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読む前に押さえたいこと
実習で「同じ援助でも反応が違う」「このケアは本当に役立つのだろう」と感じても、どこから研究にすればよいか迷いがちです。看護研究は、その気づきをすぐに正解へ変える作業ではありません。観察を事実として整理し、先行研究を確かめ、答えられる問いに絞り、問いに合う方法でデータを集めて解釈する過程です。この記事では、看護研究と看護過程の違い、量的・質的研究の選び方、倫理上の注意、結果・考察・結論の書き分けを、架空例で一続きに説明します。国試のEBNや実習のアセスメントにもつながる見方を身につけましょう。
看護研究は、看護の疑問を科学的方法で確かめる系統的な探究
この章の要点看護研究とは、看護に関する疑問や問題を、明確な目的と方法に沿って調べ、新たな知識につなげる活動です。日本看護科学学会は、看護活動、看護教育、看護管理などの現象について、組織的・科学的な方法で行う系統的な探究と説明しています([日本看護科学学会](https://www.jans.or.jp/glossary/nursing-research/))。
ここでいう「科学的」とは、難しい装置や高度な統計を使うという意味ではありません。何を知りたいのか、誰を対象に、どのような方法でデータを集めて分析したのかを明確にし、他者が手順や結論の妥当性を検討できるようにすることです。予想と異なる結果も隠さず、限界を含めて報告します。
看護過程も研究も、情報を集め、解釈し、行動を評価する点は似ています。しかし、看護過程との違いは主な目的にあります。看護過程は目の前の対象者に必要な看護を考えるための過程です。研究は、あらかじめ定めた方法で複数のデータを調べ、ほかの場面にも役立つ可能性のある知識を得ようとします。
業務改善は、特定の病棟や施設で現在の業務を改善することが主な目的です。ただし、「業務改善」「事例報告」と名付ければ研究倫理上の確認が不要になるわけではありません。目的、対象、データの集め方、公表範囲によって扱いが変わるため、教員や施設の研究倫理担当者へ事前に相談します。
研究結果は、個々の患者へのケアを自動的に決める命令ではありません。研究の質や適用範囲を確かめ、対象者の状態、希望、価値観、実施環境と合わせて看護へ活用します。
主な目的
- 看護過程
- 個別の対象者に必要な看護を計画・実施・評価する
- 看護研究
- 看護に関する問いへ系統的に答え、知識を得る
- 業務改善
- 特定の組織や現場の過程・成果を改善する
主な対象
- 看護過程
- 個人・家族・集団
- 看護研究
- 研究計画で定めた対象者、記録、文献等
- 業務改善
- 特定部署の業務やサービス
方法
- 看護過程
- アセスメント、計画、実施、評価
- 看護研究
- 研究疑問、研究計画、データ収集、分析、解釈
- 業務改善
- 現状把握、改善策、評価、再改善
結果の扱い
- 看護過程
- その対象者への看護へ反映
- 看護研究
- 適用範囲と限界を示して共有する
- 業務改善
- 主に当該現場へ反映する
倫理上の確認
- 看護過程
- 通常の看護でも権利・守秘を守る
- 看護研究
- 適用される指針、倫理審査、同意等を事前確認する
- 業務改善
- 研究に当たるかを含め施設規程で確認する
| 比較項目 | 看護過程 | 看護研究 | 業務改善 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 個別の対象者に必要な看護を計画・実施・評価する | 看護に関する問いへ系統的に答え、知識を得る | 特定の組織や現場の過程・成果を改善する |
| 主な対象 | 個人・家族・集団 | 研究計画で定めた対象者、記録、文献等 | 特定部署の業務やサービス |
| 方法 | アセスメント、計画、実施、評価 | 研究疑問、研究計画、データ収集、分析、解釈 | 現状把握、改善策、評価、再改善 |
| 結果の扱い | その対象者への看護へ反映 | 適用範囲と限界を示して共有する | 主に当該現場へ反映する |
| 倫理上の確認 | 通常の看護でも権利・守秘を守る | 適用される指針、倫理審査、同意等を事前確認する | 研究に当たるかを含め施設規程で確認する |
実習での「気づき」は、事実と解釈を分けると研究の種になる
この章の要点観察から研究を始めるときは、まず事実と解釈を分けます。一人の患者に起きたことは重要な気づきですが、それだけで一般的な原因や効果が証明されたわけではありません。
例えば、「患者は不安だから眠れなかった」は解釈です。一方、「消灯後に患者が『眠れない』と話した」「痛みを0~10の尺度で7と答えた」「同じ時間帯に処置があった」は、観察または測定した事実です。不安、痛み、環境音、処置など、複数の説明が考えられます。
観察を研究の種にするには、次の順序で整理します。
- 誰に、いつ、どのような場面で起きたか。
- 実際に見たこと、聞いたこと、測ったことは何か。
- 普段や前回と何が違い、どのように変化したか。
- 同時に起きていた症状、治療、環境、生活上の条件は何か。
- 同じ現象がほかの対象者にも起きるのか。
- 現時点で考えられる説明と、まだ確かめていないことは何か。
看護観察では、単独の数値や発言だけで判断せず、基準となる状態、経時変化、関連する所見を組み合わせます。この変化の意味を丁寧に考える姿勢が、研究疑問を作る基礎になります。
ただし、患者の状態悪化や危険を疑う観察結果を「研究のために記録しよう」と優先してはいけません。まず担当看護師や実習指導者へ伝え、必要な観察を再確認し、安全確保と診療上の対応につなげます。研究は通常のケアを遅らせる理由になりません。
また、日常語の「観察」と「観察研究」は別の言葉です。観察研究とは、研究者が介入や曝露を割り当てず、すでにある違いや経過と結果との関連を調べる研究デザインを指します。
問いを決める前に、先行研究で「分かっていること」と「残る疑問」を確認する
この章の要点研究の必要性は、気になったという理由だけでなく、先行研究を調べて初めて説明できます。文献検討によって、すでに分かっていること、結果が一致していないこと、対象や場面が十分に調べられていないことを整理します。
先行研究からは、次の点を確認します。
- どのような対象・場面で調べられているか。
- 現象や評価項目がどのように定義・測定されているか。
- どの研究デザインと分析方法が使われているか。
- どのような結果が得られ、何が限界として残っているか。
- 自分の疑問と既存研究の対象・条件は同じか。
- その研究は訂正・撤回されていないか。
検索結果の見出しや抄録だけでは、対象条件、測定時点、除外基準、限界まで分からないことがあります。重要な主張では原文を読み、その研究が実際に主張を支えているか確認します。ICMJEも、引用文献が主張を支えることと、撤回論文でないことの確認を著者に求めています([ICMJE Recommendations](https://www.icmje.org/recommendations/browse/manuscript-preparation/preparing-for-submission.html))。
同じテーマの研究が存在しても、直ちに価値がないとは限りません。対象年齢、療養場所、文化、測定方法が異なる場合や、過去の結果を別集団で再検証する必要がある場合もあります。大切なのは、「誰も調べていない」と強調することではなく、自分の研究で埋める研究上の不足を具体的に示すことです。
学生研究でも、検索したデータベース、検索日、検索語、採用した文献の理由を記録しておくと、文献選択の偏りを振り返れます。
研究疑問は「誰の、何を、何と比べ、何で確かめるか」まで絞る
この章の要点良い研究疑問は、調べたい対象と現象が具体的で、実施可能な方法で答えられる問いです。研究疑問は疑問文、研究目的は「何を明らかにするか」を示す文として整理すると、両者の対応が見えやすくなります。
「睡眠について調べたい」だけでは、対象、条件、測定方法が決まりません。「一般病棟へ入院している成人で、就寝前の足浴を受けた人と受けなかった人では、翌朝の主観的な睡眠満足度が異なるか」とすれば、必要な対象、比較、評価項目が見えてきます。
介入の効果や比較を問う場合は、PICOが整理に役立ちます。PICOは、P=対象、I=介入、C=比較、O=結果の略です。Cochrane Handbookも、介入効果の問いを具体化する基本要素として示しています([Cochrane Handbook Chapter 2](https://www.cochrane.org/authors/handbooks-and-manuals/handbook/current/chapter-02))。
ただし、すべての研究にPICOを無理に当てはめる必要はありません。「終末期患者の家族は、面会制限をどのように経験したか」のように経験や意味を知りたい質的研究では、「誰の」「どの現象を」「どのような状況で理解したいか」を明確にします。
「睡眠満足度」「離床」「不安」などの言葉は、人によって受け取り方が異なります。何を、どの尺度で、いつ測り、どのように分類するのかを決めることを操作的定義といいます。例えば「翌朝7時に、妥当性が検討された尺度で回答された得点」と定めれば、測定の意味が明確になります。
研究疑問を絞る際は、重要性だけでなく、対象者を集められるか、必要な期間と技能があるか、倫理的に実施できるかも確認します。仮説は量的研究で予測を検証するときに用いますが、探索的な研究や質的研究で必須とは限りません。
P:対象
- 確認すること
- 誰を、どの場面で調べるか
- 架空例
- 一般病棟に入院中の成人
I/E:介入・曝露
- 確認すること
- 何を受けた、または何にさらされたか
- 架空例
- 通常のケアとして就寝前に足浴を受けた
C:比較
- 確認すること
- 何と比べるか
- 架空例
- 足浴を受けなかった
O:結果
- 確認すること
- 何を、いつ、どう測るか
- 架空例
- 翌朝の睡眠満足度尺度
研究目的
- 確認すること
- 何を明らかにするか
- 架空例
- 足浴の有無と翌朝の睡眠満足度との関連を明らかにする
解釈の限界
- 確認すること
- この問いだけで何が言えないか
- 架空例
- 観察研究なら、足浴が改善の原因だとは確定できない
| 要素 | 確認すること | 架空例 |
|---|---|---|
| P:対象 | 誰を、どの場面で調べるか | 一般病棟に入院中の成人 |
| I/E:介入・曝露 | 何を受けた、または何にさらされたか | 通常のケアとして就寝前に足浴を受けた |
| C:比較 | 何と比べるか | 足浴を受けなかった |
| O:結果 | 何を、いつ、どう測るか | 翌朝の睡眠満足度尺度 |
| 研究目的 | 何を明らかにするか | 足浴の有無と翌朝の睡眠満足度との関連を明らかにする |
| 解釈の限界 | この問いだけで何が言えないか | 観察研究なら、足浴が改善の原因だとは確定できない |
量的・質的・観察・介入研究は、問いに合うものを選ぶ
この章の要点研究デザインは、先に使いたい方法を決めるのではなく、問いに合う方法を選びます。日本看護科学学会は、看護研究を大きく量的研究と質的研究に分類し、実験・非実験、横断・縦断など、複数の分類軸があると説明しています。
量的研究は、人数、得点、割合、時間などの数値を用いて、分布、差、関連などを調べます。質的研究は、面接内容や観察記録などを分析し、経験の意味、認識、過程、相互作用を理解します。どちらかが常に優れているのではなく、答えたい問いが異なります。
観察研究は、研究者が介入を割り当てず、対象者に生じている曝露、ケア、特徴と結果との関連を調べます。横断研究、コホート研究、症例対照研究などがあります。介入研究では、研究計画に沿って看護介入等を割り当て、その結果を比較します。介入による負担や不利益の可能性があるため、科学的妥当性と倫理的妥当性の両方が必要です。
現在の頻度や状態を知る
- 主な研究デザイン
- 横断的な量的記述研究
- 得られる結果
- ある時点の割合、平均、分布
- 主な限界
- 前後関係や原因は分かりにくい
曝露とその後の結果を調べる
- 主な研究デザイン
- コホート研究
- 得られる結果
- 経時的な関連
- 主な限界
- 交絡や追跡脱落の影響が残る
結果がある群とない群の過去を比べる
- 主な研究デザイン
- 症例対照研究
- 得られる結果
- 過去の曝露との関連
- 主な限界
- 選択や記憶の偏りを受けやすい
介入の効果を比較する
- 主な研究デザイン
- 無作為化比較試験、準実験研究
- 得られる結果
- 群間差や効果の推定
- 主な限界
- 倫理・実施可能性、脱落、一般化に限界がある
経験や意味、過程を理解する
- 主な研究デザイン
- 質的面接、参与観察等
- 得られる結果
- テーマ、カテゴリー、経験の構造
- 主な限界
- 頻度や集団全体の割合は直接示せない
数値と経験の両方を知る
- 主な研究デザイン
- 混合研究法
- 得られる結果
- 相補的な量的・質的知見
- 主な限界
- 計画・分析・統合が複雑になる
| 知りたいこと | 主な研究デザイン | 得られる結果 | 主な限界 |
|---|---|---|---|
| 現在の頻度や状態を知る | 横断的な量的記述研究 | ある時点の割合、平均、分布 | 前後関係や原因は分かりにくい |
| 曝露とその後の結果を調べる | コホート研究 | 経時的な関連 | 交絡や追跡脱落の影響が残る |
| 結果がある群とない群の過去を比べる | 症例対照研究 | 過去の曝露との関連 | 選択や記憶の偏りを受けやすい |
| 介入の効果を比較する | 無作為化比較試験、準実験研究 | 群間差や効果の推定 | 倫理・実施可能性、脱落、一般化に限界がある |
| 経験や意味、過程を理解する | 質的面接、参与観察等 | テーマ、カテゴリー、経験の構造 | 頻度や集団全体の割合は直接示せない |
| 数値と経験の両方を知る | 混合研究法 | 相補的な量的・質的知見 | 計画・分析・統合が複雑になる |
研究計画書では、対象・測定・分析・偏りへの対策をデータ収集前に決める
この章の要点研究計画書は、研究を始める前に「何を、なぜ、どう調べるか」を固定し、倫理と科学性を確認する設計図です。結果を見てから目的や主要評価項目を都合よく変えることを防ぐ役割もあります。
厚生労働省等の倫理指針では、指針の対象となる研究計画書に、目的・意義、方法・期間、対象者の選定、科学的合理性、同意手続、個人情報の取扱い、負担・リスク・利益、保管・廃棄、利益相反などを記載することが示されています([2026年一部改正倫理指針](https://www.mhlw.go.jp/content/001743409.pdf))。
対象者の選び方が研究結果を左右します。特定の曜日に来院した人だけ、研究へ協力しやすい人だけを選ぶと、その集団に特有の結果になる可能性があります。このように、結果を一定方向へゆがめ得る仕組みを偏り(バイアス)といいます。
関連する二つの要因の両方へ影響し、見かけの関連を生む第三の要因を交絡因子といいます。足浴と睡眠の架空例なら、痛み、疲労、睡眠薬、病室環境、患者本人の希望などが、足浴を受けるかどうかと睡眠満足度の両方へ関係する可能性があります。
測定では、同じ概念を同じ条件で捉えられるかを確認します。測定者、時間帯、機器、質問方法がばらばらでは、対象者の違いと測定条件の違いを区別できません。既存尺度を用いる場合も、対象集団に適しているか、何を測定する尺度かを確認します。
対象者数に共通の正解はありません。予想する差、データのばらつき、研究デザイン、分析方法、脱落の見込みによって必要数が変わります。収集後ではなく計画段階で、研究指導者や統計の専門家に相談します。
対象・場面・期間
- 事前に決める内容
- 選択基準、除外基準、施設、募集方法、調査期間
- 決める理由
- 誰に結果を適用できるか判断するため
主要な結果
- 事前に決める内容
- 測定項目、尺度、単位、測定時点
- 決める理由
- 目的に対応する結果を明確にするため
介入・曝露・比較
- 事前に決める内容
- 内容、実施条件、比較群
- 決める理由
- 比較内容を再現できるようにするため
データ収集
- 事前に決める内容
- 誰が、いつ、何で測るか
- 決める理由
- 測定のばらつきと情報の欠落を減らすため
対象者数
- 事前に決める内容
- 算定根拠、実施可能数、脱落の見込み
- 決める理由
- 過不足なく問いへ答えるため
分析
- 事前に決める内容
- 各変数の扱い、主要解析、欠測値への対応
- 決める理由
- 結果を見て分析を選ぶ偏りを減らすため
バイアス・交絡
- 事前に決める内容
- 起こり得る偏り、関連要因、対策
- 決める理由
- 結論の飛躍を防ぐため
データ管理
- 事前に決める内容
- 識別コード、保管場所、アクセス権、廃棄方法
- 決める理由
- 秘密保持と研究の信頼性を守るため
倫理
- 事前に決める内容
- 負担・利益、同意、撤回、相談先、審査
- 決める理由
- 対象者の権利と安全を守るため
| 計画項目 | 事前に決める内容 | 決める理由 |
|---|---|---|
| 対象・場面・期間 | 選択基準、除外基準、施設、募集方法、調査期間 | 誰に結果を適用できるか判断するため |
| 主要な結果 | 測定項目、尺度、単位、測定時点 | 目的に対応する結果を明確にするため |
| 介入・曝露・比較 | 内容、実施条件、比較群 | 比較内容を再現できるようにするため |
| データ収集 | 誰が、いつ、何で測るか | 測定のばらつきと情報の欠落を減らすため |
| 対象者数 | 算定根拠、実施可能数、脱落の見込み | 過不足なく問いへ答えるため |
| 分析 | 各変数の扱い、主要解析、欠測値への対応 | 結果を見て分析を選ぶ偏りを減らすため |
| バイアス・交絡 | 起こり得る偏り、関連要因、対策 | 結論の飛躍を防ぐため |
| データ管理 | 識別コード、保管場所、アクセス権、廃棄方法 | 秘密保持と研究の信頼性を守るため |
| 倫理 | 負担・利益、同意、撤回、相談先、審査 | 対象者の権利と安全を守るため |
人を対象とする看護研究は、倫理審査と同意をデータ収集前に確認する
この章の要点患者、家族、看護職、学生への質問、観察、診療記録の利用など、人に関する情報を扱う研究では、倫理審査と施設の許可が必要かを実施前に確認します。「名前を書かない」「授業で行う」「一例だけ」という理由だけで、自由に利用できるとは限りません。
国の倫理指針は、指針の対象となる研究について、社会的・学術的意義、科学的合理性、利益と負担の比較、独立した倫理審査、十分な説明と自由意思による同意、弱い立場にある人への配慮、個人情報の管理、研究の質と透明性を基本方針としています。
インフォームド・コンセントは、署名をもらうことだけではありません。目的、方法、期間、負担、予測される利益とリスク、情報の扱いなどを理解できる言葉で説明し、本人が自由意思による同意を示す過程です。同意しないことや撤回によって不利益を受けないことも説明します。
データの匿名化にも注意が必要です。氏名を外しても、年齢、疾患、入院時期、家族構成、珍しい経過などを組み合わせれば、個人が推測される場合があります。識別コードと対応表を別に管理する方法は、匿名化と同じではありません。録音、写真、動画、自由記述、診療記録にも個人を特定し得る情報が含まれます。
教員が自分の学生を募集する場合や、ケアを担当する看護師が患者へ参加を依頼する場合は、断りにくさが生じます。募集者を分ける、成績や診療に影響しないと明示するなど、関係性による圧力への対策が必要です。
学生は、倫理審査や施設確認が終わる前に患者へ研究参加を依頼したり、研究目的の録音・撮影・記録転記を始めたりしてはいけません。事例レポートや業務改善が研究に該当するか迷う場合も、教員と施設の担当部署へ事前に確認します。
生成AIなど外部サービスへ、患者を特定できる情報、診療記録、未公開研究データを入力してはいけません。研究でAIを使用する場合は、学校・施設・投稿先の規程を確認し、使用目的や方法を記録します。
結果は事実、考察は意味、結論は問いへの答えとして書き分ける
この章の要点結果・考察・結論は、同じ内容の言い換えではありません。結果は事実、考察はその意味の検討、結論は研究目的に対応した最終的な答えです。
健康科学の原著論文では、序論・方法・結果・考察からなるIMRAD形式が広く使われます。ただし、研究デザインや投稿先によって構成は異なります。ICMJEは、結果を論理的な順序で示し、考察では主な結果、考えられる説明、既存研究、限界、臨床等への示唆を検討し、結論を研究目的と結びつけるよう示しています。
結果
- 答える問い
- データは何を示したか
- 記載する内容
- 対象者数、欠測、数値、テーマ、図表、分析結果
- 避けたいこと
- 原因の推測や都合のよい結果だけの選択
考察
- 答える問い
- その結果は何を意味し得るか
- 記載する内容
- 目的への回答、既存研究との比較、別の説明、バイアス、限界、適用可能性
- 避けたいこと
- 測定していないことの断定、結果の繰り返し
結論
- 答える問い
- 研究疑問にどこまで答えられたか
- 記載する内容
- データで支持される範囲の短い答え
- 避けたいこと
- 対象や研究デザインを越えた一般化、因果の飛躍
| 部分 | 答える問い | 記載する内容 | 避けたいこと |
|---|---|---|---|
| 結果 | データは何を示したか | 対象者数、欠測、数値、テーマ、図表、分析結果 | 原因の推測や都合のよい結果だけの選択 |
| 考察 | その結果は何を意味し得るか | 目的への回答、既存研究との比較、別の説明、バイアス、限界、適用可能性 | 測定していないことの断定、結果の繰り返し |
| 結論 | 研究疑問にどこまで答えられたか | データで支持される範囲の短い答え | 対象や研究デザインを越えた一般化、因果の飛躍 |
「差がある」「関連がある」と「原因である」を区別して解釈する
この章の要点二つの項目が一緒に変化しても、一方が他方の原因とは限りません。特に観察研究で示されるのは、多くの場合、関連と因果のうち関連です。
例えば、睡眠満足度が高い人に足浴を受けた人が多くても、患者の希望、重症度、痛み、睡眠薬、看護師が足浴を行える時間的余裕などが関係している可能性があります。研究デザイン、測定の正確さ、交絡、欠測、対象者の選ばれ方を検討して、どこまで言えるかを判断します。
量的研究では、割合や平均値だけでなく、群間差や関連の大きさを示す推定値と、その不確実性を示す信頼区間などを確認します。p値だけでは、差の大きさや推定の精密さ、臨床的な重要性は分かりません。ICMJEも、p値だけに依存せず、可能な場合は効果の大きさと不確実性を示すよう求めています。
「統計学的に有意」は、患者にとって意味のある改善と同じではありません。反対に、有意差がなかったことだけで「差がない」と証明されたとも限りません。対象者数が少なく、推定の幅が広い場合などがあるためです。
質的研究では、何人が発言したかだけでなく、どのようにデータからコード、カテゴリー、テーマを導いたか、異なる経験をどう扱ったか、研究者の立場が解釈へどう影響し得るかを確認します。対象者の言葉を示す場合も、秘密保持と文脈を守り、一部の印象的な発言だけで全体を代表させません。
報告時には研究デザインに合うガイドラインを確認します。例として、観察研究にはSTROBE、無作為化比較試験にはCONSORT、質的面接・フォーカスグループにはCOREQ、系統的レビューにはPRISMA、医療の質改善にはSQUIREがあります。報告ガイドラインは研究の質を自動的に保証する採点表ではなく、読者が計画、実施、結果、限界を評価できるよう必要情報を示すための道具です([EQUATOR Network](https://www.equator-network.org/about-us/what-is-a-reporting-guideline/))。
研究中の異常、計画逸脱、情報漏えいは、安全を優先して速やかに報告する
この章の要点研究中に対象者の苦痛、状態悪化、予想外の有害事象、同意の撤回、個人情報の漏えい、研究計画からの逸脱などが起きた場合は、データ収集の継続より安全を最優先します。
患者の状態変化であれば、必要に応じて研究手順を中断し、担当看護師、実習指導者、診療チームへ観察事実と経時変化を伝えます。伝える内容は、何が、いつ、どの状況で起き、何を中止・実施し、現在どうなっているかです。通常の施設の緊急対応手順に従い、研究の測定を優先しません。
研究上の問題は、学生だけで判断せず、指導教員または研究責任者へ速やかな報告を行います。情報漏えいや重大な逸脱では、研究責任者から施設の長、研究倫理担当、倫理審査委員会等への報告が必要になる場合があります。国の倫理指針も、倫理的妥当性、科学的合理性、研究結果の信頼性、人権保護を損なう懸念を把握した場合の報告と、必要に応じた中止・計画変更を定めています。
報告後は、起きた事実、対象者への対応、データへの影響、再発防止策を記録します。計画変更が必要なら、必要な審査・許可を受ける前に自己判断で再開しません。
全国共通の一律な数値や報告経路はありません。研究計画書、施設規程、倫理審査の条件に従います。どの程度なら報告不要か迷ったときは、問題を小さく判断せず研究責任者へ相談します。
看護研究の考え方は、国試のEBNと実習のアセスメントにつながる
この章の要点看護研究の全手順が、看護師国家試験の独立した出題項目として並んでいるわけではありません。しかし、令和5年版の出題基準では、基礎看護学の思考過程として根拠に基づいた看護〈EBN〉、クリティカル・シンキング、問題解決過程が挙げられています。また、情報収集、アセスメント、計画、実施、評価、記録・報告・共有も示されています([厚生労働省・令和5年版出題基準](https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000958440.pdf))。
研究を学ぶと、国試や実習で次の区別がしやすくなります。
- 観察した事実と、自分が考えた解釈を分ける。
- 一つの所見だけでなく、基準状態、経時変化、関連所見を合わせる。
- 情報が不足している段階で原因を断定しない。
- 介入前に目的と評価項目を決め、実施後に同じ視点で再評価する。
- 根拠がどの対象・条件へ適用できるかを考える。
- 同意、自己決定、個人情報保護を優先する。
実習での看護過程も、観察→判断→再評価の流れをたどります。ただし、患者への援助で得た反応を研究データとして使用するには、通常の実習記録とは別に倫理上の確認が必要です。
EBNは、研究結果をそのまま患者へ当てはめることではありません。研究の質と限界を吟味したうえで、患者の状態や価値観、看護師の判断、現場の条件と組み合わせます。研究を読む力は、根拠を「知っている」だけでなく、「この患者に使えるか」を考える力につながります。
観察から結論までを一本の線で点検すると、研究の飛躍を防げる
この章の要点看護研究は、観察、研究疑問、方法、結果、結論が一本の線でつながっていることが重要です。途中のどこかがずれると、集めたデータでは答えられない結論になってしまいます。
基本の流れは次のとおりです。
- 看護場面の観察から疑問を見つける。
- 事実、解釈、未確認点を分ける。
- 先行研究を調べ、既知のことと残る課題を整理する。
- 対象、現象、比較、評価項目を含む研究疑問と目的を定める。
- 問いに合う研究デザイン、対象者、測定、分析方法を選ぶ。
- リスク、同意、個人情報管理を含む研究計画書を作成する。
- 必要な倫理審査と施設の許可を受ける。
- 計画に沿ってデータを集め、欠測や逸脱も記録する。
- 結果を事実として示す。
- 結果の意味、別の説明、既存研究、限界を考察する。
- 目的に対応し、データで支持される範囲で結論を示す。
- 結果を報告し、実践への適用や次の研究課題を検討する。
最後に、「結論は研究疑問へ答えているか」「その答えを支える結果があるか」「別の説明を検討したか」「誰に当てはめられるか」「対象者の権利と安全を守ったか」を確認します。
研究で得た答えには必ず適用範囲があります。「分かったこと」だけでなく、「この研究では分からないこと」を明確にすることも、信頼できる看護研究の重要な成果です。
学習メモ・復習の予定気づきを自分の言葉で残す+
わかったこと、まだ曖昧なこと、次に調べたいことを残せます。
学びを、もう一度
復習日になると、ホームと復習リストで確認できます。
次に見返す日を決める
この記事の編集方針
主要な定義・数値・推奨は、公開時点で確認できるガイドライン、公的資料、学会資料、査読論文を優先して確認しています。未確認の編集メモは公開せず、根拠の範囲や限界を区別して、読者が原資料を確認できるよう参考資料を掲載します。
詳しい編集方針を見る →参考にした資料
- 看護研究|JANSpedia 看護学を構成する重要な用語集公益社団法人日本看護科学学会・記載なし看護研究の定義、系統的・科学的探究、量的研究・質的研究等の分類。見出し1・5に対応。公式ページ本文を確認。原資料を開く
- 看護学教育モデル・コア・カリキュラム(令和6年度改訂版)【資質・能力】文部科学省・令和6年度改訂版p.12「RE:科学的探究能力」。問いの形成、文献検索、研究計画、データ収集・分析・解釈、研究倫理、研究成果の限界と発信に関する学修目標。見出し1~7・11・12に対応。PDF原文の該当ページを確認。原資料を開く
- 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針文部科学省、厚生労働省、経済産業省・2026年(令和8年8月27日一部改正)p.2~8の目的・基本方針・定義、p.10~17の研究計画と手続、p.23~25の説明事項、同意・撤回、p.28~31の結果の取扱いと問題発生時の報告。見出し5~7・10に対応。39ページのPDF原文を確認。原資料を開く
残り4件の参考資料を見る原資料・発行元・発行年を確認できます+
- Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals: Preparing a Manuscript for Submission to a Medical JournalInternational Committee of Medical Journal Editors〈ICMJE〉・2026年1月更新IMRAD、方法の再現可能性、対象・測定・分析の記載、p値だけに依存しない結果提示、結果・考察・結論の関係、文献と撤回の確認、研究でのAI使用の記載。見出し3・6・8・9に対応。公式ページ本文を確認。原資料を開く
- Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions Version 6.5, Chapter 2: Determining the scope of the review and the questions it will addressCochrane・2024年(Chapter 2最終更新2023年8月)