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読む前に押さえたいこと
モニターに規則正しい頻脈が映ると、「洞性頻脈かPSVTか」「心拍数が150/分なら心房粗動か」「P波が見えなければAVNRTか」と迷いやすいものです。しかし、心拍数や一つの波形だけで決めると、原因疾患や緊急性を見落とします。この記事では成人の規則正しい狭QRS頻拍を対象に、まず循環動態、次にQRS幅・規則性・P波・RP関係・発症様式を確認する順序を示します。各頻拍の回路、ATPなどへの反応、看護観察と報告の意味までつなげて解説します。
頻脈を見たら、リズム名より先に「この頻脈で循環が保てているか」を判断する
この章の要点最初の結論は、循環動態の評価が最優先ということです。規則正しい狭QRS頻拍の多くは直ちに生命を脅かしませんが、低血圧、急な意識変容、ショック所見、虚血を疑う胸部症状、急性心不全を伴う場合は、波形の細かな鑑別よりも緊急対応を優先します。
呼吸状態、皮膚冷感・冷汗、末梢循環、血圧の推移、意識、胸痛、呼吸困難、尿量などを組み合わせて評価します。単一の血圧値や心拍数だけで安定・不安定を決めません。たとえば敗血症、出血、低酸素、疼痛が先にあり、その代償として洞性頻脈になっている場合があります。このとき頻脈は不安定さの「原因」ではなく「結果」です。逆に、突然始まった持続性頻拍が心拍出量を低下させている場合は、頻脈そのものが不安定さの原因になり得ます。
不安定と判断したら、院内の急変対応基準に従って医師・救急チームへ直ちに連絡し、継続モニター、血圧・酸素化の評価、静脈路、除細動器/パッドの準備を進めます。可能なら治療前の12誘導心電図またはモニター波形を保存しますが、治療を遅らせてまで記録しないことが原則です。
PSVTは一つの波形名ではなく、突然始まり突然止まる上室頻拍のまとまりである
この章の要点PSVT(発作性上室頻拍)は、単一の回路を示す診断名ではありません。JCS/JHRSの診断ガイドラインでは、主要な原因としてAVNRT、AVRT、ATが挙げられています。SANRT(またはSNRT)も鑑別に入ります。一方、洞性頻脈と心房粗動はPSVTそのものとは区別して考えるのが実用的です。
「上室性」は興奮の起源または回路が心室より上にあることを示します。「発作性」は急な開始・停止を示します。ただし、患者が「急に気づいた」と話しても、実際には徐々に上がった心拍数をある時点で自覚した可能性があります。発症様式は、モニターのトレンドや発作開始部分の波形と合わせて判断します。
PSVTが疑われる代表像は、成人で心拍数100/分以上、QRS幅120 ms未満の持続する頻拍です。しかし、これは入口となる所見であり、機序の確定基準ではありません。発作中の12誘導心電図と洞調律時の心電図を比較し、必要に応じて電気生理学的検査(EPS)で回路を確定します。
洞性頻脈
- 主な興奮源・回路
- 洞結節の自動能が生理的・病的刺激で増加
- PSVTとの関係
- 通常はPSVTと区別する
AVNRT
- 主な興奮源・回路
- 房室結節周囲の速伝導路と遅伝導路を使うリエントリー
- PSVTとの関係
- PSVTの主要型
AVRT
- 主な興奮源・回路
- 房室結節と副伝導路を含むリエントリー
- PSVTとの関係
- PSVTの主要型
AT
- 主な興奮源・回路
- 心房内の焦点性興奮またはリエントリー
- PSVTとの関係
- PSVTの主要原因の一つ
SANRT/SNRT
- 主な興奮源・回路
- 洞結節周囲を含むリエントリー
- PSVTとの関係
- 稀な発作性上室頻拍
AFL
- 主な興奮源・回路
- 心房内の大きなリエントリー。通常型は右房の三尖弁輪周囲
- PSVTとの関係
- 2:1伝導ではPSVTに似るが、別に捉える
| 用語 | 主な興奮源・回路 | PSVTとの関係 |
|---|---|---|
| 洞性頻脈 | 洞結節の自動能が生理的・病的刺激で増加 | 通常はPSVTと区別する |
| AVNRT | 房室結節周囲の速伝導路と遅伝導路を使うリエントリー | PSVTの主要型 |
| AVRT | 房室結節と副伝導路を含むリエントリー | PSVTの主要型 |
| AT | 心房内の焦点性興奮またはリエントリー | PSVTの主要原因の一つ |
| SANRT/SNRT | 洞結節周囲を含むリエントリー | 稀な発作性上室頻拍 |
| AFL | 心房内の大きなリエントリー。通常型は右房の三尖弁輪周囲 | 2:1伝導ではPSVTに似るが、別に捉える |
違いを理解する鍵は、「刺激が速く出る」のか「電気が輪を回る」のかにある
この章の要点頻脈の仕組みは大きく、刺激形成が増える場合と、リエントリーが続く場合に分けると理解しやすくなります。正常では洞結節から出た刺激が心房、房室結節、His束、脚、Purkinje線維へ一方向に伝わります。洞性頻脈は、この洞結節の発火が運動、発熱、循環血液量低下などに応じて速くなった状態です。
リエントリーは、伝導速度や不応期の異なる複数の経路があるとき、電気刺激が一方向性ブロックをきっかけに輪の中を回り続ける現象です。AVNRTでは房室結節周囲の二つの経路、AVRTでは房室結節と副伝導路、SANRTでは洞結節周囲、通常型AFLでは右房内の大きな回路が関与します。回路が成立すると、心拍数が段階的に上がるより、突然一定の速さに切り替わることが多くなります。
ATには異常自動能、撃発活動、微小リエントリーなど複数の仕組みがあります。そのため、徐々に速くなるATも、急に始まるATもあります。「急に始まったからすべてAVNRTかAVRT」とは限りません。
規則正しい狭QRS頻拍は、QRS幅→規則性→P波→RP関係→発症様式の順で絞る
この章の要点鑑別は一つの特徴で決めず、複数所見を重ねるのが基本です。まずQRS幅が120 ms未満かを確認します。幅広QRSなら、心室頻拍、変行伝導、既存の脚ブロック、前興奮を含む別の安全評価が必要です。狭QRSであっても体表心電図だけで100%確定できるわけではありません。
次にRR間隔の規則性を見ます。今回の中心は規則正しい頻拍です。不規則なら心房細動、伝導比が変動するAFL/AT、多源性心房頻拍などを別に考えます。規則正しくてもAFL 2:1は含まれるため、「規則的=AVNRT」とは限りません。
続いてP波または心房波を探し、洞調律時のP波と形を比較します。P波がQRSの前にあるのか、QRSの中に隠れるのか、QRS直後にあるのかを確認します。RP間隔はQRS開始から次のP波開始まで、PR間隔はP波開始から次のQRS開始までです。RP<PRならshort RP、RP>PRならlong RPと整理します。典型的AVNRTはP波がQRSに重なるか、ごく短いRPになりやすく、正方向性AVRTはQRS後に逆行性P波が見えることがあります。long RPならAT、非典型AVNRT、遅い逆行性副伝導路を使うAVRTなどが候補です。
最後に、開始・停止が急か、心拍数が徐々に変わるかを確認します。洞性頻脈では原因の強さに応じた変動が見られやすく、リエントリー性頻拍では急な開始・停止が手がかりです。ただし、患者の記憶、モニターの表示速度、薬剤や自律神経の影響により典型像を示さないことがあります。
洞性頻脈
- 発症・停止
- 多くは徐々に変化
- P波/心房波
- 洞調律と同じ形でQRS前
- RPの傾向
- 通常は評価可能
- 見落としやすい点
- 原因疾患の代償反応を不整脈だけの問題にしない
SANRT/SNRT
- 発症・停止
- 急なことが多い
- P波/心房波
- 洞性P波に酷似
- RPの傾向
- 正常時より長いことがある
- 見落としやすい点
- P波が同じなので洞性頻脈に見える
典型的AVNRT
- 発症・停止
- 急
- P波/心房波
- P′がQRS内または終末に重なる
- RPの傾向
- ごく短い
- 見落としやすい点
- V1のpseudo r′、下壁誘導のpseudo Sは洞調律時と比較する
正方向性AVRT
- 発症・停止
- 急
- P波/心房波
- QRS後に逆行性P′が見えることがある
- RPの傾向
- short RPが多い
- 見落としやすい点
- 洞調律時にデルタ波がない潜在性副伝導路もある
AT
- 発症・停止
- 徐々に変化する型と急な型がある
- P波/心房波
- 洞性と異なるP′がQRS前に見えやすい
- RPの傾向
- long RPが多い
- 見落としやすい点
- 2:1房室伝導やP波とT波の重なりで見えにくい
AFL 2:1
- 発症・停止
- 急または持続
- P波/心房波
- F波の一つがQRS/T波に隠れ得る
- RPの傾向
- 単純評価しにくい
- 見落としやすい点
- 心室拍数が約150/分でも、それだけでは確定できない
| 頻拍 | 発症・停止 | P波/心房波 | RPの傾向 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 洞性頻脈 | 多くは徐々に変化 | 洞調律と同じ形でQRS前 | 通常は評価可能 | 原因疾患の代償反応を不整脈だけの問題にしない |
| SANRT/SNRT | 急なことが多い | 洞性P波に酷似 | 正常時より長いことがある | P波が同じなので洞性頻脈に見える |
| 典型的AVNRT | 急 | P′がQRS内または終末に重なる | ごく短い | V1のpseudo r′、下壁誘導のpseudo Sは洞調律時と比較する |
| 正方向性AVRT | 急 | QRS後に逆行性P′が見えることがある | short RPが多い | 洞調律時にデルタ波がない潜在性副伝導路もある |
| AT | 徐々に変化する型と急な型がある | 洞性と異なるP′がQRS前に見えやすい | long RPが多い | 2:1房室伝導やP波とT波の重なりで見えにくい |
| AFL 2:1 | 急または持続 | F波の一つがQRS/T波に隠れ得る | 単純評価しにくい | 心室拍数が約150/分でも、それだけでは確定できない |
洞性頻脈とSANRTのP波は似るが、「原因との連動」と「開始・停止」が違う
この章の要点洞性頻脈は、洞結節が身体の需要や病態に応じて速く刺激を出している状態です。成人では洞調律の形を保ったまま100/分を超えることを指し、P波は通常、I・II・aVFで陽性、V1で二相性となります。発熱、疼痛、不安、運動、低酸素、脱水・出血、貧血、感染、心不全、甲状腺機能亢進、薬剤・刺激物などが背景になり得ます。
看護で重要なのは、心拍数を下げることだけを目標にせず、頻脈を起こした原因を探すことです。体温上昇と心拍数が並行する、輸液や疼痛緩和、酸素化の改善に伴って徐々に低下する、といった経時変化は洞性頻脈を支持します。一方、心拍数に見合う原因がない、安静でも持続する、症状が強い場合は、不適切洞性頻脈を含めて医師の評価が必要です。これは除外診断であり、「不安が強いから」と決めつけません。
SANRTはsinoatrial nodal reentrant tachycardiaの略で、資料によってSNRTとも表記される洞結節リエントリー性頻拍です。洞結節周囲の微小リエントリーが関与し、心房拍数は一般に100~150/分程度、P波は洞性頻脈とほぼ同じです。手がかりは急な開始・停止、原因刺激との連動の乏しさ、正常洞調律より長いRPなどです。ただし稀な頻拍で、体表だけの確定は難しく、EPSが必要になります。
AVNRTは房室結節周囲、AVRTは副伝導路まで含む回路であり、P波の位置と洞調律時心電図が手がかりになる
この章の要点典型的AVNRTは、房室結節周囲の遅伝導路を順行し、速伝導路を逆行するリエントリーです。心房と心室がほぼ同時に興奮するため、逆行性P′波はQRSに埋もれやすくなります。QRS終末の小さな変化として、V1のpseudo r′やII・III・aVFのpseudo Sが見えることがあります。これらは発作中だけの変化かを洞調律時心電図と比較します。
AVRTは、房室結節と心房・心室を直接つなぐ副伝導路を使うリエントリーです。狭QRSで多い正方向性AVRTでは、房室結節を順行し、副伝導路を逆行します。心室興奮の後に心房へ戻るため、QRS後のST部分に逆行性P′波が見えることがあります。
洞調律時の短いPRとデルタ波は顕性WPWを示す重要所見です。しかし、副伝導路が心室から心房への逆行性にしか伝えない潜在性WPWでは、洞調律時にデルタ波がありません。したがって、デルタ波がないことはAVRTの除外にならないと覚えます。
非典型AVNRTや、遅い逆行性副伝導路を使うPJRTはlong RPを示し、ATに似ます。体表心電図で典型的でない場合、AVNRTとAVRTを確実に分けるにはEPSが必要です。看護師の役割は機序を断定することではなく、発作中波形、開始・停止、治療への反応を欠けなく残すことです。
ATと2:1心房粗動は心房の頻拍が主体で、房室結節を通る回数が心室拍数を決める
この章の要点AT(心房頻拍)は、心房内の一か所または回路から速い刺激が出る頻拍です。焦点性ATの心房拍数は一般に100~250/分で、P′波の形が洞調律時と異なります。心房から心室へは房室結節を介して伝わるため、すべての心房興奮が心室へ伝わらないことがあります。心房波が規則正しく続く一方、QRSが一部脱落しても心房頻拍が継続する所見は、房室結節が回路に必須ではないことを示します。
AFL(心房粗動)は心房内の大きなリエントリーです。通常型では右房の三尖弁輪周囲を旋回し、心房はおよそ250~350/分で興奮します。2:1房室伝導では、2回の心房興奮につき1回だけ心室へ伝わるため、心室拍数はその約半分となり、150/分前後の規則正しい狭QRS頻拍に見えやすくなります。ただし心房拍数には幅があるため、心室拍数150/分は診断基準ではありません。
通常型AFLではII・III・aVFに陰性の鋸歯状F波、V1に陽性波が典型ですが、2:1伝導では一つのF波がQRSまたはT波に重なり、基線が平らに見えることがあります。心拍数が少し変わった瞬間、房室伝導比が変化した瞬間、迷走神経刺激やATPで房室伝導が一時的に抑えられた瞬間に、連続するF波が見えやすくなります。
AFLは単なる「速い脈」ではありません。持続時間、心房内血栓、脳梗塞リスク、抗凝固の必要性を考慮して洞調律化の時期と方法を決めます。発症時刻が不明なAFLを、安定しているからと無条件に直ちに洞調律へ戻すわけではありません。
迷走神経刺激やATPへの反応は有用だが、AVNRT・AVRTの確定検査ではない
この章の要点循環動態が安定した規則正しい狭QRS頻拍では、迷走神経刺激や医師の管理下でのATP急速静注が、治療と鑑別の両方に使われます。房室結節の伝導を一時的に抑えるため、房室結節が回路に必須の典型的AVNRTや正方向性AVRTは停止しやすくなります。
一方、AFLや房室結節非依存性ATでは、心房の頻拍自体は続き、心室へ伝わるQRSだけが一時的に減ります。その間にF波やP′波が見えれば、心房性頻拍を考える重要な情報になります。投与前から投与後まで連続した12誘導または複数誘導波形を保存する意味はここにあります。
ただし、ATPで止まったからAVNRTまたはAVRTと断定はできません。ATP感受性ATやSANRTなど、ほかの頻拍が止まることがあります。逆に、投与方法、静脈路、薬剤の影響などでAV結節依存性頻拍が止まらないこともあります。反応は候補を絞る情報であり、波形、発症様式、EPSと統合します。
ATPは一過性の胸部不快感、紅潮、息苦しさなどを生じ得ます。気管支喘息では避けることが推奨され、洞不全症候群にも注意が必要です。投与時は医師指示のもと、蘇生対応が可能な環境で心電図・血圧・症状を監視し、患者へ短時間の不快感が起こり得ることを事前に説明します。頸動脈洞マッサージは脳梗塞などのリスクがあり、患者や未訓練者が自己流で行うものではありません。
発作中12誘導心電図が最も重要で、検査は「機序の記録」と「誘因・基礎疾患の検索」に分ける
この章の要点最も価値が高いのは、症状がある最中の12誘導心電図です。発作が止まると、AVNRT、潜在性副伝導路を使うAVRT、ATの特徴が消えることがあります。可能なら開始直前、開始時、持続中、停止時、停止後を保存し、洞調律時心電図と比較します。治療を急ぐ不安定例では、記録のために治療を遅らせません。
ホルター心電図、イベントレコーダー、ウェアラブル機器は、発作が短く院内で捉えられない場合に発生時刻、持続時間、心拍数、規則性を記録する助けになります。ただし、単一誘導や脈波だけではP波とRP関係を評価できず、機序を確定できないことがあります。
血液検査は不整脈名を直接決めるためではなく、洞性頻脈や頻拍を誘発・増悪する背景を探すために行います。病歴と所見に応じて、血算、電解質、腎機能、甲状腺機能、炎症・感染、心筋虚血などを評価します。心エコーは構造的心疾患、弁膜症、心機能、頻拍誘発性心筋症の評価に使います。すべての検査を全員に一律実施するのではなく、症状と背景から選びます。
EPSはカテーテルを心内に置き、頻拍を誘発して興奮順序や回路を調べる検査です。AVNRT、AVRT、ATの詳細な鑑別と、アブレーション標的の同定に用います。体表心電図の所見には完全な感度・特異度がないため、確定と治療が必要な症例で重要になります。
看護観察は「波形」「循環」「原因」「介入反応」を同じ時間軸で結び付ける
この章の要点看護師が残すべき情報は、心拍数の単発値ではなく、変化の前後関係です。いつ、何をしているときに始まり、どの程度続き、どの症状とバイタル変化が同時に起こり、何の介入後にどう変わったかを一つの時間軸にします。
まず波形では、開始時刻、突然か徐々か、最高・持続心拍数、RR規則性、QRS幅、見えるP波またはF波、停止様式を記録します。モニターの自動診断名だけを転記せず、実波形を保存します。12誘導が取れた場合は、発作中か停止後かを明記します。
循環では、血圧の推移、意識、胸部症状、呼吸困難、肺うっ血を示す所見、皮膚冷感・冷汗、末梢循環、SpO2を確認します。SpO2低下があれば呼吸状態と波形の信頼性を再確認し、低酸素が頻脈の原因なのか、頻脈に伴う心不全で酸素化が悪化したのかを考えます。心拍数が同じでも、症状と臓器灌流が悪化すれば緊急性は上がります。
原因検索では、発熱、疼痛、不安、体位変化、摂取不足、嘔吐・下痢、出血、感染徴候、低酸素、貧血歴、甲状腺疾患、心不全、カフェイン・エナジードリンク、飲酒、喫煙、処方薬・市販薬・吸入薬の変更を確認します。これらは洞性頻脈の説明になるだけでなく、PSVTの誘発因子にもなり得ます。
報告では、①患者背景と既往、②発症時刻と突然/徐々、③心拍数・規則性・QRS幅、④血圧と意識・胸痛・呼吸困難・ショック所見、⑤12誘導や保存波形の有無、⑥考えられる誘因、⑦行った介入と反応、⑧WPW、構造的心疾患、喘息、服薬の有無を簡潔に伝えます。低血圧、意識変容、ショック、虚血性胸部症状、急性心不全があれば、通常連絡ではなく院内の緊急ルートを使います。特定の心拍数だけを全国共通の報告基準にはしません。
治療の目的は、急性期の灌流回復、機序に合う停止・心拍数調節、再発と合併症の予防である
この章の要点洞性頻脈では、発熱、低酸素、循環血液量低下、疼痛、感染など、原因の是正が中心です。代償反応として必要な頻脈を、原因評価なしに心拍数だけ下げると循環を悪化させる可能性があります。
安定した規則正しい狭QRS頻拍では、医療者の管理下で迷走神経刺激、ATP、房室結節伝導を抑える薬剤などが検討されます。選択は機序、心機能、血圧、喘息、前興奮、併用薬で変わります。不安定な場合、または薬物治療が無効・不適な場合は同期カルディオバージョンが検討されます。鎮静が可能なら行いますが、重篤な不安定例で治療を遅らせません。
ATやAFLでは、心房頻拍そのものを止めるリズムコントロールと、房室伝導を抑えて心室拍数を下げるレートコントロールを区別します。AFLでは発症時刻、血栓の有無、抗凝固状況を確認し、洞調律化に伴う血栓塞栓症を予防します。
反復して症状や受診を生じるAVNRT・AVRT、治療を要するAT、通常型AFLでは、カテーテルアブレーションが根治を目指す選択肢です。標的はAVNRTの遅伝導路、AVRTの副伝導路、通常型AFLの下大静脈-三尖弁輪峡部、焦点性ATの起源など、機序ごとに異なります。SANRTや洞結節近傍ATは洞機能障害のリスクを含め専門的判断が必要です。
安全上の境界として、頻拍が幅広QRSまたは不規則で、WPWや前興奮性心房細動が疑われる場合は、通常の狭QRS頻拍に対する房室結節抑制をそのまま適用しません。致死性心室性不整脈へ移行し得るため、直ちに医師・専門家へ連携します。
患者には「心拍数の数字」より、受診すべき症状と発作を記録する理由を説明する
この章の要点患者には、同じ速い脈でも原因と緊急性が異なることを伝えます。動悸だけで意識と呼吸が保たれている場合でも、発作開始時刻、突然か徐々か、持続時間、誘因、脈の規則性、伴う症状を記録すると診断に役立ちます。ウェアラブル機器の記録は補助になりますが、診断には医療用心電図が必要なことがあります。
失神・失神しかけ、強い胸痛、安静でも苦しい呼吸困難、冷汗を伴う強い気分不良、意識の変化がある場合は、自己判断で様子を見ず緊急に助けを求めるよう説明します。既に主治医から個別の発作時対応を教わっている患者には、その手順を確認します。
頸部を自分で圧迫する頸動脈洞マッサージや、他人の薬を使うことは勧めません。迷走神経刺激や頓用薬は、診断、禁忌、実施方法を医師と確認した人だけが、指示された方法で行います。発作時の記録と安全な受診判断が、次の診断と治療選択につながります。
「150/分ならAFL」「ATPで止まればAVNRT」など、一つの特徴だけで決めない
この章の要点誤解しやすい点を整理します。
- 心室拍数が約150/分ならAFL 2:1:疑う重要な手がかりですが、洞性頻脈、AVNRT、AVRT、ATでも同程度になります。連続するF波を確認して判断します。
- P波が見えないならAVNRT:典型的AVNRTを支持しますが、P波がT波やQRSに重なるAVRT、AT、AFLもあります。
- ATPで止まればAVNRT:AVRTのほか、ATP感受性ATやSANRTも停止し得ます。停止の仕方とP波の変化まで見ます。
- 洞調律時にデルタ波がなければAVRTではない:潜在性副伝導路ではデルタ波がないため誤りです。
- 規則正しい狭QRSなら安全:多くは安定していますが、ショック、虚血、急性心不全を伴うことがあります。患者の状態が優先です。
- 洞性頻脈は不安のせい:発熱、低酸素、出血、感染、心不全、甲状腺疾患、薬剤などを除外せず心理要因へ帰属させてはいけません。
- モニター表示がPSVTなら確定:自動解析は手がかりです。発作中12誘導、洞調律時との比較、必要時EPSで確定します。
まとめ:患者の安定性を確認し、波形を順番に読み、治療反応を次の診断へつなげる
この章の要点成人の規則正しい狭QRS頻拍では、①循環動態、②QRS幅、③RR規則性、④P波・F波、⑤RPとPR、⑥開始・停止、⑦介入への反応、の順に整理します。リズム名より先に、頻拍が不安定さの原因か、全身状態への代償反応かを考えます。
洞性頻脈は原因との連動、SANRTは洞性に似たP波と急な発作、AVNRTはQRSに重なる逆行性P′、AVRTは副伝導路とQRS後のP′、ATは洞性と異なるP′、AFL 2:1は隠れた連続F波が手がかりです。ただし、どの所見にも例外があり、体表心電図だけで断定しないことが安全です。
看護では、発作中波形と12誘導を確保し、循環、症状、誘因、介入反応を同じ時間軸で記録します。不安定所見があれば緊急連携し、安定例でも停止後の再発・徐脈・基線心電図まで再評価することで、確定診断と再発予防につなげられます。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
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この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- JCS/JHRS 2022 Guideline on Diagnosis and Risk Assessment of ArrhythmiaJapanese Circulation Society and Japanese Heart Rhythm Society・2024II.2.2およびII.2.3.1~2.3.5、表16を確認。AFL、PSVT、AVNRT、AVRT、AT、SNRTの定義・心電図所見・12誘導心電図とEPSの位置づけを見出し2~9に使用。2025年12月25日付訂正情報も確認。原資料を開く
- JCS/JHRS 2020 Guideline on Pharmacotherapy of Cardiac ArrhythmiasJapanese Circulation Society and Japanese Heart Rhythm Society・2022IV.1~3、表14~16、VI.1~2、表53・54を確認。ATPによる鑑別、安定・不安定SVTの急性期対応、AT・AFLの病態、AFLの抗凝固配慮、再発予防を見出し7、8、11に使用。原資料を開く
- 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン・2021第3章3.1~3.4、69~75頁、表57~61を確認。WPW/AVRT、AVNRT、通常型AFL、ATに対するアブレーションの目的・標的・適応の概略を見出し11に使用。原資料を開く
残り2件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- 2025 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care: Part 9 Adult Advanced Life SupportAmerican Heart Association・2025Figure 6および§17 Regular Narrow-Complex Tachycardiaを確認。低血圧、急性意識変容、ショック、虚血性胸部症状、急性心不全による不安定性の評価、モニタリング、同期カルディオバージョン、迷走神経刺激・アデノシンの一般原則を見出し1、8、10、11に使用。原資料を開く