
- 胸膜
- 仕組みの例
- 炎症を起こした胸膜面が呼吸に伴って擦れる
- 組み合わせて見る情報
- 吸気時痛、呼吸との同期、画像
補助筋使用・陥没・奇異呼吸
- 関係し得る構造
- 呼吸筋・胸郭
- 仕組みの例
- 換気を保つための負担増加、筋疲労
- 組み合わせて見る情報
- 呼吸数、深さ、発語、意識、SpO2の推移
| 主な所見 | 関係し得る構造 | 仕組みの例 | 組み合わせて見る情報 |
|---|---|---|---|
| wheeze、呼気延長 | 気管支・細気管支 | 気道内径が狭くなり、呼気流が制限される | 呼吸困難、呼吸数、努力呼吸、既往、治療前後 |
| stridor | 喉頭・胸腔外上気道 | 上気道が狭くなり、吸気時に高調音が生じる | 発声、嚥下、意識、顔面・口腔の腫脹 |
| 片側性の呼吸音減弱 | 気道、肺、胸膜腔 | 気流低下、肺虚脱、胸水・気胸など | 胸郭左右差、打診、胸痛、SpO2、処置歴 |
| 気管支呼吸音・声音増強 | 肺胞・肺実質 | 空気の代わりに液体や組織が増え、音を伝えやすくなる | 発熱、喀痰、局在、画像 |
| 胸膜摩擦音 | 胸膜 | 炎症を起こした胸膜面が呼吸に伴って擦れる | 吸気時痛、呼吸との同期、画像 |
| 補助筋使用・陥没・奇異呼吸 | 呼吸筋・胸郭 | 換気を保つための負担増加、筋疲労 | 呼吸数、深さ、発語、意識、SpO2の推移 |
胸部X線、CT、気管支鏡は同じものを見ているわけではない
この章の要点肺の検査は、それぞれ観察できる構造と目的が異なります。画像所見、内腔所見、病理診断を区別することが重要です。
胸部X線は胸部全体を簡便に確認でき、肺野、心陰影、縦隔、胸水や気胸などの評価に使われます。一方、三次元の胸部を重ね合わせた投影像であるため、病変の位置や大きさによっては正面像で指摘しにくいことがあります。疑いが残る場合には側面像やCTが検討されます。
CTは身体の断面を示し、肺葉・区域、気管支、肺実質、胸膜、縦隔、血管の位置関係をX線より詳しく評価できます。ただし、画像だけで細胞の種類や原因を確定できない病変もあります。
気管支鏡は口または鼻から挿入し、気管・気管支の内腔を観察して、組織、細胞、分泌物などを採取する検査です。通常の気管支鏡で内腔を直接観察できるのは、直径約5mmの亜区域気管支付近までです。肺胞そのものを内側から直接見渡す検査ではなく、末梢病変では検体が採取できず診断に至らない場合もあります。
看護では、検査名だけでなく「何を確認する検査か」「どの部位から検体を採ったか」「検査だけで何が確定し、何が未確定か」を押さえます。
胸部X線
- 主に分かること
- 胸部全体の概観、肺野陰影、胸水、気胸、縦隔や心陰影
- 主な限界
- 構造が重なる。正面像だけでは見えにくい病変がある
胸部CT
- 主に分かること
- 肺葉・区域、気管支、肺実質、胸膜、血管などの断面構造
- 主な限界
- 画像だけでは原因や細胞型を確定できない場合がある
気管支鏡
- 主に分かること
- 気管支内腔、狭窄、出血、分泌物、検体採取
- 主な限界
- 末梢や肺胞をすべて直接観察できず、診断不能の場合がある
病理・細胞検査
- 主に分かること
- 採取部位の細胞・組織学的性状
- 主な限界
- 採取できた部分を評価するため、採取位置や検体量の影響を受ける
| 検査 | 主に分かること | 主な限界 |
|---|---|---|
| 胸部X線 | 胸部全体の概観、肺野陰影、胸水、気胸、縦隔や心陰影 | 構造が重なる。正面像だけでは見えにくい病変がある |
| 胸部CT | 肺葉・区域、気管支、肺実質、胸膜、血管などの断面構造 | 画像だけでは原因や細胞型を確定できない場合がある |
| 気管支鏡 | 気管支内腔、狭窄、出血、分泌物、検体採取 | 末梢や肺胞をすべて直接観察できず、診断不能の場合がある |
| 病理・細胞検査 | 採取部位の細胞・組織学的性状 | 採取できた部分を評価するため、採取位置や検体量の影響を受ける |
看護観察は「数値・動き・音・症状」を同じ時点で結び付ける
この章の要点呼吸状態は、SpO2や呼吸音だけでなく、呼吸数、深さ、リズム、胸郭運動、呼吸努力、意識、発語、皮膚色などを組み合わせて評価します。特に大切なのは、単発の値よりも普段との差と経時変化です。
成人安静時の呼吸数は12~20回/分が一般的な参考範囲ですが、年齢、活動、発熱、疼痛、不安、薬剤、基礎疾患で変化します。この範囲を診断基準や一律の報告基準として使わず、測定条件と患者の平常値を併記します。
パルスオキシメーターは酸素化の把握に役立ちますが、二酸化炭素を十分に排出できているかは示しません。SpO2が保たれていても、呼吸筋の疲労や低換気により二酸化炭素が蓄積することがあります。酸素療法中はデバイス、流量または設定、目標範囲、測定時の活動・体位も確認します。
聴診は左右の同じ高さを交互に比較し、前面・側面・背面を評価します。音の名称だけでなく、部位、吸気か呼気か、連続性、咳で変化したか、以前との違いを記録すると再評価に役立ちます。
呼吸数・深さ・リズム
- なぜ見るか
- 換気需要と呼吸中枢・呼吸筋の反応を見る
- 変化が意味し得ること
- 速く浅い呼吸、低換気、周期性呼吸など
- 一緒に確認する所見
- 意識、発熱、疼痛、血圧、薬剤
発語・表情・姿勢
- なぜ見るか
- 呼吸の余力を推定する
- 変化が意味し得ること
- 一文を話せない、起座位を好む、強い不安
- 一緒に確認する所見
- 呼吸数、補助筋、SpO2
胸郭運動の左右差
- なぜ見るか
- 左右の換気差を捉える
- 変化が意味し得ること
- 気道閉塞、無気肺、胸水、気胸、疼痛など
- 一緒に確認する所見
- 呼吸音、痛み、処置歴、画像
補助筋使用・陥没・奇異呼吸
- なぜ見るか
- 呼吸仕事量と筋疲労を見る
- 変化が意味し得ること
- 気流制限、胸郭運動低下、呼吸筋疲労
- 一緒に確認する所見
- 呼吸数、発語、意識、血液ガス
呼吸音
- なぜ見るか
- 気流、肺実質、胸膜の変化を局在化する
- 変化が意味し得ること
- 狭窄、分泌物、硬化、肺外の空気・液体など
- 一緒に確認する所見
- 左右差、分布、咳前後、画像
SpO2の推移
- なぜ見るか
- 酸素化の変化を見る
- 変化が意味し得ること
- 換気血流不均衡、ガス交換障害など
- 一緒に確認する所見
- 波形・測定状態、酸素設定、意識、呼吸努力
咳・喀痰・嚥下
- なぜ見るか
- 気道防御と分泌物排出をみる
- 変化が意味し得ること
- 分泌物貯留、感染、誤嚥、咳嗽力低下
- 一緒に確認する所見
- 痰の量・色・粘稠度、発熱、食事・体位
胸痛
- なぜ見るか
- 胸膜・胸壁・心血管などの異常を捉える
- 変化が意味し得ること
- 呼吸性疼痛は胸膜刺激を示唆するが特異的ではない
- 一緒に確認する所見
- 発症時刻、部位、放散、循環動態、呼吸音
介入後の変化
- なぜ見るか
- 効果と悪化を確認する
- 変化が意味し得ること
- 体位変換、排痰、酸素調整後の反応
- 一緒に確認する所見
- 同じ条件での再測定、本人の訴え
| 観察項目 | なぜ見るか | 変化が意味し得ること | 一緒に確認する所見 |
|---|---|---|---|
| 呼吸数・深さ・リズム | 換気需要と呼吸中枢・呼吸筋の反応を見る | 速く浅い呼吸、低換気、周期性呼吸など | 意識、発熱、疼痛、血圧、薬剤 |
| 発語・表情・姿勢 | 呼吸の余力を推定する | 一文を話せない、起座位を好む、強い不安 | 呼吸数、補助筋、SpO2 |
| 胸郭運動の左右差 | 左右の換気差を捉える | 気道閉塞、無気肺、胸水、気胸、疼痛など | 呼吸音、痛み、処置歴、画像 |
| 補助筋使用・陥没・奇異呼吸 | 呼吸仕事量と筋疲労を見る | 気流制限、胸郭運動低下、呼吸筋疲労 | 呼吸数、発語、意識、血液ガス |
| 呼吸音 | 気流、肺実質、胸膜の変化を局在化する | 狭窄、分泌物、硬化、肺外の空気・液体など | 左右差、分布、咳前後、画像 |
| SpO2の推移 | 酸素化の変化を見る | 換気血流不均衡、ガス交換障害など | 波形・測定状態、酸素設定、意識、呼吸努力 |
| 咳・喀痰・嚥下 | 気道防御と分泌物排出をみる | 分泌物貯留、感染、誤嚥、咳嗽力低下 | 痰の量・色・粘稠度、発熱、食事・体位 |
| 胸痛 | 胸膜・胸壁・心血管などの異常を捉える | 呼吸性疼痛は胸膜刺激を示唆するが特異的ではない | 発症時刻、部位、放散、循環動態、呼吸音 |
| 介入後の変化 | 効果と悪化を確認する | 体位変換、排痰、酸素調整後の反応 | 同じ条件での再測定、本人の訴え |
急な左右差や呼吸努力の増大は、変化の全体像をそろえて報告する
この章の要点緊急性を判断するときは、一つの数値ではなく、変化の速さと複数所見を重視します。急な呼吸困難、発語困難、意識変化、チアノーゼ、著しい補助筋使用、stridor、急に生じた片側性の呼吸音低下、循環不安定、酸素需要の増加は、速やかな評価と連携が必要な変化です。
報告時は、次の内容をまとめます。
- いつ、何をしているときに、どのような変化が始まったか
- 呼吸数、深さ、リズム、発語、意識、胸郭運動、努力呼吸
- SpO2の現在値と推移、患者ごとの目標範囲
- 酸素デバイス、流量またはFiO2などの設定
- 呼吸音が変化した側、部位、音の性質
- 胸痛、咳、喀痰、発熱、誤嚥の可能性、直前の処置
- 実施した観察・介入と、その後の反応
誰へ連絡するか、緊急対応チームを起動する条件は施設の体制に従います。重篤な変化では、報告のために必要な観察を延々と続けず、応援要請と初期対応を並行します。安定している場合も、体位変換、排痰、酸素設定変更などの前後を同じ条件で再評価し、効果と悪化の有無を確認します。
肺の解剖で誤解しやすいポイントを整理する
この章の要点肺は「左右に一つずつある空洞」ではありません。内部に気管支が枝分かれし、その末端に多数の肺胞と毛細血管が広がるスポンジ状の臓器です。
左肺に中葉はありません。右中葉に対応するような位置に舌区がありますが、舌区は左上葉の一部です。
S番号は身体の上下を単純に並べた番号ではなく、区域気管支の分岐に対応する名称です。左右で同じ番号が欠けたり、複数番号をまとめたりするため、番号だけでなく肺葉・左右・区域名まで確認します。
聴診器を当てた場所と肺区域は一対一ではありません。音は胸壁へ伝わり、肺葉は立体的に重なっています。呼吸音は病変を推定する手掛かりであり、画像の代わりではありません。
SpO2が正常なら呼吸状態も正常、とは限りません。SpO2は酸素化の指標であり、二酸化炭素排出、呼吸仕事量、病変の部位までは示しません。
誤嚥による病変は右肺だけに起こるわけではありません。体位や活動性によって重力がかかる肺区域が変わるため、普段の姿勢と背側・肺底部を含む所見を確認します。
患者には、「肺は空気を運ぶ枝と、酸素を血液へ渡す小さな部屋からできています。その周りを膜が包み、横隔膜が動くことで空気が入ります。今はどの部分に変化があるかを、呼吸の様子、音、酸素の値、画像を合わせて確認しています」と説明すると、検査や観察の目的を伝えやすくなります。
肺の解剖は、観察結果をつなぐための地図になる
この章の要点肺の解剖で最初に押さえるのは、右3葉・左2葉、気管支から肺胞までの分岐、肺区域、肺循環、胸膜と呼吸筋です。この地図があると、聴診位置、画像の部位、胸郭運動、呼吸困難、胸痛、喀痰の意味を同じ流れで考えられます。
臨床では、所見を一つずつ切り離さず、左右差・局在・経時変化を確認します。さらに呼吸数、呼吸努力、意識、SpO2、酸素設定、咳・痰、疼痛、体位、画像を組み合わせます。解剖は診断そのものではなく、「どこで、何が起きている可能性があるか」を整理し、安全な再評価と連携へつなげる土台です。
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- 気管支および肺(C34)国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス・2025「2.解剖」、図1~3、表1を確認。肺の位置、左右の肺葉、気管支分岐、右10区域・左8区域、肺循環、胸膜を見出し2~7、表2・4に使用。原資料を開く
- がんの冊子 各種がんシリーズ 肺がん 第7版国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部・2025「肺について」「検査」を確認。肺葉・肺門・肺胞・胸膜、胸部X線、CT、気管支鏡、生検の目的と限界を見出し2・10、表10に使用。原資料を開く
- Anatomy and Physiology 2eOpenStax(Rice University)・2022Sections 22.1、22.2、22.3、22.4を確認。伝導域・呼吸域、肺胞上皮、肺サーファクタント、血液空気関門、肺循環、胸膜、換気と灌流を見出し1・3・5~7に使用。原資料を開く
残り6件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- 体表解剖一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会・2024日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌32巻3号293~295頁、図1・表1・本文を全文確認。肺尖、肺底、水平裂、斜裂の体表ランドマークと適用限界を見出し8、表8に使用。原資料を開く
- 喀痰吸引等を必要とする重度障害児・者等の障害及び支援に関する講義/緊急時の対応及び危険防止に関する講義(令和元年度改訂版)厚生労働省・2019第II章1-1「観察と測定」、3-1「呼吸の仕組み」、3-2「呼吸障害」を確認。呼吸運動、成人安静時呼吸数、努力呼吸、平常状態との比較、SpO2では二酸化炭素排出を評価できない点を見出し1・7・9・11・12に使用。原資料を開く
- 肺症状を有する患者の評価MSDマニュアル プロフェッショナル版・2023身体診察、視診、聴診を確認。補助筋使用、陥没、奇異呼吸、全胸部領域の聴診、呼吸音減弱、wheeze、stridor、気管支呼吸音、胸膜摩擦音を見出し8・9・11・12、表9・11に使用。原資料を開く